いつからだろうか。
夢の中に彼女が現れたのは。
幼い頃から?それとも、それよりずっと昔から?
美しい金色の髪、アニメのように整った顔、抜群のスタイル・・・。
何もない真っ白な空間に、ただ彼女は立っている。
長い髪の女性に見えたり、短い髪の少女に見えたり。
彼女は何者?ただの妄想なのか?それとも、俺が忘れてしまった誰かなのか?
夢の中で彼女に聞いても、彼女はただ俺を見つめるだけ。

今日も彼女の夢を見る。
少し前までは週に2度ほどのペースだったが、ここ最近は毎日だ。
ボヤケてよく見えなかった彼女の表情も、今ではハッキリわかるようになった。
本来ならば喜ぶべきことだが、何故か俺は喜べない。
寧ろ、彼女を「怖い」と、そう感じている。
綺麗なはずなのに、どこか歪んで、どこか狂っている・・・俺にはそう見えて仕方がない。
定期的に病院には行くが、医者は「わからない」と首を振るだけ。
次もまた、違う病院を勧められるのだろう。
俺はどうすればいいのだろうか?
彼女に会いたいのか?会いたくないのか?それとも、「拒む」ことを恐れているのか?
自分の気持ちもわからない。
ただ一つ解るのは、彼女は俺にとって「悪夢」になってしまったということ。

一人の部屋。お気に入りのゲームにお気に入りの漫画。
自分の好きなものに囲まれているはずなのに、楽しくない、安らげない。
彼女を見過ぎて、楽しいを忘れてしまったか?
そんなのイヤだ。
本当に?
嫌なのかもだんだんとあやふやになっていく。
なにもしたくない。誰とも会いたくない。そんな負の感情が自分を侵していくのを、俺はただ見ていることしかできない。
俺の中で時間が止まっていても、時間は流れ夜は来る。動物である以上もちろん睡魔もやってくる。
そして、眠ればきっと彼女もやってくる。
今日の彼女はどうなっているだろう?
俺を蝕む金色の髪、恐ろしいほど整った顔、人を惑わす身体、そして、歪んだ視線を向ける瞳。
きっと今日も俺は彼女を恐れる。
でも抗うことはできない。

「みぃつけた・・・」

突然頭に響く美しく歪んだ声。どこかで聴いたことのある声。
どうやら俺は、ついに幻聴までするようになってしまったようだ。
もうどうにでもなれ。どうせ俺には、もう何もわからない。

「長く苦しい旅も・・・これで終わり・・・」

白かった部屋の壁が紫色に変わっていく。気味の悪い無数の眼、その全てがこちらを見つめている。
異常な空間、常識では全く考えられない空間。だが俺は、この感覚を既に知っていた。
そして、悟ったんだ。

「幾千年に渡る初恋も・・・貴方を迎えてようやく実る・・・」


彼女が来たんだ。夢の世界じゃない、現実のこの場所へ。
紫色の空間は既に俺の部屋を覆い隠し、俺の身体は動かなくなっていた。
予想できる未来は少ない。
自由の未来は、きっと無い。
だから俺は、考えることをやめた。

「久しぶり、○○君・・・私のこと、憶えてる・・・?」

「忘れてしまったの・・・?でも良いの、貴方はずっと私の夢を見ていてくれた・・・。」

「前世、その前世、そのまた前世からずっとあなたを追った甲斐があったということよね・・・ふふっ。」

「私たちはずっと昔から結ばれる運命にあった・・・なのにちっぽけな事故が貴方を私と世界から奪った・・・まだ恋人にすらなっていなかったのに・・・。」

「でももうそんなことは起こらない。だって私が貴方を護るもの・・・ねえ○○君?私ね?人間をやめたの。貴方を迎えて、貴方を護り、貴方と今度こそ結ばれるために。」

「大妖怪となった今の私なら、貴方のどんな願いも叶えてあげられる。だからもう泣かないで?恐れないで?」

「私がいなくて寂しかったでしょう?だからきっとそんなに震えているんだわ・・・声も出ないほどに弱っているのね・・・?」

「でも大丈夫よ・・・一からやり直しましょう・・・?目を瞑ってリラックスして・・・?私が抱きしめている間に終わるからね・・・。」

朝が来た。
聞き慣れた鳥の声。見慣れた朝日。
さっきまでのは夢だったのか。
そうか、そうに違いない。
だが目の前にあるものは、知らない天井。
嫌な予感がして、起き上がって辺りを見ようとしたが、何故か起き上がれない。
何故ベッドの横に柵がある?これではまるで、ベビーベッドだ。
寝ぼけているんだと腕で目を擦る。
そしてふと自分の手を見た時、ようやく気がついた。
丸く小さく変わった手。クリームパンのような、赤子の手。
俺は赤ん坊になっていた。なんだ、これも夢か?そう思わずにいられなかった。

「おはよう○○君。よく眠れたかしら?」

後ろから届いた聞き覚えのある声。
ああ、彼女だ。
なら俺は、さっきの夢の続きを見ているんだ。
そうだ。そうであってくれ。

「自分の姿にびっくりしちゃってるのかしら?もう可愛いんだから・・・。」

彼女が俺を抱きしめる。
ハッキリとした人の感触。
そうか。これは現実なんだ。

「夫となる人を赤ちゃんから育てるだなんて、普通じゃできないことよね。ふふふっ、嬉しくてゾクゾクが止まらない・・・」

俺に残された未来は、どうやら一つしかないようだ。

「あっそうそう。今の私には2つ名前があるのだけれど、どちらが良いかしら?紫と呼ぶか、昔みたいにメリーと呼ぶか・・・それとも、ママなんて呼んじゃう?」

永遠に彼女に囚われる。
それが俺にある唯一の未来。

「貴方が呼びたいように呼んでくれて構わないわ、私を意味するならば何でもね・・・」

彼女は俺を護ってくれる。
ならもうそれでいいじゃないか。

「時間に期限は無いもの、ゆっくり決めればいいわよね。過去の話も、これからの話も知りたかったら聞いていいからね?」

彼女は俺を求めてくれる。
きっとそれは幸せだ。

「はぁ・・・○○君の良い匂い・・・久しぶりの匂い・・・蕩けそう・・・ずっと嗅いでいたい・・・」

俺を愛してくれるのは彼女だけ。
そうに違いない。

「もう、絶対に離さないからね・・・」

ああ、おれはなんてしあわせなんだろう。






感想

  • 素晴らしい… -- 名無しさん (2018-03-03 11:26:53)
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最終更新:2018年03月03日 11:26