宿に入ろうと思い 、扉を叩く。その場所は町の外れにある。
やはりこういったものは人目につくところには立てづらいのであろう。
人目を避けるようにそこに男たちが通って行く。
好みの店を探そうと思い軒先を眺めながら辺りをぶらぶらする。
軒先には女性の代わりに写真がちらほら貼ってある。
おそらく天狗が撮った写真なのであろうもので中々綺麗に撮れていた。
最も、外界のいわゆるそういうところと同じものであったので、ゆえに少々の苦笑はあるのであったが、
しかし加工技術を駆使した偽装工作といったものが無いに等しいものである以上、期待で胸が膨らんでいく。
気に入った写真を見つけ扉を叩こうとすると、ふとどこからか見つめられている視線を感じた。
怪しい店に入るために少々他人の目を気にしすぎているのだろう。そう無理やり納得させ店に入った。
もしもここで、空中に浮いていた首を見つけることができたのならば、この後の展開は少々違ってたのかもしれないが。
まあ、とは言っても後の先か、先の後かそういった程度の違いしかないのであるのも、また事実である。

 店に入ると老婆が話しかけてくる。
「お兄さん、こういったったお店は初めてですか。」
「ああ、恥ずかしながら初めてだ。」
こちらの格好をじっと見てなおも質問してくる。
「お兄さんひょっとして…外来人かい?」
「そうだ、服装でわかったのかな。」
「それじゃあお兄さん、妖怪とかそういった者に関わりはあるかい。」
「それはどうしてなんだ。もちろんそういったことはないんだが。」
傍目にわかるほどに安堵する老婆。
「いやね、それはそうですよ。なにせここでは妖怪はご法度ですからね。あいつらには常識が通用しやしない。
間違えて恋人のお客さんでもとろうものなら、ここら辺一帯を壊しに来ますからね。」
「そんなに乱暴なのか。」
普段とは違うことを聞き驚いてしまう。
仕事柄、何人か館にいる彼女達と知り合う機会があったが、そのような素振りは一切見せていなかった。
あまりにも違うギャップに驚く。
「いやー壊されるだけならまだマシかもしれませんね。最近浮かんだ遊女、聞くところによると竹林に触れたらしいですからね。」
「竹林…なんのことだ?」
「いえいえ、知らないのならいいですよ。こんなところでするような話じゃありませんからね。さてお客さん、奥に進まれますかね。」
いよいよ女性に体面できるとわかり、期待に胸が膨らむが、突如乱入者によって扉が勢いよく開けられた。
「ちょっとすまんね、その人はウチ預かりだ。」
頭巾をすっぽりと被り、マフラーを口元まで掛けた人物が中にズカズカと入ってくる。
大胆な行動とは別にして、その声の高さからおそらく少年なのであろう。
歳が若いにも関わらず、その人は老婆と対等に話している

「いやー驚いた、蛮奇さんのところと関わりがあるとは知りませんでしたよ。 本当に知らなかったんですよ。」
「まあ先方からの無理からの頼みだから、そこは分かってくれるさ。それじゃウチに来てもらっていいかな。」
その人物に連れられて店を出る。こちらはいいところでお預けを食らってしまったので、少々あたりがきつくなる。
「一体何だって言うんだ。こんな店までわざわざ押しかけて、一体何をしようっていうんだ。」
「いやいや実は旦那の方が、ちょっと訳ありの店の御用達に載っていてね。何か見に覚えがあるんじゃないかい。」
「そんなことあるはずないだろ、大体今日ここに来たのは初めてなんだから。」
「そいつは重畳。こちらの首がまたひとつ繋がるというものだよ。さあ、この店に入った入った。」
数分ほど歩くと一軒の店があった。
この店は写真すら掲げていない。他の店とあまりに違い
目立とうとするのではなく周囲に溶け込こもうとしている。
およそその手の店とは思えないその形ぶりに疑問の声が出る。
「おいおい、本当にこの店なのか。これじゃあ怪しすぎる、変なぼったくりなんじゃないのか。」
思わず踵を返して立ち去ろうとするが、ちょうどいい具合に中から人が出てきた。
こちらの人もやはりフードを深くかぶっている。胸が大きく膨らんでいたので、おそらく女性なのだろうと思った。
「あら蛮奇、この人がお客さん?ささ、入ってくださいな。」
立ち去ろうとするこちらをややもすれば強引に店内に案内する。おかげで帰る機会を逃してしまった。
「おい、この人が相手なのか?」
連れてきた少年に尋ねる。
「いやいやまさかまさか、そんな訳はないさ。絶対に、絶対にだ。」
いやに否定する少年。まるで誰かに聞かれるとマズイかのように、必死で誤りを訂正していた。
店の中に入りお茶を出された。
自分にぴったりの人が来ると調子の良いことを言われて、しばらく待つように言われ、
茶を飲んでしばらくくつろいでいると興奮が冷めてきたのが急に眠くなった。
無雑作に置かれた座椅子に座りしばらく目を閉じてると、いつのまにか眠ってしまっていた。
「はい、こちらが例の…。」
「勿論指一本も触れては…。」
「それでは…え?運ばれ…?いえいえ、どうぞ、どうぞ。」
何やら周囲でざわざわと声がしていたが、普段の疲れがぐっすり眠ってしまっていたので、
自分が眠りから起き上がることがなかった。

「うーん、よく寝た。」
爽快な気持ちで起き上がる。いつのまにかぐっすりと眠っていたようで、思いっきり伸びをする。
奥の部屋に通されたのだろうか、部屋の中の丁度が変わっており高級そうなベッドに寝かされていた。
はて、こんなベッドが果たしてあんなボロ家にあったのだろうか。
そういった疑問は、タイミング良く扉が開けられたたことによって中断された。
「お客様、ご機嫌はいかがですか。」
しずしずと背の低い女性と、それに従うように背の高い女性が入ってくる。
部屋の照明のせいだろうか、なぜだか焦点が合わず目の前の女性の顔がわからない。
どこかで見た気がするのであるが、それはどこで見たか思い出せない。
こちらが疑問に思っていることが相手にも伝わったのだろう。
背の低い女性が問いかけてきた。
「お客様何か気がかりでも?ひょっとしてこういう場はお嫌いですか?」
何かを期待するような女性。ひょっとして慣れている男性だったら嫌なのだろうか。
まさかとは思えども、やはり慣れている男性はいろいろ怖いものがあるのだろう。
外界ならばそう言ったものはある程度防げるのであるが、この幻想郷ではそれもままならないのであろう。
「いや、どこかで貴女を見た事があるような気がしてな。」
-おお-と後ろでどよめく背の高い女性。
「どこででしょうか? ひょっとして、好きな女性に似ているとかですか?
その女性に似ているから悪い気がするとか…?いやん、困っちゃいますわ、お客様。」
頬に手を当てて身をくねらせる女性。なぜか照れているようなのだが、こちらにはその原因が全く分からない。

「いや別に好きな女性などはいない。」
「ア゛ン゛?!」
「落ち着いてくださいお嬢様、あくまでも薬のせいです、薬のせいで頭が混乱しているんです。」
なぜだか急に客に逆ギレをする女性。
外界ならばそのようなことは、ついぞ見なかったであろうが、ここ幻想郷では常識に囚われてはいけないのだろうか。
恐らくは後ろの女性が必死で止めているからして、そのようなことはないのであろう。気を取り直した女性が話を続ける。
「それではお客様、私がたっぷりとサービスをさせて頂ますわ。どうぞご堪能下さい。」
「いや、そもそもが自分にピッタリという人が来るという話だったじゃないか。何か話が違うぞ。
俺が選ぼうとしたあの女性とは全然違うじゃないか、一体どうなってるんだ。」
固まる目の前の女性。空気が凍った音がした。
「お客様、私の年齢が少々若すぎるということでしょうか。」
青筋を立てて今にも降り出しそうな目の前の女性。本当は違うのであったが 、
さすがにそれを言うと本気で二人とも怒り出しそうだったので、とりあえず適当なことを言って合わせておく。
「いや、本当、そ、そうなんだよ。いやー実は俺、年上が好きなんだ。」
「本当ですか、お客様。」
「うん、ほんとほんと。」
この場を切り抜けるために、心にも思っていないことを言っておく。
写真に写っていた女性に会うのは今度にしておこうと思った。
「へえ…。」
怒りが解けない女性。思わずヘマを打ったかと思ってしまった。
「若さ抜群、豊満な体をお楽しみ下さい…。ですってねぇ咲夜。」
怒りながら写真を弄ぶ女性。目の前で一枚の写真が見る間に灰になっていった。
「お嬢様の魅力で、ゆっくり過ごしていただければ、きっと分かっていただけるかと存じます。それでは。」
そう言って退出していく女性。 後には二人だけが残された。

「○○の馬鹿!」
そう言って自分に突進してくる女性。華奢な見た目の癖に、軽々と自分を突き飛ばしてきたので、
二人してベッドに飛び込んだ。
「ねえ、どうしてそういうこと言うの!」
泣き出しそうな女性。初対面の筈なのだが、何故だか悪いかと思ってしまった。
「すまない、どこかで会ったはずなのだか思い出せない。」
「馬鹿、そういうところじゃないのよ!もう良い!薬を吸い出すから。」
癇癪を起こして首元に吸い付く女性。
いきなりの熱烈なキスに、この場を忘れて思わず手で遮ぎろうとしてしまったが、
何の抵抗も無いかのよう彼女に押し切られてしまった。
目の前の靄が取れてきて次第にはっきりと顔が見えてくる。
目の前にいたのは時々仕事で会ったことのある彼女だった。
ああ、まずい。いや、まずいなんてものじゃない。とてつもないピンチに自分が落ちたことに気づいてしまった。
とりあえずこの場をどうにかしようと考えたが現実は非情である。
目の前の少女は何かを決心したのか、薬が抜けたはずなのになおも自分の首筋に牙を突き立てて血を飲んでいる。
「ゴメン、レミリア。」
窮余の策として彼女の頭を撫でておくと、滲んだ涙が胸に擦りつけられた。
「馬鹿…。」
あやすように背中を擦る。抱きしめる力が強くなった。
「大丈夫、レミリアのこと好きだよ。」
「本当…?」
勢いが剥がれ不安が顔に現れる。彼女の口元に唇を近づける。
「もう、騙されないんだから…。」
そう言いながらも拒まない彼女。言葉とは裏腹に態度は正直であった。
「もう、もう…。馬鹿…。」
嫉妬と不安と喜びが同居する彼女にキスを降らせて感情をかき混ぜる。
「○○があんな女に行かないように、ちゃんとしておくから…ね。」
最早自分が写真の女性に会うことは二度とないのだろう、そういう確信があった。






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最終更新:2018年03月19日 22:19