あーあ暇だなー。なんかないかなー。
○○どこ行ったんだろ。
「永遠亭に行ってくる」なんて言ってたけど、遅いなー。
○○がいないとつまんないし、早く帰ってこないかなぁ。
迎えに行こうかな? でも今日は良い天気でめんどくさーい。太陽きらーい。
お腹空いた―。お土産欲しいー。
まぁ別に妖怪だから食べなくても死なないんだけど。
あー暇だー。そんな風にゴロゴロして――多分一時間くらい?――たらやっと○○が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりー。お腹空いたー」
帰ってきた○○にご飯をねだる。ちょうど腕に袋抱えてるし、きっとお土産だ。
それについて尋ねると「とりあえず飲んでみて」と取りだしたものは細長いガラスの瓶。
中には緑色の液体が半分くらい入ってる。美味しそうには見えない。
「何これ?」
とりあえずご飯ではなさそうだ。
「薬ー?」
「頭がよくなる薬なんだって。永琳がくれた」
「飲むだけで頭がよくなるの? すごーい」
世の中にはなんて便利なものがあるんだろう。これを量産すれば世の中天才だらけだね。
正直に言えば怪しいけど、悪いより良い方が助かるよねー。
うん、飲もう飲もう。決心して○○から瓶を受け取ると一気に飲み干した。
「どうだ?」
「ほんのりフルーティー」
割といけるかもしれないと暢気に考えた次の瞬間――世界がひっくり返った。
結論から言おう。薬は本物だった。
月の頭脳が一体どんな気まぐれであの薬を作ったのか定かではない。
もしかしたら私ではなく○○に飲ませたかったのではないかと思うが、あれ以降も○○はたまに永遠亭に行くし、
同じものを飲んだとは一度も聞いていない。特に変わった様子もない。
むしろそれをいうなら私だろう。
劇的にとはいかなくとも、以前よりは確実に。
例を挙げると薬を飲む前の私は家事なんて絶対にやらなかったし、やろうとも思わなかった。
なまじ○○が家事万能な分それに頼り切っていたのだ。
しかし今ではそれは悪いと積極的に家事をするようになっていた。○○はすごく驚いていたが。
次に変わったと言えば恐らく倫理や道徳だろう。
ちょっと前までは人を襲うこともやぶさかではなかった(もっともめんどくさがってやらず仕舞いだった)が、
今ではそんなこと考えすらしなくなった。
むしろ人間が襲われていたら守りたいとさえ思う。
たとえ醜い妖怪だと罵られても構わない。命を救う代償ならば安いものだ。
○○にこれを伝えたら、守ることはともかく、自分の命も大事にしろと言われた。
それが素直に嬉しかった。
そして最も変わったのは――○○に対して。
昔はなんとなく一緒にいたいなとか、ご飯をくれる良い人、とかその程度の認識だった。
今となっては、はっきりと恋心を自覚している。
何をしていても目で追ってしまう。会話するだけでどうしようもなく胸が高鳴る。
いつまでも傍にいたい。○○が愛おしい。
そこに間違いはなかった、なかったのだが――
「○○はどうして私と一緒にいてくれるの?」
そう言うと、○○はちょっと困った顔をして「どうしてって言われてもなぁ」なんて笑った。
「僕が一緒にいたいから、としか言えないよ」
額面通りに受け取れば舞いあがりそうになる。
実際は家族として、という意味なので意気消沈だが。
私は――実年齢はともかく――まだ子供だ。なによりもこの幼い外見がそれを証明している。
まだ子は宿せないし、当然そのための行為で○○を満足させることも出来ない。
もちろんいつかは私も大人になる。その時○○は私の傍から消えている。
そんなの、耐えられない。胸が引き裂かれそうになる。闇を操る者としては考えられない程、心が沈んでいく。
片や人間、片や妖怪。どう足掻いても覆らない寿命差。
これが妖怪の賢者や月の頭脳であれば話は違っていたのかもしれない。
でも私は人間より少し強くて、頑丈な、闇を纏うだけの弱い妖怪だ。
そこにはどんな奇跡さえ起こらない。
「私、○○のことが好きだよ」
精一杯の――無意味な――勇気を振り絞る。
○○は一瞬驚いた顔をして、僅かに逡巡してから私の好きな笑顔でこう告げた。
「僕も
ルーミアのことが好きだ」
だったら少しくらい照れてくれたって良いのに。
同じ言葉が――1%も伝わることなく――返ってきて、ああこれで私たちは両思いだと心の中で自虐した。
この恋は叶わない。
その事実が、自分でも制御できない闇となって私の中で少しずつ形を成していくのが怖くて、私は泣いた。
感想
- この感じ大好き…素晴らしい… -- 名無しさん (2018-07-03 08:46:36)
最終更新:2018年07月03日 08:46