足元に付けられた枷と、それに続く縄をぼんやりと眺める。

――妖怪の山、山中――

 ここへ来てからかれこれどれくらいの月日が過ぎただろうか?
 始めの頃は健気に壁に傷などつけて数えたりしていたのだが、
 見つかってしまってからは自粛している。
 いくら僕を監禁している本人とはいえ、
 女の子の悲しそうな顔は出来るだけ見たくない。
「○○、ここにいたんだね」
 声のした木陰へ視線をやる。現われたのは、僕を監禁した張本人。
「あ、椛。おかえり」
「うん、ただいま。散歩?」
 少し探るような視線をのらりくらりとかわす。
「そんなとこ。動かないと鈍っちゃうしね」
 至極当たり前の事を言ったつもりなのだが、途端に椛は顔を曇らせる。
 小走りに駆けてくると、僕の腰に抱きついてきた。
「○○は、どこにもいかないよね?」
 何処か切実さをはらんだ物言い。
 いつからこの子は、こんなにも変わってしまったのだろうか。
「大丈夫だよ、椛。僕は何処にも行かない」
 うっすらと目に涙すら溜めている少女の頭を撫でてやりながら、
 僕はそんなことを考えていた。
「ずっと、一緒?」
「うん、ずっと一緒だ」
「……えへへ」
 ようやく落ち着いたらしい。頭をぽんぽんと叩くのを合図に、
 ゆっくりと僕から離れる。……左手を握り締めたまま。
「そろそろ暗くなってきたし、帰ろうか、椛」
「うん!今日の晩御飯はねー……」

 ……椛の手前、付けっ放しにしているけれど。
 この縄、すぐ解けるんだよね。
 ああ、駄目だ、見てられない。
 椛は僕が守らないと――

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最終更新:2011年03月04日 01:31