「私、好きなんですよ。詰め将棋って」

パチリ。
彼女は遠くを見ながら将棋を打つ。

「一手、一手、少しずつ相手を追い詰めて行くのってスリルを感じるんです。でもね○○さん」

彼女はこっちを見てない。盤上も見ず機械的に駒を打つ。
小皿に盛られたウメボシを一粒口に放り、酸味の強そうな昆布茶をずずっと啜った。

「白狼の血でしょうかね。一気に獲物を仕留めるのも好きなんです。哨戒役なんで滅多に闘いはしませんけどね」

チラリと流し目で○○の方を見てから、彼女はまた一手をぴしりと打つ。
○○は戸惑いと彼女に対する畏怖で何も言えず、盤上を眺めるしかなかった。
素人でも解る。王手まで後数手。王は逃げることも叶わず追い詰められるのを待つのみ。

「ええ、貴方が少し前に言っていた異常の件、あれは私の仕業です。寝室に誰かが忍び込んだのか? 私ですよ」

ぴしり。

「だって貴方は私に対して踏ん切りの付かない態度ばかりとって。そのくせ他の女には愛想を振るう。気の長い私でも怒りたくなりますよ」

ぴしゃり。ずずっ。

「ゆっくり、詰め将棋のように貴方を私だけに向けようとしてたんですよ。最初は。でもあんだけ気の多さを見せつけられれば……焦ります」

ピシッ!

「だから、一気に王手を掛ける事にしました。それがあの異常なんですよ。○○さん、よく眠ってましたね」

ピシャン。

「当たり前ですよね。月の薬師に特注した媚薬も配合した睡眠薬ですよ。○○さん、眠りながらアソコを金棒みたいにしてましたよフフフ」

ピシャ。

「最初は痛かったけど、直ぐに気持ち良くなって……そして、授かったんです。ちゃんと計算してましたしね」

ピシャン。椛の打つ手が止まった。
動揺する○○は、再び盤上を見た。
盤上に王の逃げ場は、何処にも無かった。

「経過は順調ですよ○○さん。まさか○○さん、私とこの子を捨てたりはしませんよね?」

○○の逃げ場も、最早無かった。

「王手、ですね。私、最初は男の子が良いと思うんですけどどう思いますか○○さん……いえ、あ な た 」

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最終更新:2011年03月04日 01:31