あなたはいわゆる普通の東方オタクだ。
たまにヤンデレ系のSSを書いては東方ヤンデレスレに投稿している程度の。
しかし、最近ネタが無い。
困り果てたあなたは仕方なく一旦東方から離れ、他の作品にネタを求めに行くことにした。
嫌な予感がするような……?
東方から離れて約半年が経過した。
気がついたら他の作品に夢中になってSSを書いていない。
久々に訪れたヤンデレスレはかなり閑散としていた。
あまり活気がない、といったほうが正しいか。
仕方ない、と言わんばかりにあなたは久しぶりにSSを書き始めた。
……妙な寒気を感じる。
書き始めて5分が経過した。だめだ、思いつかない。
気がついたら半年のうちにあなたの頭の中で動き回っている
……つまりは妄想で動いているキャラクターが別作品のキャラクターばかりになっていたのだ。
……あなたは考えた。
このまま東方ヤンデレスレからおさらばしてしまってもいいのではないか?
あなたは考えてしまった。
自分は……なんで、東方でヤンデレSSを書こうとしているんだ?
あなたは気がついてしまった。
自分はただヤンデレのSSを書きたいだけで、別に東方でなくてもいいじゃないか――
……どこからか視線を感じる。
それから約1ヶ月後、あなたは別のSSサイトで様々な作品のヤンデレSSを書いていた。
やはり過疎っている東方ヤンデレスレとは違い活気がある。
その証拠に、あなたの作品には決して多いとは言えないが、それでも感想がついている。
あなたは嬉しくなり、様々なSSを書く。
……そういえば、あなたが東方ヤンデレスレにSSを投稿し始めたのは、最初のSSに感想をもらえたからだ。
ちょっとしたホラー風味、その結果「怖かった」という感想をもらえた。
それが嬉しくて、SSを本格的に書き始めたのだった。
なぜか、そんなことを思い出した。
未だ、視線を感じる。
ある日、久しぶりに東方でヤンデレSSを書くことにした。
さて、書き始めよう。
……短めでもいいよね。
あなたはそう言い訳をしてから執筆を始めた。
…………
俺は目の前の女を睨みつける。
「そんな怖い目は似合ってないぞ、〇〇」
どの口が言うんだ?俺をお前の都合で、
「だけどまあ、その目が私だけに向けられているなら、それもまたいいか」
死ねなくして、外に帰れなくしたおまえが。
俺は何度目になるかわからないが奴めがけて拳を振るう。
この力すらあいつが俺に埋め込んだ心臓のおかげなのだから憎たらしい。
あいつが拳を避けたのを見て、振り向きざまに炎を放つ。
「うんうん、よく使いこなせてるじゃないか。それでこそ〇〇だな」
黙れ、黙れ。だまれ!
「そう、それでいい。私にだけ、すべてを向けてくれ」
狂ったような笑顔であいつは言う。
外の世界に帰りたい。あいつにそう言って、別れを告げたのが間違いだったのだろうか。
後ろから心臓を貫かれ、代わりにあいつの心臓を埋め込まれ、こんなことになったあの日を忘れない。忘れられない。
「その殺意すら愛おしい。その狂気すら愛おしい――」
さあ、今日もあいつを殺すために。
炎を放ち、あいつの銀の髪を燃やそう。
拳を振るい、あいつの白い肌を赤黒く染め上げよう。
蹴りを放ち、あいつの細い腰を砕こう。
「――だから、私を殺し続けろ、〇〇」
――それが、今の俺にできることなのだから。
…………
よし、うまくできた。あなたが久しぶりに作ったヤンデレSSは自画自賛してしまいたくなるほど会心の出来だった。
あなたはそれを……何をトチ狂ったのかこれまで上げていた別のSSサイトだけではなく、
久しぶりに東方ヤンデレスレにも投稿してしまった。
……布団の上に何か色とりどりの髪の毛があった気がする。気のせいだろう。
投稿してから数日後、少しの感想があなたのSSにつけられていた。
久しぶりに東方ヤンデレSSを書いたかいがあったというものだ。
東方ヤンデレスレの方の感想はいつもどおりだった。
が、別のSSサイトの方につけられていた感想は何か奇妙なものが紛れていた。
- ようやく戻ってきたね
- ずっと待ってたんだよ?
- もう逃さないからね
……何だこれは?それがあなたの感想だった。
まるで――パソコン越しに、見られているような。
そんな奇妙な感覚に襲われる。
気のせいだろうとあなたは首を振る。まさか、そんな非科学的なことが……
そう思った矢先、あなたのパソコンから謎の音声が流れる。
「さあ、あなたもこちらへ――」
なんだ、これは。
「あなたを望んでいる人は――」
やめろ、気味が悪い、何かがおかしい。
「他の世界にはいなくても――」
やめてくれ、やめてくれ。やめろ、やめろ!
「――幻想郷には、いるのですから」
瞬間、あなたは力任せにパソコンを閉じ……ることはできなかった。
ディスプレイから出てきた腕が邪魔をしている。
あなたは恐怖を感じパソコンから逃げるように遠ざかる。
途端に、浮遊感を感じる。
何か、足を踏み外したのだろうか?いや、違う、
目玉だらけの気味の悪い空間には心当たりがある。
これは……
あなたはこの先どうなるか、簡単に予想ができてしまう。できてしまった。
絶望を感じ、すぐやってくるであろう未来を察し、あなたは意識を手放した。
最後にあなたは、こう思った。
どこで、間違えたんだろう。
感想
最終更新:2018年06月29日 21:28