「探偵のさとり

 春の陽気と緑豊かな高原の風を受けたコテージは爽やかな空気に満ちており、そこに建てられたリゾート用のコテージは都会で生活する人間を癒やすために最適に作られていた。本来ならばそこにいる来客達もそこで快適な空間を過ごす筈であったが、その場は今、疑心暗鬼に包まれていた。無言で椅子に座る面々。グルリと一同を見回した霊夢が堪りかねたように声を出した。
「で、○○は結局どこにいるの?」
「さて、知らないぜ。」
椅子にもたれた魔理沙が霊夢に真っ向から声を返す。ギシリと椅子が歪み、その反動と共に霊夢の方へ言葉が返ってきた。
「大方誰かのヒステリーに、嫌気が差したんじゃないのか?」
明確な反感と敵意。普通ならば言うのに躊躇するようなものであっても、同じ学校に通う二人の間にはそのような垣根は存在しないのであろう。良くも悪くも。もっともこの場ではその遠慮のなさは一方の天秤に傾くのみである。霊夢と魔理沙、二人の間で緊張が高まったのをみかねて咲夜が間に入る。
「二人とも、言い合っている場合じゃ無いでしょう?まずは○○を探さないといけないわ。」
正論で宥めにかかる咲夜に対して、早苗が横から噛みつく。
「そんなこと言って先輩、○○さんの居場所知っているんじゃないんですかぁ?最近仲良さげでしたし。」
「ちょっと、いい加減にしてよ。そんなことないじゃない。」
「とか言って、ホントに知らない証拠でもあるんですか?○○さんと一緒に写真撮ってたのなら幾らでもありますけど。」
「無茶苦茶な理屈よ、そんなの。」
咲夜にしつこく迫る早苗に、魔理沙から横槍が入る。
「○○を取られそうで焦るのはみっともないぜ。早苗。」
「はあ?意味不明なんですけど。」
お互いのボルテージが上がってきた空間に、か細い声が響く。
「あのう…取り敢えず○○さんを探しませんか?」
これまで殆ど発言らしい発言をしてこなかったさとりだが、この一言で場は静まった。
「…まあ、根暗の言うことも、もっともね。」
霊夢がそう言うと、
「そうだな、探すか。」
魔理沙も同調し、皆でコテージ内を探すこととなった。

 さとりの提案の後、皆でコテージの中を○○の姿がないかを探していた。先の言い争いの時には周囲の女性の迫力に押されて口を挟むことが出来なかった××も、五名の女性と共に居なくなった友人の姿を探していた。○○を取り合う四人が、お互いを牽制するように各人の部屋を開けていく一方で、男性だからと追いやられた××と余り物として弾かれたさとりは、食堂や倉庫といった共用部を探していた。
埃を被った備蓄の段ボールをかき分けるように格闘し××は捜索をするが、当然とも言うべきか○○の姿は見られなかった。悪い空気の中で咳き込みながら、××はさとりに声を掛けた。
「ゴホッ、うーん、ここにはいなさそうだね。」
舞い上がった埃を吸い込まないように、ハンカチを口に当てたながらさとりが返事をする。
「こんな部屋、早く出ましょう。」
「もうちょっと…。」
なおも○○の手掛かりが無いか探そうとする××を、さとりが引きずるようにして部屋から出す。小柄な体からは想像も出来ないような力で引っ張られ、あっという間にドアノブが回され○○は部屋の外に連れ出されてしまった。なおも○○の痕跡を探そうとする××にさとりが言う。
「良いですか、××さん。あの部屋には××さんが思っているようなものなんて、何もないんですよ。」
「ゴメン、でも何だか全部調べないといけないような気がして。ゴホッ。」
先程の部屋の影響が抜けきっていないせいか、咳き込む××に対して諭すようにさとりが話す。
「××さんが友達思いの優しい人だってことは分かりますが、あんなに綺麗に埃が積もっている部屋なんて、長い間誰も使っていない部屋なんですよ。あんな所に長くいたら、××さんの体が心配ですよ。」
「ありがとう。ゴメンねこんな、埃っぽい嫌な場所に付き合わせて。さとりさんも他の四人と一緒に、○○を探したかっただろうに、自分に付き合わせちゃって。」
感謝の言葉をさとりに述べた××だが、さとりの機嫌は少しも良くならない。いくら自分の下手な世辞だからと言って、せめて少しは愛想良く返して欲しかったと思った××だが、目の前のさとりの表情は見る間に強ばっていく。
「…××さん。そんなこと思っていたんですか…。」
突然暗く陰鬱な、怒りすら籠もっていそうな目で××を見るさとりに対して、気圧された××は言葉を返すことすらできない。
「そんな理由なんかで、この旅行に参加したりはしません…。」
「……。」
唐突に機嫌を悪くした、いや××が地雷を踏んでしまったか、逆鱗に触ってしまったかのような怒りをたたえるさとり。一方の××は、さとりを怒らせてしまった理由に見当がつかない。そのため××は返事を返すことができずに、ただ黙ることしかできなかった。
 二人の間に流れる沈黙。先程までの雰囲気とは一変した重苦しい空気の元で、二人は黙々と残りの場所を調べていった。

 さとりと××の間で気まずい沈黙が続いた後に、××は手ぶらでロビーに戻る道を歩いていた。やってしまった後で××は、何かさとりと関係を戻す切っ掛けを作ろうとしていたが、先に立って進んでいくさとりの後ろ姿は拒絶の意思を無言のうちに物語っており、××の気持ちは焦れども、前を歩く彼女に話しかけることはできなかった。
 さとりがロビーの扉を開けると、部屋の中では四人が真剣な面持ちで机に向かっていた。スマートフォンを操作する魔理沙はせわしなく指を動かしており、それを後ろから覗く霊夢と早苗は背をいっぱいに伸ばしている状態であった。そして残りの咲夜は厳しい顔で反対側から三人を見守っており、事情を知らない××にとっても、なにやら重要なことが行われていることが伺えた。
「駄目だ。ロックが掛かっている。」
諦めたように魔理沙がスマートフォンを放り投げ、早苗がそれを慌ててキャッチする。
「危ないですよ、魔理沙さん。○○さんの重要な手掛かりなんですよ。」
もうちょっとで携帯を壊すところであった魔理沙に早苗が抗議する。
「履歴が見れないんじゃ無駄だよ。文鎮代わりがいいとこじゃん。」
「それはそうかもしれませんけれど…。」
もっともな反論をされて勢いがなくなった早苗。そこに霊夢が爆弾を投げ込んだ。
「これではっきりしたわ。○○は誘拐されたのよ。○○はいつも携帯を持っていたわ。それをあんな所に置いておくなんて有り得ないことよ。つまり、無理矢理に連れ去られたってこと。」
「「!!」」
驚く周囲。○○の友人の××も、四人から執拗なアプローチとそれによって引き起こされる諍いに嫌気が差し、○○は自分から姿を消したものばかりと思っていたのだから当然であった。
突然の霊夢の発言に咲夜が疑問を呈する。
「ちょっと待ってよ。幾ら何でも推理が飛躍していないかしら。」
魔理沙も咲夜に続く。
「咲夜の言うとおりだぜ。根拠なんてあるのかよ。」
早苗も霊夢を無言で見ているところを考えると、無条件で賛成とはいえないようであった。三対一になった霊夢であるが、自信に満ちたの態度は変わらない。
「ただの勘よ。」
そう言い放ち、周りの疑惑を一言で切って捨てた。確かに××も霊夢が過去に超人的な勘を発揮したことは何度か見た事があった。それを考えると、妄言として取り合わないのは何だか踏み切れない。溺れる者は藁を掴むという諺のとおり、余りにもか細い糸であるが、現状それに頼るしか無さそうに感じられた。



「それで、一体何処に○○さんは居るんですか?」
早苗が霊夢に当然の質問を返す。お得意の勘で○○の居場所が分かれば、すぐにでも○○を探しに行く積りなのであろう。テーブルの上で組まれた指は忙しなく動いており、内面の動揺を表していた。
「そんな物、分かっていれば今すぐに行っているわよ。」
もっともな答えを霊夢がする。彼女達の今までの○○への執着ぶりを見れば、それはあながち間違いではないだろうと××は思う。長期の休みに入る前の学校生活では、休み時間の度に○○は四人に囲まれていたし、放課後の部活では毎日出席をしていた筈なのにやる気の無い幽霊部員と同じ程度の功績、要は○○に掛かりっきりで何も成果が残っていないという、首ったけという表現がピッタリと当てはまるような状態であった。
 そんな中で、四人やそれによって多少なりとも被害を受ける周囲の人物への対応に苦労していた○○に対しては、間近で見ていた(或いは見させられていた)××としては何とかしてやりたいという、友人としてはある種当然の気持ちはあったのであるが、力及ばず四人を止められずにいた。
「それじゃあ、警察に連絡する必要がありますね。早速一一〇番をしましょうか。」
さとりが一同に真っ当な提案をする。
「あら、その必要は無いわ。」
「どうしてかしら。誘拐されたんなら事件じゃないかしら?」
それを一蹴する霊夢に咲夜が疑問を呈する。
「○○はこの近く、恐らくはまだこの屋敷にいるんだから。」
「へ?でも、さっき皆で探しましたよね?……まさかあの二人が…。」
早苗の視線が××とさとりに向く。鋭くかつ疑心が混ざっているそれが自分に向けられて、××はよく研ぎ澄まされた鎌が自分の首に当てられているような錯覚を覚えた。狂信者に命を狙われる感覚に耐えきれず、横に座っているさとりを自分の方に肩を掴んで引き寄せる。抵抗はなく彼女はすんなりと自分の方に引き寄せられた。暫く無言になる室内。
××は自分の心臓の音だけが部屋で唯一響いている気がした。
「××は犯人じゃないわ。」
数秒か、あるいは××にとっては数分にも感じられた沈黙の後で、霊夢が白の判定を下す。あらぬ疑いが晴れてホッとする××であったが、未だ問題は解決していない。
「それじゃあ、他の人物がここにいるってのか?」
魔理沙が残る可能性を挙げる。見知らぬ人物、それも友人を誘拐するような奴が人里離れた避暑地のコテージに潜んでいるという、背筋がぞっとするような推理であったが、霊夢はもっと恐ろしい事を言った。
「勿論、その可能性も否定出来ないわ。でも…。」
一同をぐるっと見回して霊夢は言葉を続ける。
「こう考えることも出来るんじゃないかしら、つまり、この中の四人の内の誰かが○○を誘拐して、今もこのコテージか何処か近くに監禁しているってこと。」

「成程な…。」
ニヤリと魔理沙が口を歪める。学年の中でも秀才として評判が良い魔理沙だが、その頭脳をふんだんに発揮していた裏では「魔女」という名で呼ばれていた-勿論、悪口の類いであるが。そして付け加えるならば、その渾名を霊夢や早苗といった親しい人物以外が呼んだ場合、大抵はその場では何とも無いのであるが、数日後か長くても一週間後に「不幸」に見舞われていた。
 これが単に魔理沙が呪いや黒魔術といった、オカルトティックなものを利用しているだけならば、まだそれはマシだったのだろう。しかし××は知っている。友人の○○に何かした奴の机や椅子に、魔理沙が何かを振りかけていたことを。これを○○から聞いただけならばまだ半信半疑であったが、とある雨の日に傘を差して歩く魔理沙が、
通行人とは逆方向に階段を下り標的にぶつかることで、ターゲットの怒りの感情を煽り魔理沙に手を伸ばさせて、
それを払い階段の下に突き落とすという、まるで周囲の人物が見れば「男子学生がか弱い女性に因縁を付け、正当防衛により振り払われる」という完全な状況を作り上げたことで、疑惑は確信に変わった。
 彼女は魔術なんて使っているのでは無く、そう見せかけているだけなんだと、本当の脅威は彼女の悪の頭脳なのだと。
「わざわざ○○を目の前にして、逃げ帰るのは癪に障るな。」
今も彼女の頭の中では、黒い脳細胞が高速で回転しているのだろう。いかに自分の方に優位に持って行けるのか-例え他の人を地獄に蹴落としたとしてでも。
「○○さんを見つけ出せば、報酬があるのは当然ですよね。」
魔理沙に同調する早苗もやはり彼女と同類なのであろう。他人を報酬としか見ていない下劣さは魔理沙に勝るとも劣らない。そして普段は冷静沈着な咲夜もお手上げというように、両手を挙げていた。
「だから、助けを求めるなんて無しにしましょうよ。外から邪魔が入るのは面白くないでしょうし。」
笑顔の裏に脅迫を隠し、霊夢が××に同意を求める。顔は笑っているのに目の奥は笑っていない霊夢。今彼女の言う事に逆らった場合、彼女は前言をあっさりと翻して容赦なく自分を犯人に仕立て上げるだろう。チラリと横目でさとりを見る。緊迫した状況でもさとりは平然と××に体重を預けていた。
 そして××の目線を目敏く見咎めた霊夢は、一層口角を吊り上げた。もし拒否するのなら、二人ともだぞ、という意味を存分に込めながら。追い詰められた××にはもはや、同意することしか選択肢は残されていなかった。

 抜け駆けを防ぐために皆でロビーに待機する事となり、一時間程が経過した。未だに状況に変わりはなく、残されていた○○のスマートフォンにも着信は無かった。もしも自分の意思で○○が姿を消したのならば、四人には兎も角、流石に自分には連絡が来るだろうと思っていた××も、ここまでの間○○からの応答が無いことで、霊夢の言うように誘拐されてしまったのではないかと考えるようになった。
 咲夜が昼食を作りに行くと言ってキッチンへ向かう。彼女の後ろ姿に魔理沙が、誘拐犯に誘拐されないようにと、してもいない心配する声を掛ける。
「ええ。気をつけるわ。」
そう短く答えたその言葉が、最後に××が聞いた咲夜の声になった。


 それから時間が経ち、ゆうに昼食が完成してもいい時間となったが、咲夜は戻ってこなかった。不審に思った皆がキッチンへ向かうと、そこには少し前に出来た昼食があるばかりで咲夜の姿はどこにも見当たらない。その状況を見た魔理沙が吐き捨てるように言った。
「ふん、早速抜け駆けか…。案外咲夜が犯人なのかもな。」
この言葉に目の色を変えた霊夢と早苗が、咲夜と○○を逃がすものかと大急ぎで、コテージの中を探そうと駆け出していった。××も○○の無事を案じ、二人に続いて駆け出そうとする。
ふとその場に居たさとりの姿が目についた。無意識の内に彼女の手を引いて部屋を出る。さとりを怒らせてしまったために嫌がられるかと思ったが、やはり先程と同じくさとりは引かれるがままに××についていった。
 方々の部屋を探すも手掛かりは無く、荒い息をつきながら××がロビーへ戻ると、早苗からSMSが××とさとり宛てに届いていた。どうやらキッチンに皆は集合しているようである。××とさとりがキッチンに向かうと、三人が地下の収納スペースを遠巻きに見ていた。××に気が付いた魔理沙が指を差す。
「なあ、何か匂わないか?」
心なしか顔が青ざめている魔理沙の指は、僅かに震えているような気がした。
「ねえ、開けてみなさいよ。」
霊夢が収納スペースを開けるように××に命令する。何やら不穏な雰囲気が漂うこの場所を開けるのに××が躊躇していると、後ろから霊夢の声が飛んでくる。
「いいから早く開けなさいよ!」
声に押されるようにして、不承不承××は扉を開けた。

 開けた瞬間に、むわっとした血の臭いが鼻を突く。匂いというレベルではなく、刺激となって脳に突き刺さる状態に、思わず××は息を吸い込んでしまった。一層口から吸い込まれていく異臭。肺を余すことなく犯した臭いの先には、狭い場所に不自然な格好で押し込まれている咲夜がいた。
「咲夜…さん…。」
声を掛ける××。当然ながら反応は無い。それを認識したとたん、××の神経に酸が流し込まれたような衝撃が走った。死んでいる!死んでいる!確実に目の前の咲夜は死んでいる!死を忌避する本能が暴れてこの場から逃げ出したくなる。心臓が早鐘を打ち気が動転し、視界がグルグルと回転する。逃げないと、逃げないと、そう思っても体は動かない。まるで腰が抜けてしまったとよく表現されるように!パニックになった××の視界を後ろから手が覆い隠した。
「落ち着いて下さい、××さん。」
後ろからさとりの声がして、抱きしめられた感覚がした。フッと暴走していた感情が落ち着いた気がした。
「そのまま目をつぶって、口で息をして下さい。」
さとりの手が××の手を導く。何かに濡れた柔らかい物を掴んだ感触がした。
「このままだと可哀想ですから、引き出しますね。××さんは目を瞑ったまま…」
さとりの声に誘導されるようにして、どうにか堪えて咲夜の体を引き出す。予想外に思い感触に苦労しながら、やっとの事で咲夜を引き出すことが出来た。そのまま××の目を瞑らせて、子供のように××の手と顔を洗わせるさとり。柔らかいタオルの感触がただひたすら有り難かった。
 そのまま衝撃が大きかった××は部屋を出され、残りのメンバーが咲夜の死亡した部屋の状況を見ていた。しばらくして、皆が部屋から出てきた。そのまま××を連れ立ってロビーに戻る四人。ロビーにつくと、一番先に××が口火を切った。
「なあ、どうして咲夜さんは死んでいたんだ。誰か殺したのか?犯人は分かったのか!」
今まで堪えていた物が一気に吹き出た××。只でさえ○○の失踪という不安な状況で、死人まで出たのであるからある意味混乱しているのは当然の事であった。
「多分、殺された筈よ…。」
霊夢が重い口を開く。
「殺人なのか?!犯人は誰なんだ!」
××が霊夢に食いつく。
「分からないわ。」
「えっ…。そ、そんな…。勘で何とかならないのか…?」
「そんなに都合の良い物じゃないわ。勘なんて。」
冷淡に霊夢に否定され、動揺する××。こうなっては外部に連絡するしかないと思った瞬間、横からさとりの手が伸びてきた。柔らかい手が××の頬に触れ、そっと顔が傾けられる。耳元に口を近づけてさとりは小声で言う。
「××さん、それは止めた方が良いです。」
ここに至ってまで、外部に連絡しない事を勧めるさとり。困惑する××にさとりが囁いた。
「もし、××さんが連絡しようとすれば、恐らく霊夢さんが気づくでしょう。○○さんを独占しようとしている三人に一気に襲われては、いくら何でも生きて逃げられないでしょうから。」
××はただ、耐えるしかなかった。

 暗い空気がロビーの中を覆っていた。まさか夏休みの部活動の一環として避暑地に来ていた筈が、この様な大事件になるとは、××は思ってもみなかった。
 しかしその中においてより一層の狂気を××が感じたのは、死人が出たのにも関わらず霊夢や他の二名は、警察に通報する等して外部に連絡を取ろうとしなかったということであった。まるで彼女達は○○を逃すことが他の何よりも-それが例え他人の命であろうとも-恐れているようであり、それ故に彼女達は未だにコテージに留まっていた。
 皆口数が少なくなり、ジッとしているばかりである。他の誰かに出し抜かれないようにするためか、あるいは考えたくない事であるが、他のライバルを手に掛けるために消耗した体力を回復しようとしているか、そのようにすら××の想像が膨らんでしまっていた。
 夕食の時間となり漸く動きがあった。今度は先の愚を避けるために霊夢と魔理沙の二人が台所に立ち、早苗と××とさとりの三人がロビーに残されていた。ライバルの二人が居なくなり、早苗の緊張が少し緩んだように見えた。
彼女が口を開く。
「ねえ、誰が怪しいと思っていますか。」
早苗が××に犯人を問いかける。しかし××は誰が怪しいかの判断がつかない。
「全く分からないよ…。まさかこんなことになるなんて…、思ってもみなかったから…。」
途切れ途切れに言葉を返す××に見切りをつけ、早苗はさとりに質問を向ける。
「それで、根暗はどうなんですか?さっきもあれだけ死体を見ていたから、さぞかし推理小説で勉強しているんでしょう?」
「…私も分かりませんよ。」
さとりが否定をする。××の方には期待していなかった早苗も、さとりの方には少々期待をしていたようであり、あてが外れた状態であった。
「根暗のくせに役立たずですね…。まあ良いです。それで分からないんだったら、どうですか、私に協力しませんか?」
突然の申し出に驚く××。
「一体何を協力するんだい?どうしていきなりそんな風になったんだい?」
当然の疑問を表す××。確かに霊夢は××は犯人では無いと言ったが、果たしてそれだけでそこまで信用出来るものだろうかと、××は考え込む。
「いえいえ、簡単な理屈ですよ。同類は同じ匂いがするって言いますからね。分かるんですよ、何となくですが…。」
「…どういうことだい?」
「本当に分かっていないんですか…?まあ、ソレがいる以上、××さんには動機がありませんからね。そしてそっちが向いている方向を見てみれば、××さんは安パイというやつなんですよ。」
「うーん、分からないなあ。」
考え込む××の思考を打ち切るように、早苗が結論を迫る。
「それで、どうしますか?私、「色々と」凄いんですよ。」
早苗との距離が近くなり、彼女の使っている香水の香りがフワリと飛んできたような気がした。早苗の体に目が行き、心臓の鼓動が速くなり、早苗の体のラインから目が離せなくなる。
「痛っ!」
太ももに鋭い痛みを感じ、急に現実に引き戻された。横でさとりが冷たい目で××を睨んでいた。そんな二人をからかうように早苗が笑う。
「フフフ、まあ覚えていて下さいね。私は実は奇跡を起こせるんですから。」
「まさかぁ。それだったら、テストはいつも満点を取れるんじゃないか。早苗さん、そんなに成績良かったっけ。」
「そんな単純なことには奇跡を使いませんよ。」
ニッコリと笑いながら、あくまでも冗談の様に早苗は言う。
「私の奇跡を使えば、死んだ人も生き返るのですから、ね…。」

 皆がロビーで食事を取った後、安全を図るためにロビ-でソファに横たわり雑魚寝することとなった。護身のためにコテージの中からかき集めた色々な道具を、各自で持っておいたり部屋の中に置いておく。××にも唯一の男手ということで、用意しておいた箒やモップといった長物は割り当てられていたが、××は万が一咲夜を殺した犯人が襲ってきたときのことを考えると、甚だ不安に包まれていた。
 正直、殺人鬼が襲ってきたときに、犯人に立ち向かい他の皆を守る自信など無い。ソファの割れ目に沿わせるように差し込んだ竹箒の柄を触っていると、それが如何にも頼りない物のように思え、××は机の下の工具箱に仕舞っている金槌と交換しようかと考えていた。
 思い立った××は非常灯だけを点けた薄暗い暗闇の中で体を起こす。なるべく音を立てないように体を捻ると、横にいたさとりが声を掛けて来た。
「××さん、どうかしましたか?」
「いや、ちょっと武器を替えようかと思って…。」
正直に答える××。さとりが優しく返事をする。
「食後のコーヒーを飲み過ぎたせいで目が冴えてしまったんですね。大丈夫ですよ。ここには皆いるんですから、犯人も襲ってはきませんよ。ほら、手を握っていますから、安心して眠って下さい。」
さとりに手を握って貰っていると、××の緊張が解れていくような気がし、いつの間にか××は眠りに就いていた。

 翌朝××はすっかり日が昇ったコテージで目を覚ました。周囲の皆も緊張の余りか、すっかり寝込んでいるようであった。慣れない状態で眠ったせいかガンガンと響く頭を擦り、体を起こして伸びをする。

そこには魔理沙は居なかった。

「おい、皆、魔理沙が居ないぞ。」
「ええ…なんですかぁ?」
早苗が寝ぼけ眼といった様子で起きてくる。横にいたさとりも顔を上げ、霊夢を起こしにいった。
「うん…。魔理沙が居ないの……!」
数秒で事態を把握する霊夢。直ぐに隠し持っていたナイフを取り出して猫の様にソファから飛び起きる。
「行くわよ。」
臨戦態勢をとり、皆は一団となってコテージの捜索に移った。


 魔理沙は廊下に倒れていた。咲夜の時とは違い、周囲に血は流れていない。しかし彼女もまた、不自然な格好でピクリとも動かない。生きている筈ならば、呼吸がして体が僅かに動くのが注意深く見れば分かるだろうに、それが一切感じられない。時間が止まってしまったような魔理沙を、おそるおそる××が肩に手を掛けて揺さぶる。
「魔理沙、おい、魔理沙、大丈夫か?」
一分の望みを賭けたために力が籠もったのであろうか、ゴロリと仰向けに力なく転がった魔理沙は、虚ろな目をしていた。驚愕の余り自分の呼吸が止まる気がする××。彼女の首筋には、青黒い一本の(あざ)がクッキリと付いていた。
「うわ、わあああー!!」
爽やかな朝のコテージに、××の悲鳴が響き渡った。

やっとのことでロビーに戻った××は、すっかりショックを受けていた。ソファーに座り込んでいる××の横で、さとりが慰めてようと話しかけているが、落ち込んでいている××は空返事のみであった。ふとスマートフォンをチラリと見たさとりが何かに気づいた。そして他の三人に向けて唐突に言う。
「皆さん、ババ抜きでもしませんか?」

 さとりはトランプを持ち出してカードをより分けていく。普通のばば抜きならば五十四枚にジョーカーを一枚加えた五十五枚のカードを使うのであろうが、さとりはもっと少ない数を使う積りのようである。一そろいのカードを半分以下にして、おもむろにマジックを取り出した。
「これだけ少ないと、ジョーカーが来ると直ぐに分かるでしょうから、マジックで別の奴に印を付けておきますね。」
-その方が面白いでしょうから-と言って、さとりはトランプに何かを書き込んだ。早苗がこれに反対する。
「それって、そっちが有利になりすぎじゃないですか?」
「ええ。ですから、私のカードを最初に霊夢さんが引いて貰えれば良いですよ。直ぐに終わるでしょうから。」
そう言いながらカードを配るさとり。そして霊夢の方にカードを差し出す。
「…これにするわ。」
ババ抜きの一巡目という、普通ならばノータイムで選択をする場面であるが、霊夢は十秒程考えていた。さとりのカードから一枚を引くと暫く考え込む。そして手持ちのカードを捨てて、一枚だけ上に突きだして早苗にカードを選ばせた。
「これにしますね。」
早苗もまた、暫く考えた後にカードを一枚選んだ。そして手持ちのカードを捨てると、残り一枚となったカードを××の目の前に持ってくる。
「上がりですね。ババはしっかりと体で隠して他の人に見えないようにして下さいよ。」
そう言う早苗から××がカードを取ると、果たしてハートのエースに、マジックで文字が書き込まれていた。
「窓の外に人が居て、こっちを見ています。」
心臓が捕まれたような衝撃を感じた××が、ビクリと震える。今、まさに自分の背後に人が居て、自分を見つめている。そう考えると全身の血液が激しく流れ、心臓がバクバクと震えるような気がした。それを見た霊夢が冗談のように言う。
「馬鹿ね、ババを引いたのがわかりやすすぎよ。」
この状況の中でなんでもないように振る舞う霊夢は、驚嘆するべき精神力であった。

二巡目に入りさとりが××の手札からカードを引き抜き、追加のルールを宣言する。
「折角ですから、ババをもう一枚追加しましょうか。」
そう言って更にカードに何か書き込み、それをシャッフルする。霊夢はやはりカードを見極めて一枚のカードを取り、横にいる早苗に見せてから他のカードを捨てた。
「ほら、これが最後よ。負けたら罰ゲームだからね。」
そう言われてカードを取る××。そのカードにはもう一文が書かれていた。
「携帯を見られている。」
今度は何とか動揺を押さえ込んだ××は、さとりに向けてカードを差し出す。そして再度さとりがカードに文字を書き込みカードをシャッフルする。震える手でカードを取ると、そこには別の文が書かれていた。
「この後、私と部屋を出て下さい。」

 さとりと部屋を出た××は、廊下を歩く。ぎこちなく歩く××にさとりが話しかける。
「ここは大丈夫ですよ。さっきの人は未だ窓の所に居ますから。」
「一体そんな奴がいたなんて…。そいつが犯人なの?」
激しく動揺する××であったが、さとりは冷静であった。
「さあ、どうでしょうか…。それを聞きに行きましょうか。」
「えっ…。まさか…。」
嫌な予感が××の脳を過ぎる。
「そのまさかですよ。今なら霊夢さんと早苗さんが囮になっていますから。」

 二人は廊下から玄関に出る。途中、さとりは園芸用の網を持ち出して××に渡した。そっと扉を開け、外の様子を窺う。角に身を隠してゆっくりと進んで行くと、フードを被った怪しい人物が、窓からコテージを覗いているのが見えた。
 よっぽど熱中しているのか、窓に顔を押しつけている不審者。さとりはあっさりと近づくと、おもむろに防犯スプレー缶を風上から噴射した。
「ゴホッ、ゲホッ、何ですか!」
咽せながら地面に倒れ込む不審者。××は網を不審者に被せ動きを押さえる。窓が開き、霊夢と早苗が勢いよく乗り出して、あっという間に持っていたロープで、不審者を縛り上げてしまった。

不審者のフードを取って顔をよく見てみると、××の顔見知りの人物であった-同じ学校に通う××と○○の後輩である妖夢である。思わぬ人物の登場に呆気に取られる××。一方の霊夢と早苗は厳しく妖夢を責め立てる。
「あんたが犯人だったのね!○○さんは何処よ!」
「え、何の事ですか!私も○○さんを探していたんですよ!」
「嘘言っているんじゃないですよ!咲夜さんや魔理沙さんを殺したのはあなたなんでしょう!」
「違います!私、何もしていません!」
必死に否定する妖夢であったが、霊夢が得意げに証拠を突きつける。
「じゃあ、どうして窓にへばりついて見ていたのかしら?これじゃあ、まるで次に殺す人を狙っているようね。」
「違います!私○○さんと連絡が取れなくなって、それでここに来たんです!」
あくまでも自分は関係ないと言い張る妖夢であったが、更に霊夢が突っ込んでいく。
「へぇ…。じゃあ、どうしてSMSの履歴が、○○の分も既読が付いているのかしら?○○の携帯は今、私達が持っているのよ?」
「それは…。」
言いよどむ妖夢。ふと霊夢の視線が、もみ合った際に落ちたスマートフォンに向かった。必死にそれを隠そうとする妖夢。霊夢はそれを見逃さなかった。
「早苗!それ!」
「はい、霊夢さん!」
阿吽の呼吸でスマートフォンを奪う早苗。指紋を押し当てて強引にロックを解除する。
「うわー、私達の会話が全て見られていたじゃないですか。」
妖夢の携帯を探る早苗が、驚きの声を出す。おそらくそこには、○○のアカウントだと思って会話していた内容が、全て記載されているのであろう。
「違うんです、私○○先輩と付き合っていて、それでしつこい人が居るって聞いたから、その人達の相手を先輩の代わりにしていて、それで今日も先輩と連絡が取れなくなったから、心配になって、それで…。」
泣き出す妖夢。いきなり外で襲われて押し倒されてしまえば、そうなってしまうのも当然のように××には思えた。
 しかし霊夢と早苗は尚も妖夢の事を信じようとしない。コテージの個室に縛り上げた妖夢を連れ込んで、中で尋問をすると言い出した。それには流石に反対した××であったが、凶器を持った二人相手には、強硬に出ることができない。そして霊夢の方からも、妖夢が犯人かもしれないと言われてしまえば、それを止めることはできなかった。


 霊夢と早苗がボロボロになった妖夢を、××の元に連れて来た。余りの惨状に言葉を失う××を尻目に、霊夢が早苗に向かって言った。
「私さ、この事件の犯人と○○の居場所が分かっちゃったと思うのよ。これから一緒に行かない?」
そして早苗の方も霊夢を見て言う。
「私もそうなんですよ、お揃いですね、霊夢さん。」
手に濡れた凶器を持ちながらも、お互いに表面上には敵意は見えない。××も○○の元へ行こうと、霊夢と早苗の二人について行こうとすると、さとりが××を引き止めた。
「行かないで下さい、××さん。」
「○○が心配だ、行かないと。」
なおも行こうとする××を、さとりは説得する。
「女性一人を殺人犯かもしれない人と、二人っきりにするんですか?」
そう言われてしまえば、××はさとりを一人にすることはできず、霊夢と早苗の帰りを待つこととした。

 霊夢と早苗が部屋を出て行くと、さとりは妖夢から手を離した。散々に二人から痛めつけられた妖夢は、床に倒された格好のままで動かない。余程手酷く傷付けられたのだろう。血がドロリと流れ出るが、それを拭う気配すら見せない。流石に可哀想になった××は、手持ちのハンカチで血が流れる傷口を押さえる。タオル地のハンカチが忽ち染まっていく。傷口に触られた妖夢が、僅かに呻き声を漏らした。
「××さん、替わります。」
大きなタオルを持って来たさとりが××に替わって、妖夢の傷の手当をする。
「何か手伝えることはあるかな?」
××はさとりに尋ねたが、さとりは××の手助けを断った。
「お気持ちは嬉しいですけれど、こういうのは女性の方が良いでしょうから。」
気が動転していた余りに、そんな単純なことにも気が付かなかったかと恥じて妖夢から離れる××。手持ち無沙汰になった彼に、さとりは用事を頼んだ。
「××さんはドアの近くで、霊夢さんが帰ってこないか聞き耳を立てておいて下さい。」
 確かに先程の霊夢は異常であった。普段の彼女はとても良いクラスメイトだったし、いくら○○を巡って四人で牽制していたとしても、それはあくまでも恋の鞘当て-いわゆるそういった単語で済ませても、問題はない程度のものだったからである。それが今では殺人事件にまでなってしまい、さっきには拷問まがいのことまでするという、正に狂ってしまったと言わんばかりの状況になってしまった。
 そう考えていると、不意に昔の部活を思い出されてきた。あんな状態でも楽しかった部活。○○や霊夢、早苗、魔理沙といったクラスメート、咲夜先輩や後輩の妖夢といった他の学年の部活仲間。そして皆が○○の方を気にする中で気づかないうちに××のことを気にかけてくれていたさとり。色々な思い出が頭の中を過ぎる。泣いている自覚は自身には無かったが知らぬ間に頬が濡れていた。


 感傷に浸っていた××の耳に足音が聞こえてきた。重い足取りの音が一人分聞こえてくる。××は無言のままで大きく手を振ってさとりに合図を送る。扉を離れてこっちに来るように、というサインが向こうから返ってきた。
 ガチャリと音をたてて扉が開かれる。服を着替えた霊夢が戻って来た。スカートの上からつけたベルトのズレを気にしながら、霊夢は言った。
「ようやく犯人が分かったわ。」
「!!」
驚く××。霊夢はさとりの横にいる妖夢を指差しながら、話しをする。
「結局、そこの妖夢と早苗が全部仕切ってたのよ。○○もその二人で監禁していたわ。」
-だから-と霊夢は続ける。もうすぐ全てに決着がつくかのように。
「そこの女を渡してくれない?」
「嘘だ!」
妖夢が叫ぶ。後ろ手になりながらも、その声には気迫がこもっているように思えた。
「本当にそうでしょうか。妖夢さんは否定していますよ。」
さとりも霊夢の主張を否定する。二人に否定された霊夢は、××に説得のターゲットを変えた。
「××、あそこの女は先輩や魔理沙を殺したのよ。今始末しないと、犯人を知った私達まで殺されるわ。」
「……。」

沈黙を続ける××。もう少しで落ちると踏んだ霊夢が説得を続ける。
「お願い、そこの女だけが○○の居場所を知っているの。そこの女に話しをさせて。」
「……!」
○○のことを持ち出されて××の心が激しく動いた。もし○○の居場所を知っているのが妖夢だけならば、今ここで妖夢から聞き出さないと、○○を助け出すことができなくなる。焦りと疑問の狭間で××の心が揺れる。
「私のことはどうでもいいの。○○を助けられるのは××、あなただけよ。」
「ほんと「負けましたよ。」
霊夢に答えを返そうとした××に、さとりが割って入る。
「××さんを人質に取られた以上はこっちの負けです。妖夢さんを渡します。××さん、この人の肩を持って、霊夢さんに渡して下さい。」
妖夢を立たせ、彼女の後ろ手にくくりつけられたロープの先を××に渡すさとり。霊夢に従うこととした××であったが、それでもいざ引き渡すとなれば迷いが生じた。
「霊夢さんに渡したら直ぐに後ろに引いて下さい。間違っても庇おうなんてしないで下さいね。」
××の迷いを見透かすかのように言い含めるさとり。その目の真剣さに××は頷かずにはいられなかった。

 妖夢を連れて霊夢の元へ歩く××。高原の風がロビーに入りカーテンを揺らした。
「ご苦労さん。」
霊夢は××から妖夢を受け取る。襟首がつかまれ、妖夢の体が引き寄せられた。霊夢が空いた利き手を背中に手を回す。
「下がって!」
反射的に妖夢の方向へ行こうとした××の腕を掴み、さとりが引き寄せる。そのまま××を引っ張って窓の方へ走るさとり。
「あああああ!!!」
凄い叫び声が後ろから聞こえてきた。××の視界の端で、もみ合いながら床を転がる二人の姿が写る。縛られていた筈の妖夢は、血を流しながらも両手で霊夢に掴みかかっていた。
「飛んで!」
さとりに従い、開けた窓から外に飛び出す××。外には夏の青空が広がっていた。
「こっちに妖夢さんの自転車があります!」
コテージより少し離れた場所へと誘導するさとり。さとりの持っていた鍵でロックを外し、自転車に二人で乗る。
置いてあった自転車が山道を走るのに向いているマウンテンバイクでなく、後ろに荷物台があるタイプであったことに、××は心の中で今まで信じたこともなかった神に祈りを捧げた。

 できる限りのスピードで山道を下っていき、麓の公道に辿り着いた二人。自転車から崩れるように降りた××は、疲れのあまり道ばたに腰を落として座り込んでしまった。丁度迎えに来た車に事情を話し警察に連絡をとってもらう間、疲れた体を休めながらも、××はさとりに事件の真相を尋ねた。
「結局は誰が犯人だったんだろうか。」
「……さあ、誰だったんでしょうね。」
「○○はどうなったんだろう。」
「どうなったんでしょうね。生きていればいいですね。」
二人の間に沈黙が流れる。木々のざわめきだけが、そこでは音をたてていた。
「…さとりはどこまで分かっていたの?」
「何も知りませんよ…。でも、××さんが無事で良かったです。ただ、それだけです。」
サイレンの音が遠くから聞こえてきた。






感想

  • 雰囲気は好きだよこれ -- 名無しさん (2018-07-31 23:54:02)
  • ただ俺の読解力が低いのか、よく分からなかったな。あと連投ごめんなさい。 -- 名無しさん (2018-07-31 23:54:47)
  • 解答編が欲しいです -- 名無しさん (2018-08-06 11:29:01)
名前:
コメント:




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2018年10月14日 00:55