博霊神社で納涼にかこつけた宴会が開かれた時、私はその人に会った。
落ち着いた桜色の服を着た、地味だが粋な男性。
肌は外に出たことがないかのように白かったが、それが病弱から来る物ではないように思えた。
近づきの挨拶として会釈をし、杯に透明な酒を注ぐ。向こうからの返礼を飲み干してから、私は彼に話しかけた。
「いやあ、最近はいやに暑くなってきましたね。」
「…………。」
ニコニコと笑いながらこちらをみている彼。身振り手振りはまるで言葉を話しているようであるが、
彼は初期のトーキー映画のフィルムのごとく無言であった。
「どちらからお越しになられましたか?私は里の方から最近こちらに越して来まして。」
「……、……。」
やはり返事は無い。何かを話している意思はあるのだが、それが言語として空気を震わせる事は無い。
彼は何か具合が悪いのであろうか。場合によっては誰か人を呼ぼうかと思い、彼に確かめた。
「どこか具合でもお悪いですか?お連れの方は居られますでしょうか?」
「………!」
否定するかのように手を振る彼。はて、どうしたものかと考える私の後ろから、声が聞こえた。
「○○さん、声を出すのをお忘れですよ。」
私を通り越し、静々と彼の隣に座る彼女。そして彼女は彼に代わって私に返答をする。
「失礼しました。主人は地底で暮らしているもので、少々声を出すことを忘れてしまったようでして。」

「ああ、そうでしたか…。これは失礼を。」
軽く引いてしまった私を尻目に二人は仲良く杯を注ぐ。
二人の間には言葉は無く、それでいて濃密な会話が成されていた。
厄介者は必要ないかと思い、二人に席を立つ旨を告げる。
「それでは他の人にも挨拶したく思いますので、失礼。」
「お気遣い、ありがとうございます。奥様がお待ちですよ。」
 -いえ、独身ですが-と反射的に返事をしようとして固まってしまう。
彼女がそう言うのであれば、そこには意味がある。
「あらあら、困らせてしまったようでしてすみません。
ですが、人間として生きていかれるお積もりであれば、あちらの女性にご挨拶なされた方が良いかと。」
優しい笑顔で言葉を続ける彼女。恐らく彼女は全て善意で行っているのであろう。
私はどうして以前に里にいる者から、彼女に近づくべきではないと言われたのか、その意味を知った。
「小鈴さん、こちらの御方、○○さんと言われるのですが、実は最近外界から幻想入りされまして…」
「あらそうですか。実は阿求から、最近新しい人が幻想郷に来たと聞いていまして…」
知ってしまった以上、私には他の道を選ぶ勇気は無かった。






感想

  • 怖いwww -- あう (2018-08-28 10:44:53)
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最終更新:2018年08月28日 10:44