デパートのおもちゃ売り場の前で男の子がわんわん泣いててうずくまってて
「お母さんを困らせないで」ってお母さんが手を引っ張ってた私もあんな頃あったなって。
フフって微笑ましく見てたんだけど慧音がゆっくりその二人に近づいていって
こんな時までおせっかいしなくていいのにって、でもこども好きな慧音らしいなって成り行きを見守ってたら
男の子が慧音に助けを求めるような目をしてるわけ。なんだかおかしいなって、変ダナーって
「このひとおかあさんじゃありません!たすけて!」
なんて口の悪いこどもなんだろうって気持ちが沸いたと同時に、言い様のない不安
意味わかんなくてさ、どういうことなのって、話についていけなくて。ただただボーッと突っ立ってることしかできなかった
周りの人も「?」ってなってて
「しらないひとです!たすけてください!たすけてください!」
「この子愚図るといつもこうなんです。お騒がせしてすいません」
そうなの?そう、なんだよね?…家族、なんだよね?って…納得しかけてて。だって、目の前でそんな…
もし本当にこのこが言うようにこのひとが「お母さん」じゃないんだとしたらじゃあいったい何なのって。
「お母さん」じゃない人がお母さんだと言って「どこか」へ連れていこうとしてる…それって、つまり。
つまり『そういうこと』なの?って、周りの人も狼狽えてて、顔をあわせてもいやさすがにそれはないんじゃないのって
気持ちが目の前で起こってる現実を受け止められずに首を振り合うばかりだけど
ひきつった笑顔と冷や汗が止まらないのは、もう皆も気づいてる証拠だった。
「このこの名前、誕生日、通ってる寺子屋。答えられますか?」
「このこは○○、誕生日は××年×月×日。今年で7歳。通ってる寺子屋は□□寺子屋よ。母親は私です、このこは私の子」
「あなた、なんですかさっきから。ウチの子が愚図ってるだけですよ?」
足がすくんで動けなかった。まるで足を滑らせたら助からないそんな高さで細い細い鉄骨の上にいるような
『母親ではない』この女への底知れぬ恐怖
「私はこの○○くんの担任、上白沢慧音です。家庭訪問などで何度もお会いしたことある…『はず』だと思いますが?」
まだ、まだ言い訳はきく、授業参観にはこれなかったかも知れない。
家庭訪問は父親が対応したかもしれない、その他の行事にも参加できなくて…もしかしたら慧音が会った後に
再婚とか複雑なことがあって本当に『お母さん』じゃないのかもしれない
…こどもの担任の顔や名前を知らない親なんていないわけじゃない。きっとたくさんいる。だから、だから嘘だと言って
全くの『他人』が人の子をさらう
やめて。嘘であって
「このこは『私の子』」
女が呟いた。ゆっくりと顔をあげる
「私が『母親』だ!私がお母さんなんだ!この子の…!そうなるはずだったんだーっ!」
女は弾幕で慧音を吹き飛ばす。私は慌てて慧音に駆け寄ろうとしたけど「妹紅!あいつを追ってくれ!」と叫んだ。
正直、まだ迷っていた。
信じてた、泣き叫ぶ純粋無垢なこどもを拐えるものは人間にも妖怪にもいないと。
それもこんな誰もが見ている前で母親を騙りどこにでもいるような親子を
演じ欺き悪意を覆い隠すことなど、できないと思っていた
あの子には本当のお母さんとお父さんがいる。その子を拐う。
それは未来を奪うということだ、この家族の進む道を閉ざすということ
そんなことが…『どうしてそんなことができる』?
そんな『邪悪』があっていいの!?
無我夢中で駆けた、追いかけた。周りにいた人間も妖怪もあの女を追いかけた。
けれど目の前で見せつけられたどうしようもない悪意にあてられて混乱しきっていた
目の前で起こったことを信じたくなかった
結局
誰もあの女を、あの子を見つけることはできなかった
この気持ちをどうしたらいい
悲しさや怒りが遅れて奥底に沈殿していく、それ以上に無力な自分が許せなかった
あの子のお父さんとお母さんは愕然としてて、何かの冗談ですよねって半笑いしつつも目に涙を浮かべていた。
私は慧音にあわせる顔がなくて、情けなくて、泣いた。
慧音は「私がもっと気をつけるべきだった」と声を震わせて私を抱き締めた
拐った女の特徴を伝えると、夫婦はまるであの女に力を持っていかれたみたいにその場に膝を落とし力なく項垂れた
「舞…もしかして隠岐奈様じゃ…ないよな…?」
「嘘…なんでお師匠様が…僕たちのこと祝福してくれたんじゃなかったの…?」
わからない
なぜあの女がこの夫婦の未来を奪っていったのか
夫婦とあの女の間に何があったのか、わかるべくもない
今はただ、ろくに話したこともないあの子のことで頭がいっぱいで涙が止まらなかった
※つい最近目にしたツイートが元ネタ。愚図るこどもを引っ張る親と思っていたら誘拐現場だったという話にガクブル
感想
最終更新:2018年08月25日 19:56