夏休みを利用した部活メンバーでの合宿は、避暑地で有名な高原のコテージを利用した、
泊付きの本格的なものでした。そこに参加したメンバーは大半が女性で、しかも間の悪い事に
私一人を除いては、今回の合宿で○○との距離を近づけようと邪な考えを持つ者ばかりだったので、
二日目の朝に○○が突然姿を消した今現在コテージに気まずい沈黙が走っています。
「で、○○は結局、どこにいるの?」
折角に泊まりがけの朝から○○が居なくなってしまい、霊夢の機嫌は非常に悪いですね。
まあ、それも当然でしょう。今まではお得意の勘で○○に近づく女性を度々牽制していたのに、
今は○○の居場所が全然掴めないのですから。女性が多く居る中での泊まりがけの朝という日程も重なって、
霊夢の心の中では悪い妄想が広がっています。そして一方の
魔理沙も、○○の居場所に心当たりが無いようです。
必要があれば盗聴器やGPSを○○に仕込んでいるような彼女であっても、
今の状況では流石に活用できないと判断したのでしょう。
まあ、そもそも仮に○○にそれらが取り付けてあったとしても、今の○○の状態では役に立たないでしょうが…。
「二人とも、言い合っている場合じゃ無いでしょう?まずは○○を探さないといけないわ。」
そう言って二人を宥めにかかる咲夜こそが今、○○を確保しているのですから。
物ではないのに確保とは少々言葉が不自然なのは否めませんが、それでも人間を監禁するというよりは、
物体のように確保しているといった状況の方が、現在の○○の状態を正確に表していますね。
咲夜が部活のメンバーを初めとした他人に隠している秘密の能力。時間と空間を操る能力により、
○○は時間を止められて缶詰と一緒に、キッチンの収納スペースに押し込まれているのですから。
咲夜の心の声を読む分には、どうやら昨日○○にアプローチをして断られたために、
衝動的にやってしまったらしいですね。
当然でしょうに。そもそも○○は後輩の妖夢と付き合っているのですから。
全くもって自意識過剰な肉食系丸出しと言わんばかりの女ですが、
ここに至ってもああも堂々と振る舞えるのはある意味感動さえします。少々見習いたい程に…。
そうしている間にも場の空気は悪くなっていました。咲夜に早苗が噛みついて争いを広げていきます。
実家が新興宗教をやっている早苗は少々ズレていますね。どこか明確に悪い訳ではないですが、
常人ならば違和感を感じるその態度。空気が読めていないだの、常識が無いだのと言われる彼女でさえも、
○○は拒否をしませんでした。それを良い事に○○に纏わり付いているのだから救われませんね-教祖をやっている癖に。
「あのう…取り敢えず○○さんを探しませんか?」
早苗と咲夜の言い争いが沸点を迎える前に、取り敢えず二人を止めておくことにしましょう。
二人だけならばどうぞ心ゆくまで、世界の果てで争っていて下さいな、と言いたいのですが、
この場所には××さんがいます。
ああ、私の××さん。私だけの××さん。
私の全てを捧げても足りない程の存在の××さんは、彼女達四人の諍いに心を痛めています。
ああそんな、そんな女の醜い争いなんかに心を痛めなくてもいいのに、
優しい××さんは部の雰囲気が悪くなることだけでなく、争っている四人に対して心配をしていました。
勿体ない、あまりにも勿体ない。そんな物、泥棒猫同士の争いなんてどこかの犬にでも喰わせておけばいいものを、
それでも他の女への心配をするなんて余りに慈悲深すぎます。
そして四人は予想通りに、お互いを牽制し合いながら○○を探しに行ってしまい、後には私と××さんだけが残されました。
「…行こっか。」
私を誘う××さん。正に計画通りの展開に、私は内心の笑みを殺して頷きました。
埃だらけの部屋の中で××さんと一緒に、居なくなった○○さんを探す振りをします。
××さんは額に汗をかきながら一生懸命に部屋の中を探していました。
そこに○○さんは居ないと知っている以上、××さんの頑張りが無駄になってしまうのを
ただ見ているだけなのは気が咎めてしまいますが、それでも××さんと一緒にいられることがとても嬉しいことです。
幸せな気分で部屋の中を探している途中に、××さんがあまりにも無理をしていたので、
思わずお節介を焼いてしまいました。
もっと自分を大切にするべきだとお節介を焼いた私に対して、あろう事か、
自分なんかよりもあの猛獣の群れの中で、○○の方を探したかっただろうにと××さんは言ったのです!
ああ、一体どういう事なのか。どうしてしまったのか。私はずっと××さんのことしか見ていなかったのに!
それを他の女と一緒にするなんて酷すぎます。あんまりです。咄嗟に××さんの心の中を読んでみますと、
一時の気の迷いで言っているのではなく、本心でそう思っていたと知りました。
その心を読んだ私の心の中に大きな衝撃が走ってしまい、
そしてそれ以降私は××さんの方をまともに見ることができませんでした。
もしも××さんが、私が他の人を狙っているなんてことを考えているのを、
もう一度読心してしまったら…そう考えると、とてもではないですが××さんと目を合わせることができませんでした。
部屋に戻ると四人が、○○さんのものと思われるスマートフォンを弄くっていました。下らない。
そのスマートフォンは○○の私用携帯なんかではなく、ただの連絡用に使っているだけのものなのに。
お前達が○○だと思って会話しているのは、本当は悪い虫が付かないように見張っている妖夢なのに。
それに血道をあける四人を見ると、誘拐なんてどうでもよくなってきました。
精々報われないなりに頑張って欲しいものです。
私が××さんの視界に入っていなかったことにショックを受けて、やさぐれてしまっている状況で、
四人の奮闘をぼうっと見ていると、いきなり霊夢が突拍子もないことを言い出しました。
「つまり○○さんは誘拐されたのよ。」
良かったね、おめでとう、正解ですよ。まあ、犯人は目の前に居るけれどね。
取り敢えず警察を勧めておきますが、霊夢は警察に連絡を取る素振りを一向に見せようとしません。
「その必要はないわ。」
おかしい。○○さんのことになると、普段の冷静さが無くなる筈の霊夢がやけに不気味です。
「○○はこの近くにいる筈だから…。」
マズイ、早苗の目つきが変わった。完全にこちらを犯人と思い込んでいます。
距離を取ろうとした瞬間に、犯人と決めつけて殺しに掛かってきそうな気配です。
私が身動きが取れずに固まっていると、××さんが私を庇って抱き寄せてくれました。
××さんに抱かれて体が固まる。こんな時なのに好きな人に抱きしめられて、
全身を血液がさっと巡り顔が赤くなったのは、きっと気のせいじゃあないでしょう。
沈黙が続く室内。霊夢がそこに割って入ってきました。
「××は犯人じゃないわ。」
やられた!敢えて××さんだけが犯人から除外された。そして駄目押しの霊夢の目線。
これで完全に××さんが人質に取られてしまいました。
ここで仮に私が逃げ出せば、○○さんと自分自身以外は全て塵以下の価値しか認めていない狂人共の中に、
××さん一人を取り残してしまうのは明白です。
良くて人間の盾、悪ければ邪魔になった瞬間に、あっさりと殺されてしまうでしょう。
私にそれができないことが分かっている霊夢は、皆に大胆な提案をしました。
「こう考えることも出来るんじゃないかしら、つまり、この中の四人の内の誰かが○○を誘拐して、
今もこのコテージか何処か近くに監禁しているってこと。だから皆で探しましょうよ。この中から犯人を見つけて。」
「いい案だな。」
と魔理沙が乗れば、残る早苗も賞品に惹かれてやる気満々です。二人は止められない。
ならばこのゲームに乗れば損をする咲夜を味方に付けて、三対三に持ち込むしかありません。
チラリと咲夜の方を見ると、計算高い彼女は両手を挙げて霊夢と真っ向から衝突することを早々と諦めていました。
心の中で元凶の咲夜に馬鹿野郎と罵声を浴びせておきます。
賽は投げられました。私は最早四人の狂人、しかも一人は絶賛監禁を行っている犯人が混じっている中から、
何としてでも××さんを守り抜かなければならなりません。
希望は蜘蛛の糸の様に細く、しかしそれでも私はやらなければなりません。
例え他人の全てを犠牲にしたとしても、××さんのために…。
皆がロビーに集合して数時間が経ち、○○を巡る事態は膠着をしていました。
誰かが○○を一人で手に入れることがないように全員が見張り合いをする中で、
部外者からすれば一見動きはないように見えますが、心の内では各々が他のライバルを出し抜いて、
○○を独占しようと作戦を練っていました。
ご苦労千万なことですが、○○を唯一解放できる犯人を封じているので、結局誰も動く事はできません。
時間だけが過ぎ去って行くなかで、各々の心の内に焦りが徐々に積み重なってきていました。
特に咲夜の心は乱れが大きくなっています。自分が折角○○を確保したというのに、
○○が失踪したことを他の人に気づかれてしまい、こうして今、動きを封じられている状況。
本当ならばこの瞬間は○○と蜜月を過ごしているのに、という果てもしない妄想と、
もし○○が見つかってしまえば終わりだという緊迫感が、彼女の心の中で波のように押し寄せています。
理性の壁でどうにか防いでいる衝動も、波が寄せるかのように何度も感じていれば我慢の限界が来るものです。
いずれ咲夜が行動に出る瞬間が来るであろうことは、そう遠くない内に起こるであろうと、私の方にも明白に感じられました。
一方で魔理沙はひたすら音楽プレイヤーを聴いています。
他の人から見れば暇を潰しているだけに過ぎないその行動も、実際は盗聴器に仕込んだ音を早送りで確認しているのです。
どのような音も聞き漏らすかとする真剣さが、音楽を聴くに相応しくない表情をもたらしていますが、
○○を案じているというお題目が掲げられている今の状況では、それ程に不自然には見られませんでした。
第一、早苗は小声で独り言をずっと言っていますし、霊夢も厳しい表情のままで目をずっと閉じています。
コテージの至る所に仕掛けた盗聴器を通じて、魔理沙は○○はどうやっているのか、
どこに居るのか、誰が監禁しているのかを必死に解析しようとしていますが、
時が止められた○○は息一つ心臓の鼓動一つすら物音をたてません。
未だに魔理沙は手掛かりを掴めない状況で悪戦苦闘し、もがいていました。
そろそろ状況が煮詰まってきましたね。仕掛ける時間が来たようなので、魔理沙に聞こえるように小声を漏らします。
「本当に○○さんは見つかりませんね。」
「…そうだな。」
手掛かりが見つからない中で声を掛けられて、やや反応が遅れる魔理沙。
上の空の彼女のヒントを流し込んでいきます。
「どこに行ったんでしょうね。屋敷の中は隈無く探したのに、まるでトリックでも使って消えてしまったようですね。」
「○○はこのコテージの中にいるわよ。一応、言っとくけど。」
捜査を継続したい霊夢が釘を刺しにくるが、構わず次のヒントに移ります。
「人の居そうな場所は全部探しましたからね。とすれば忍者の様に固まって天井裏にでも居るのでしょうか?」
或いはネズミのように、なんて冗談で付け加えた日には、
最低でもビンタか蹴りが飛んでくるであろう言葉を飲み込んでおきます
-実際には、それより狭い場所に押し込められているのですが。
それを聞いた魔理沙が考え込んでいます。ついでとばかりに付け加えておきましょう。
「あるいはホラー映画のように、秘密の地下室なんてあるのでしょうか。」
「ばっかみたい。そんなのあれば一発で分かるわよ。」
霊夢は吐き捨てるように言って、再び目を閉じました。
尚も魔理沙は考えています。
どこにも居ない○○、そんなことが出来るのは誰か?まるで手品の様に…手品!
そういえば咲夜は手品を得意にしていた!それも時間を止めていないと出来ないような
手品しかしてはいなかったのだが、その腕前はプロ級だった。
もし仮に彼女が時間を止めることができたなら、○○の時間を止めてしまうことで、
冷凍食品を保存するかのように扱うことができる。
…しかし人間を閉じ込めて置いておけるの場所は、あの二人が既に探しつくしている。
それこそ倉庫に至るまでを。ならばどこに○○を置くことができるのか、天井裏?
いや、そんな重労働は女には無理と考えるべきだ、ならば逆に地下、それも簡単に押し込める地下は
…そうか、食品を保存する収納庫が台所にあった筈!よし、今すぐそこに行って…いや、もし咲夜が来たらどうするか。
時間を止められたらこっちはお手上げだ。ならば罠を張るべきか…。
立ち上がる魔理沙。既に頭の中では無数の罠の構想が浮かんでいました。
「ちょっとコーヒーを入れてくるぜ。」
そう言って魔理沙が立ち上がりました。勿論目的は違う事にあるのですが。
「じゃあ、私も頂戴。」
ならばとばかりに霊夢が自分の分も欲しいと言います。
○○をキッチンに隠している咲夜は僅かに震えていました。そうと知っていないと分からない程の微かな動き。
だが、既に知っていた魔理沙にとっては、推理の正解を教えてくれるものとなりました。
「皆飲み物が欲しいでしょうから、私も手伝うわ。」
魔理沙を野放しにさせじと、咲夜は自分も一緒に行くと言い出しました。
「いや、咲夜先輩はいいですよ。一人でちょっと考え事をしたいんで。」
二人の間に火花が散る。口に出せば忽ちの内に終わる危ういジレンマ。
「…そう、遅くならないように気をつけてね。」
先に勝負を降りたのは咲夜の方でした。例え魔理沙がいくら○○を見つけたとしても、
時間を止めていればどうにも手の出しようがない。そう考えたのは普通ならば間違いではないのですが、
しかしそれが物理的に正しいものであったとしても、そこには欠点がありました。致命的なまでの大きな見落としが…。
魔理沙がコーヒーを持って帰ってきた後。昼食の時間となると咲夜は率先して準備を買ってでました。
魔理沙が先程の時間の内に、○○を見つけたかどうかが気に掛かり、急いでキッチンに向かう咲夜。
帰って来た魔理沙が皆に何も言わなかったことから、恐らく○○は見つかっていないと咲夜自身は考えているのですが、
それでも不安になる物でしょう。咲夜が勢いよく収納スペースの扉を開けます。
棘が刺さったのか手に痛みを感じたのですが、それよりも○○の方が心配だったのでしょう。
手の方を見ることもなく、祈るように中を覗く咲夜。いた!○○は以前に自身がが押し込めたのと同じ状態でした。
途端に気が楽になって、咲夜は上機嫌で昼食の準備に取りかかっていますね。
まだ○○を自分の物には出来ていないが、それも時間の問題。
今日の夜にでも時間を止めて○○を部屋に連れ込んで、コッソリと既成事実を行ってしまえばいいと考えている咲夜。
中々の妙手ですね。○○に事後の状態だけを見せて、後から酔って襲われたと言っておけば、
○○は否定することができないのですから-第一記憶の無いものは否定すら不可能となりますからね。
きっと責任感の強い○○は咲夜の物になるでしょう。
本当にそのままならば、ね…。
自分が妄想したバラ色の未来を想像しながら、機嫌良く鼻歌を歌って咲夜がフライパンを動かしていると、
グラリとめまいがしました。咄嗟にコンロの火を消して、熱くなったフライパンを避けるように
鈍い銀色に輝くシンクに手を付きますが、手は体重を支えられずに体ごと床に崩れ落ちましたね。
さあ、視界が暗くなってきて、音だけの世界になりましたよ。どうですか?怖いでしょう?
○○が居るであろう方向に向かって咲夜が本能的に手を伸ばしますが、暗闇の中で何も掴めません。
自身の息が段々ゆっくりになり、指に力が入らなくなってきた時、
僅かに機能していた耳に魔理沙の声が聞こえてきました。
「よう、死んだか?」
そしてそこで漸く、彼女は自分が罠に掛かったことを知りました。ああ無情とはこのことなのでしょうかねぇ。
咲夜が死んでいるのを目撃してしまったことで、××さんは衝撃を受けていました。
今まではいくら○○が居なくなっているといったからといって-実際には割りと近くで
眠らされているのですが-本当にそれが誘拐事件かどうか実感が湧いていなかったために、
心のどこかでは、本当は冗談やドッキリといったものでないかと楽観的に思っていたのですから。
それは不安になりがちな心を守る為に無意識でやっていたことだったのですが、
その幻想が血塗れの死体で暴力的に壊されてしまった以上、
剥き出しになった心に犯人の悪意が暴風雨のように叩き付けられていました。
あれだけの残酷な事をやる犯人がこの近くに潜んでいる、その事実に○○さんは半ばパニックになっていました。
○○を監禁している犯人が、コッソリと近づいてきてナイフを振り下ろす。そんな空想が頭の中を駆け巡り、
そして執拗な妄想となって××さんを苦しめていました。
そしてそれを外部に伝えることは出来ないという状況が、更に××さんのストレスになっています。
ああ、ごめんなさい。確かに霊夢は勘が鋭いので、××さんが携帯を掴む前に
××さんの胸に包丁を生やすことになるのでしょうが、それでも私と××さんが
今、この瞬間に窓を蹴破ってこのコテージから脱走してしまえば、
いくら彼女と言えども××さんを殺すことは出来ないのですから。
まあ、その代わりに私がやられる以上、やりませんけれどね。痛いですし。
それに本当は霊夢だって気が付いているんですからね。
あれだけ勘が鋭いのに犯人に気が付かないなんて事、よく考えたら不自然だと思いませんか?
あれ、実は誰が犯人かって分かっているんですよ。あくまでも気が付かない振りをしているだけ。
○○を手に入れて浮かれている魔理沙と情緒不安定な早苗は分かっていませんが…。
さて、それでは夕飯を「処分」しないといけませんね。万が一ということがありますし。
しかしあの女、いくら自分に耐性があるからって、全部の料理に睡眠薬を入れるのはやり過ぎじゃないでしょう
か?流石サイコパス顔負けの魔女っぷりという奴ですね。おかげで全部吐かないといけなくなりましたよ…
まあ、今晩お前は死ぬからいいんですけれどね
皆がロビーで眠りに就いた頃、魔理沙がこっそりと抜け出した時分に、あろう事か××さんが起きてしまいました。
…これはちょっとマズイ状態ですね。前日まで風邪薬を飲んでいたせいで、
市販の睡眠導入剤が効きにくくなっていた様ですね。
この状態で魔理沙が居ない事に気づくのは、計画が崩れます。
折角薬が効かない早苗に魔理沙を始末させないといけないのに、この状態で××さんが騒いでしまい、
皆が起きて監禁されている○○が見つかってしまえば、
最悪狂人三人で何でもありのバトルロアイヤルが始まってしまいそうなのは問題です。
少なくとも私は巻き添えを食らうでしょうから。あの女共に一対一では勝てない以上、
このまま計画通りに進める必要があります。
空いたソファーが××さんから見えない様にして、ついでに早苗のソファーを蹴飛ばしておいて、
××さんの手を握れば大丈夫…うう、ドキドキするなぁ…。
さて、こっちが眠りに付いたと思った早苗が計画通りに魔理沙を探しに出かけた様ですし、
奇跡の力で薬を消してしまった早苗に比べて、皆が眠っていると思い込んで油断している上に、
いくら慣れているといっても導入剤の影響でふらついてい魔理沙ならば…。
いやあ、今日の夜は夢の中で良い悲鳴を聞けそうで楽しみです…。
予定通り魔理沙がいなくなった今、コテージの中には私と××さんを除けば
霊夢と早苗の二人だけになっていました。三人が容疑者となっていた昨日までと違い、
ここまでくれば最早、お互いに誰が殺人犯なのか、そして○○を監禁しているのは誰なのかは
霊夢と早苗にとっては明白となっています。自分がしていないならば、相手が犯人。
白で無ければ黒というのは普段は些か乱暴な論理ですが、この状態では真実になっています。
しかしいくら相手に危害を加えたくても、今すぐに行動を起こすことは出来ません。
霊夢が最初に言った、「誰か他の人が居るかもしれない」という話しが
-まあ、本人は嘘と分かって言っていましたが-今の二人をギリギリの所で
縛り付けています。もしも相手が凶器を取り出してきたら私達二人を盾にして、
しかる後に相手を糾弾しながら堂々と正当防衛を掲げて反撃をするという、
後の先が成立するそんな状態では、しばらく膠着が続くのも無理ではないでしょう。
仕方ありませんね。その膠着を崩してみましょうか。丁度外に厄介な相手も居ることですし。
「皆さん、トランプをしませんか。」
不審げな顔をする皆、それはそうでしょう。
今から殺し合いが始まるかという状態で、暢気に遊びをする人なんてそうはいませんから。
是には訳がある事を二人に伝えるために、テーブルの下でスマートフォンを操作して、
霊夢と早苗に今まで使っていたSMSでは無く、敢えてメールを使って文章を送ります。
同時に着信する二人の携帯。二人とも画面を一読して事情が掴めた様です。
二人が説得できれば後は××さんを誘導するだけです。
修羅場を潜ってきた面の皮が厚い二人とは違って、
××さんに今、窓の外に人が居るなんて言ってしまえば、きっと態度に出てしまうでしょうから…。
一芝居を打って妖夢を捕まえると、予想通りに霊夢と早苗は妖夢を尋問すると言い出しました。
急に第三者が出てきたことをこれ幸いとして、今までの罪を妖夢に被せてしまう積りですね。
××さんも薄々は感じているのでしょう。
自分の目の届かない所に妖夢を連れて行かせないようにしていますが、ここは黙っておきましょう。
あの二人は絶対にやるでしょうから。
しかし××さんは知らないとはいえ、実は結構危ない状況だったんですよ。
前々から妖夢が○○のSMSを監視していたのは知っていましたが、
それでわざわざここまで来るのは予想外でした。
大人しく警察を呼んでくれていたら良い物を…いえ、それも後々はマズイですね。
あの女のことでしょうから、私と××さんが○○を見捨てたと勝手に思い込んで、
後からこっちを襲撃してこないとも限りませんし…。
それにあの女が来たせいで、霊夢と早苗が争っている隙に、××さんと二人で
逃亡することが出来なくなってしまいましたからねえ。
全く、「色々な物を断ち切る能力」で○○に纏わり付く他の女との縁を消してしまうだけでは飽き足らずに、
魔理沙に負けず劣らず色々裏ではやらかしているのは大概でしょうに。
あの女をどうにかしない限りは、逃げだそうとした瞬間に後ろからご自慢の小刀でグサリとやられるか、
不意を突い寝首を掻かれるか、となっていたのは目に見えています。
……あらあら、中々妖夢も強情ですね。
まあ、やっていない事を認めるなんてことは私でも嫌ですが、あそこまでされてもなお、
○○の事を一番に考えて居られるのは流石ですね。
褒めてませんけれども。そして散々に妖夢を痛めつけた二人は、
やはり○○を監禁している犯人に目星が付いたのでしょう。えげつない顔で宣言していますね。
全く××さんが引いてしまっていますよ。…駄目ですよ、××さん。あなたはここに居ないといけませんよ。
どうせ○○は既に「死んで」いるんですから、××さんが行っても無駄ですよ。
いくら××さんが他のゴミのような奴らにも優しいからと言っても、こんな危ない場所には行かせられません。
だから私と一緒にいて下さいね。
最後の仕掛けをしておきますから。さて、妖夢をこっちに付かせないといけませんね。
こっちを霊夢や早苗の味方だと疑っているようですが、それをどうにかしましょうか。
まずは手始めに相手に喋らせましょうか。
「妖夢さん、あなたが本当に咲夜さんや魔理沙さんを殺したんですか…?」
「…そんな訳、…ない…。」
おお、怖い。流石に爪を剥がされただけあって、こっちのことも相当疑っている様ですね。
「じゃあどうして、SMSを監視していたんですか。こっそり私達を殺そうとしていたんですか。」
「○○に纏わり付く虫を払っていただけ…。」
その時点でまともじゃありませんが、まあ会話を続けましょうか。
「そんな…とても信じられません。」
「この後で霊夢か早苗に私を突き出す気?」
「……。」
さて、そろそろ仕掛けてくる頃合いでしょうか。
「手首のロープを切って。」
「そ、そんな…。」
「分かった。自転車の鍵を渡しておくから、それと引き替えにして。危なくなったらそれで、”一人で”逃げれば良い。」
「わ、わかりました…。」
ええ、よく分かりましたよ。あなたが××さんを利用しようとしていることが。
霊夢に復讐するのは勝手ですが、私の××さんを巻き込まないようにして欲しいものですね。全く。
さて、予想通りに霊夢が帰って来ますね。
妖夢の方は既にナイフを隠し持っている様ですし、××さんを手元に戻しておきましょうか。
いやはや、血に濡れた全身であっても、服を着替えてしまえば案外隠せるものですね。
馬子にも衣装、という奴でしょうか。まあ後髪に血が付いているのは隠せていませんが。
さて、霊夢はどう出てくるのか…。
「××、結局そこの妖夢と早苗が犯人だったのよ。皆を殺したのはそいつら二人。」
おやおや、これは…またストレートな嘘をついてきました。
まあ死人に口なしで押し通す積りなら、それが一番ですね。この場で妖夢を
犯人にするのは果たして…私達を助ける気があるためか、それとも後で全部殺すためか…。
それによって対応も少し変わりますからね…。
あらあら、これはいけませんね。先に妖夢を殺してから、後で私と××さんも殺してしまう積りの様ですね。
後日証言をされては色々不味いと思っているのは正解ですよ、
ええ。このコテージに密室を作り上げたのは紛れも無く、霊夢、あなたですから。
どう頑張ってもここで自分と○○以外を殺してしまわないと、コテージを出た後でボロが出るかも知れませんからね。
さあ、それでは、最後の計画をぶつけてみましょうか…。
「負けましたよ。××さんを人質に取られてしまっては、こっちの負けです。妖夢さんを渡します。」
一歩、一歩、××さんが歩いて行きます。妖夢を××さんから手渡された瞬間に、その場で殺す考えの霊夢。
巧みに背中側をこちらに見せないようにしていますが、そこには大きな刃物が隠されています。
妖夢の方は霊夢の側に近寄った隙に隠し持っているナイフで刺そうとしていますね。
自転車の鍵を持っていなくて、逃げ出す心配が無い××さんと協力して、二対一で霊夢を押さえる考えなのは、
それ以外に逆転の方法が無いからです。そして××さんの心の中には、○○の状況ばかり。
三者三様の考えをする中、残る時間はあと僅か一歩半。
「下がって!」
××さんの手を引いてそのまま身を反転し、大きく開いている窓を目指します。
××さんを利用しようとしていた妖夢は一瞬固まって、そこに霊夢が刃物を振りかぶる。
そうはさせじと霊夢を押し倒す妖夢。
どちらも私達二人が逃げ出すのは想定外だった様ですが、
まずは目の前にいる相手ををどうにかしないといけません。ええ、凶器を持っている相手を。
人一人を殺した後で、私達を追いかけてくる気力が残っていればいいですね、本当に…。
自転車で山道を疾走し、麓の公道まで来ると息も絶え絶えになっていました。
ここまで来れば大丈夫でしょう。丁度迎えの車も来る様ですし。
××さんが警察の連絡を頼んでいると、山の上ではフィナーレを迎えた様でした。
私達にとっては都合の良いことに、霊夢の方が生き残った様ですね。後々の面倒が無くって良かったです。
妖夢の方が生き残っていたら報復があり得ましたからね。私達が逃げた時の一瞬の硬直が元で、
深い傷を負ったのが勝敗を分けましたか。
霊夢が戦利品を得るために部屋に向かって行きます。いやあ、中々○○も災難でした。
時を止められた後は睡眠薬で眠らされたかと思えば、早苗によって仮死状態にさせられて、
その後で霊夢が早苗に無理に奇跡を使わせて、蘇生させたのですからね。
まあ、自業自得ですが!!
ええ本当に。人の事を根暗と言って馬鹿にしていたあのクソ女共に、
○○の周囲を無差別に荒らす恋人気取りの狂人。
そして何よりも、自分のせいで××さんに迷惑が掛かっているのを理解していながらも、
何もしなかったあの男!私だけならばまだしもお前が居るせいで、
××さんが雌犬共に邪険にされているのが分かっていただろうに!!
××さんはお前のことを親友だと思っていたのに、お前は親友だと思っていなかったのか!
それが親友にする仕打ちなのか!ザマア見ろ!お前を慕っていた女共は皆殺し合いをして、
最後にお前は殺人鬼と一緒に無理心中させられるんだ!!
せめて地獄で××さんに償っていろ! …はあ、少々心の中に溜まっていた物が押さえ切れませんでした。
私が内心で笑っていることが、××さんにバレてはいけません。
「結局は誰が犯人だったんだろうか。」
御免なさい××さん。犯人はあいつらですが、黒幕は私です。
でも、それはお伝えできません。一生私の心の中に仕舞っておくべきものなのですから。
「○○はどうなったんだろう。」
今、霊夢と初めて同士で仲良くやっていますよ。もっとも、喜んでいるのは霊夢の方だけかもしれませんが。
まあ、「一生の」「忘れられない」思い出になってよかったんじゃないですかねぇ。
なにせ霊夢の方はもう、じきに警察が押し寄せて来ることに気が付いて、準備をしていますから。
「…さとりはどこまで分かっていたの?」
「何も知りませんよ…。でも、××さんが無事で良かったです。ただ、それだけです。」
これだけは本当、本当の私の気持ち。
嘘で塗れた私に唯一残ったのが××さん、あなたです。私のあなたへの愛だけは本当のものです。
そしてそれを実現できたのは私の能力のお陰。心を読む能力は本当に素晴らしい。
どんな相手にも通用する最高の力。他のどんな能力も及ばないこの力を使って、私はあなたを愛します。
感想
- 素晴らしい -- 名無しさん (2019-04-05 15:01:59)
- これの後日談が見て見たいです -- さとりだいすき (2019-10-08 03:17:58)
- ほんまに好き -- 名無し (2022-06-12 19:19:39)
最終更新:2022年06月12日 19:19