猫色骨董店2

 温暖化の影響か例年よりも暑かった日々が過ぎ去り、爽やかな空気が朝の街に流れるようになった頃、
静かな店内の一室で店員は椅子に座っていた。
ビジネスマンが行き交う忙しない外の世界とは切り離された、落ち着いた時間が流れる店の中。
店員の膝の上には一匹の猫が座っていた。撫でるように手を動かす店員。
このまま何事も無く今日が過ぎ去っていくかと店員が思ったその時に、客が一人入って来た。
「いらっしゃい。」
何回か見た事のある客に声を掛ける。普通の質屋ならば馴染みの客の一人や二人は居るのであろうが、
生憎この店はブランド物や宝石というような在り来たりの物は扱っていない。
必然、客は一期一会が多くなっていた。
「また、これを頼むよ。」
男が取り出したのは人形のぬいぐるみだった。
金色の髪に緑の目とくれば、西洋人形をモチーフにしているような気がするが
彼女に付いている尖った耳が、彼女が人外だと教えていた。
慣れた手つきで人形をテーブルの上に乗せた後で、男は気怠げに椅子に座って店員の査定を待っていた。
「今回はこちらの金額で。」
店員が一枚紙を千切る。すると紙は風にに吹かれた様にふわりと飛んでいき、男の手元に着地した。
「おっ、ラッキー。前回よりも金額が上がってるじゃん。」
「そちらの人形の評価です。」
予想よりも金額が良かったのか、ホクホク顔で男は言う。
「やっぱ最高だわ。呪いの人形なんて売っちまえば、何回でも稼げるんだから。」
「…そうですか。恐らく今回の査定が最後になるかと。」
「…?あっそ。そんじゃね。」
店員が意味深げな言葉を言うも、人形への興味が薄れた男は、さっさと店を出て行った。

 それから暫くしてドアに付けた呼び鈴が鳴り、再び客が現れた。
「いらっしゃい。」
こちらも何回か見た事のある客に店員が声を掛ける。彼女はいつも、男の後にこの店にやってきた。
「この人形、引き取ります。」
金色の髪に尖った耳、そして嫉妬に駆られた緑色の目をした女が、男がこの店で売った人形を買い戻す。
自分そっくりに仕立て上げた、呪いを掛けた依り代の人形を。
男が売る度に人形の値段は高くなり、そして呪いはその度に深くなっていく。
幾度も繰り返された一連の行為によって、既に男の手足には雁字搦めに呪いが掛かっていた。
「次は頭ですか?」
ふと店員が女に尋ねる。男を救うなんていう崇高な気持ちでは無く、単純な興味として。
「次は心臓、頭はその次。」
それだけを言い残して女は去っていった。人形が女の持っていた袋に入れられた時、金属がジャラリと音を立てた。
 客が居なくなった店で、店員は猫の背中を撫でながら独り言のように話す。
「ねえ、橙。一思いに藁人形の頭を打ち抜くんじゃなくて、わざわざ魂を絡め取ってから命を奪うようだね。
まあ、彼の寿命が一回伸びたと思えばいいのかな…。」
店員に返事をするかのように、猫が鳴き声をあげた。






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最終更新:2018年10月07日 12:29