「さよなら」




「さよなら」




まだ空が藍色に染まっていない夕時に掃除を終えた後、二人で境内を歩いていた。
霊夢は竹箒を引き摺りながら膝をつんのめらして。夜の風の靡きだけが森の暗闇から僕らをみていた。
霊夢はうつ向いたまま、独り言を呟くように突然ぽつりぽつりと話はじめた。

「ありがとうって言いにくいよね」



「気付いてなかったんだけどさ」

「あんたがここに来るまで、私は寂しかったんだと思う」

「ずっと一人でここに居てさ。秋とか春とか紅葉に桜になったりさ。そんなの見ても何も感じなかったし、興味もなかった」

すうっと夜空を見上ると、長い黒髪が顔から零れるように肩に落ちた。

「あたしね、一回くらいは考えたのよ。でもね、そんなこと意味ないって分かってた。」

「意味なんてあっちゃいけないもの」

「私さ、どこにいても、ここにいかなきゃいけないし。誰とも関わっちゃいけないの」

「でもね」

彼女が歩を止めてこちらを振り向くと、
その顔は僅かばかり強張ってるように見えた。らしくない表情だった、少なくとも二年傍にいた中では。
そんな自分に気付いたのか、霊夢は一瞬小さく口許を緩めると髪を振り乱せて、また前を向いて大きくじゃくじゃくと砂利道を踏み進めた。

「やめた」

変に機嫌がよさそうなふりをしている癖には、その声色はどこか諦めたようなものだった。


二日後、僕は故郷へ還った。

そして、その一年後には、
彼女は結婚して子供を産んだ。
まだ、顔が赤く目も開いていないその子供を見て彼女は泣きながらこう言ったそうだ。

「さよなら、○○」






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最終更新:2019年02月02日 18:20