アルカナゲーム4
暗い部屋の中で僕は一人椅子に座っていた。
反射的に周囲を見回すも辺りは闇に包まれて何も見えない。
視線を手前に戻すと、目の前の机に幾枚かのカードが散らばっているのが見えた。
闇の中に浮かびあがるカードを見ていると、手前に二枚のカードが飛び出してきた。
青い髪の幼い少女が描かれたカードと、それよりかは少し大人びているであろう桃色の髪をした少女が描かれたカード。
自分の目の前に浮かぶカードはまるでゲームのようにゆっくりと回転していた。
まるで、どちらかを選択するのを待っているかのように。
この中からどちらかを選ばなければならないのだろうか?何のことかも分からずに、
突然何かを選択しないといけないのだろうか?それはあまりにも唐突で、そして説明がなさ過ぎた。
これではあまりにも無茶苦茶ではないか。
これから一緒に過ごすパートナーを決めるには…。
「…ん、パートナー…?」
自分の思考に疑問が湧く。一体どういうことだろうか?パートナーとは何のことだろうか?
どうして僕はそれを、いや、そのことだけを知っているのだろうか?疑問が頭の中を駆け巡る。
思い出そうにも、それ以外のことは一切浮かばず、焦燥だけが過ぎていく。そんな時に、声を掛けられた。
「お困りの様ですね。」
いつの間に現れたのだろうか、僕の目の前には女性が座っていた。
胡散臭げな紫色のドレスを身に纏い、ニヤリ、ニヤリと笑みをうかべていた。
童話に出てくるチェシャ猫のように、まさに人を食ったような表情で、彼女は話す。
「色々と疑問がありますね。ですがそれらは些細な事。これから貴方が選択することに比べれば、ですが。」
「選択って言っても、この中から二人を選ぶなんて、色々と無茶じゃないか。」
「残念ながら貴方には選んで頂きます。…それはとてもとても残酷なこと。」
人間の癖に、まるで融通が利かないポンコツのプログラミングが組み込まれたコンピューターもどきの回答をする彼女。
目の前の彼女から情報を得ることを諦めて、浮かんでいる二枚のカードをジッと見つめる。
しかし、いくら考えても選べない、いきなりどちらかの少女を選べなんて言われても、どだい無理な話しだろう。
いっその事、二人とも選べば良いのではないかと思った。
「あら、本当にそうされるおつもりですか?」
こちらの心を読んだようなことを言う彼女。ならば勿体ぶらずに言って欲しいものだという感情が湧いた。
「地獄の炎にも勝る二人の嫉妬を同時に受けて、果たして無事で済むとお思いですか?片方と一緒に居れば反対から恨まれて、
三人でいれば針の筵。どちらからも逃げれば…。さてはて、逃げられれば良いですね。針の穴にラクダを通す試みに他なりませんが。」
そこで言葉を切る彼女。そうまで言われれば、どちらかを選ばなければならないのだろう。そして僕は-
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「ありがとう。選んでくれて。」
カードを選んだ僕は気が付くとさっきとは別の場所にいて、そして目の前には選んだ方の少女がいた。
恋人のカードに描かれていた彼女。桃色の髪をした彼女が僕の手を両手でギュッと握る。
「さあ、私を選んでくれたのだから一緒になりましょう。」
ドキリと心臓が鳴る。美しい彼女にそう言われたためだけではなく、むしろ本能が警告を鳴らしたような気がした。
僕に抱きつく格好で腕を背中に回す彼女。彼女の綺麗な声が歌うように耳に届いた。
「ドロドロに溶かしてあげるわ。意識を溶かしきって何も何も無くなる位に。」
途端に空気が歪んだ。視界はそのままの景色を普通の世界を映している筈なのに、世界が曲りグニャリと歪む。
皮膚の感覚が切り離されて、目の前の彼女の感覚を感じるだけになり、
怖くなった僕は彼女を強く抱きしめる格好となった。
「ふふふ、大丈夫、意識の垣根を取り払うだけだから。深い深い海に溶けるように、
貴方の意識を私に溶け込ませてあげる。とても気持ちが良い世界。ドロドロの快感を味わわせてあげる。」
感覚が消え上も下も解らない世界。
グルグルと螺旋を描くように彼女だけを見ながら沈んでいく。
神経は泥が詰め込まれたかのように伝わらなくなり、脳の方に彼女から伝わった何かが迫っていく。
手足は動かないのに、意識は体を越えてどこかに飛んでいきそうだった。
「…あっちの方よりかはマシよ。私は心を溶かすだけだから。」
僅かに残った心の残渣が取り払われて、僕の意識は眠るように沈んでいった。
感想
最終更新:2018年12月16日 22:28