私は父様があまり好きではない。
 別に虐待を受けているというわけではないし、むしろ愛情いっぱいに育ててもらっている思う。
 性格だって温厚で、悪戯をして叱られることはあっても感情に任せて怒られたことなんて私の記憶上一度もない。
 優しくて、暖かい人。
 それでも私は父様を好きだと言えない。だって、父様は毎日家で遊んでいるから。
 友達のお父さんが日中働いている間、父様は家でゴロゴロしている。
 本を読んだり、筋トレとやらをしたり、猫と戯れたり、とにかく里の大人とは思えないような過ごし方をしているのだ。
 代わりに家事をするのかといえばそうでもなく、家のことは全て母様か女中さん達がしていて、それを見ているとモヤモヤする。
 そして私が一番嫌なのは、父様は母様にだけ少し横柄であることだ。
 母様が家のことを取り仕切り、お仕事までしているのに、父様は日に何度か母様にわがままを言う。
 小腹が空いた、喉が乾いた、肩が凝った、暑い、寒い。
 そんな、まるで子どものようなことを母様の忙しさそっちのけで放り込む。
 私だったら怒りそうなものだが、母様は母様で、そう言われると嬉しそうに父様の不満を解消し始め、それがまた私のモヤモヤを大きくする。
 なぜ私の父様はこんなのなのだろうか。幼い頃、私は気になって聞いたことがある。『どうして父様は働かないの?どうして母様に負担ばかりかけるの?』と。
 すると父様は困ったように笑って、『俺がどうしようもない人間だからだ』と返してきた。
 幼い私は――今でもそう思うが――その言葉が頭にきて、母様の方へと走っていき、先の父様との会話を母様に伝えた。
 大好きな母様のことを蔑ろにする父様を許せなくて、母様にそれを許して欲しくなくて。
 けれど母様はそれを聞いても嬉しそうにするだけで、私は理解してもらえないことに涙した。
 すると母様は困ったように私を抱き上げ、あやし始める。母様の腕の中で愚図りながらも、私は母様が零した言葉が頭にこびりついた。
 「ごめんなさい。でも本当は私が駄目な母様で、あの人はなにも悪くないの。どうかあの人を怒らないであげてちょうだい」
 寺子屋に通うようになった今でもあの言葉の意味は分からない。ゆえに私は父様に対して怒りを覚えてしまう。
 今日も父様は働きもしないで、母様につまらないわがままを言っている。
 きっとこの日常が変わることはなくて、だから私は父様を好きになることはないのだと思う。






感想

  • 直接的なヤンデレの描写がない作品だとこれが一番好きかも -- 名無しさん (2019-01-29 03:17:48)
  • 母様の願いで父様はこうなっちゃったんだな。めちゃくちゃ良い -- 名無しさん (2019-04-21 07:37:39)
  • 確かに良いけど寺子屋の単語以外これ東方?なってなるね -- 名無しさん (2019-04-21 18:26:56)
  • 申し訳なさありません日本語がおかしくなりました -- 名無しさん (2019-04-21 18:27:46)
  • 明記されてないけど描写的に母様は阿求だよね?この話 -- 名無しさん (2019-04-24 07:35:55)
  • この話分類不明カテゴリで一番好きかも -- 名無しさん (2019-09-13 11:34:00)
  • 細かい描写がないのに母様と父様のやり取りが目に浮かぶ。隠れた名作って感じ。 -- 名無しさん (2022-05-26 03:29:49)
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最終更新:2022年05月26日 03:29