引力に引かれて
引力に引かれて
「今日は如何ですか?」
まだ日が高い昼の時間であったが、おそるおそるといった風に
魔理沙が私に切り出してきた。
既に夫婦となって久しいのだが、矢張り気恥ずかしさといったものがあるのであろうか、
こういう時の彼女にはどこかしらの躊躇いがみえた。
「最近お仕事を頑張られてお疲れでしょうし、それに明日は休みでございますし…。」
「そ、それに…久し振りでございます…し。」
とってつけたような言い訳を話している内に顔が赤くなり、最後の方は小声になる魔理沙。
そんな彼女の頭を撫でてやり、一言頼むと告げればたちまち顔に明りが差してくる。
「はい、あなた。喜んで。」
そう言って下がる魔理沙。夜に向けて色々と準備をするために、使用人に言付けをする彼女を私は見送った。
夕餉が済んで部屋の障子に明るい月の影がが映る時分になると、妻が手ずからに盆を一つ運んで来た。
綺麗に漆が塗られた朱塗りに金色の細工が施されたものに、白い徳利と猪口が一つづつ載っている。
猪口を持つ私に透き通った水を注ぐ魔理沙。別に彼女が下戸という訳ではない。
むしろ酒には強い方であり、どちらかというならば蟒蛇と言われる方であろう。
しかしその酒を飲むのは私だけである。妻が私のためだけに作った酒であるが故に。
注がれた酒が口を通り過ぎ、胃へつうっと落ちていく。
口に味すらも残さずに消えていく様は、成程これぞ気狂いの水と言われんがばかりであろうか。
痺れた頭に黒色の感情が湧き上がってくる。
ああ、今晩は「これ」のようだ。
「口惜しい。」
「なんでございましょうか。」
側にいる妻を引き寄せる。
流されるようにこちらに寄りかかる彼女。
部屋が暖かくされているためであろうか、薄い着物に彩られた魔理沙の起伏が目に付いた。
媚びるような、不安げな色を瞳に湛えた彼女へ囁いた。
「お前が他の男に抱かれることができるのが、口惜しい。」
ぷつり、と頭の筋が切れた音がして、私は魔理沙を畳に押し倒していた。
癖のある髪が下地に散らばり、はだけた服から見える白い首筋が、現代に比べればやや薄暗い部屋の中に浮かび上がっていた。
「私はこうやってお前としかできないのに、お前にはそれがない。」
「それが堪らない。嫌だ、嫌だ。他の男に取られるなんて気が狂いそうだ。」
駄々っ子の様にわめきながら自分の体重を魔理沙に押しつける。
私の頭の後ろに魔理沙の手が廻り、顔が彼女の胸元に押しつけられた。
ぎゅうぎゅうと音が出そうな程に私を抱きしめる魔理沙。きっと今、溶けたような顔を妻はしているのだろう。
「うふふ、うひひ。」
感情が高ぶった時の癖、そのままに衝動を堪える魔理沙。
やがてねじれきった愛情が、限界まで達して溢れ出した。
「うふふ、そう思ってらっしゃったんですね、あなた。」
「そうですわね。私としかできないようにしたんですものね。
いくら私があなた様だけしか愛していなくても、男の人なら不安になりますものね。」
「大丈夫ですよ…。ほうら、今、操を守らなければ直ぐに死ぬ呪いを掛けましたから。
これで私は一生、あなただけの物だとお分かりでしょう?」
「ですから、たっぷり可愛がって下さいね。私を抱けるのはあなただけなのですから。」
感想
最終更新:2019年01月24日 00:31