天人五衰
天人五衰
ちょいとお兄さん、こっちに来てくれないかい?少し占おうじゃないか。
ああ見料は要らないよ。そんなちんけなことなんて必要ないさ。
なにせこれからお兄さんに起こることに比べれば、そんなこと大したことじゃないんだからね。
ふーむ。やっぱりお兄さんちょっと特殊だね。
ここの住人の人は陰陽師の末裔が多いらしいが、お兄さんも何か修行でもした口なのかい?
へえ、そんなことはちっともしていないんだね。
そうかい…。それじゃあ一体どういうことなのかな?
実はお兄さんの体からどんどん気が抜けていっているんだよ。
ああ、今この瞬間にもどんどんと無くなっているんだよ。
まあ普通の人には見えないけれどね。
どうやらお兄さんが元々持っていた気が尋常じゃないぐらい多いから、
今はどうにか持ちこたえているんだけれどもさ、この調子で抜けていってしまえば、
その内空になってしまうんじゃないかって、心配になって声を掛けたんだよ。
そうさな想像しにくければこう考えてもいい。
人間が持っている霊力で仮に空中を飛べるとしよう。
まあ普通の人間なら丁度飛び跳ねた位、一メートルも浮かべば上出来だな。
少し修行した人物なんてのは、屋根ぐらいまでは空中浮遊ができる位だな。
そして妖怪やら巫女なんて連中は空を飛べる訳さ。
俺かい?大したことはないさ。精々が一メートルにおまけが付く程度。
自力でその程度飛べる連中なんて山程いるし、なんなら山の中で走って獲物を狩っている猟師の方が強いんじゃないかい?
ああ、話しが逸れてしまった。
そうそう、霊力の話しだな。そしてお兄さんはなんと、空高く雲に達する程なんだよ。
おや疑っているね。本当だよ。
信じられないかもしれないけれども、これはこうやって外界の電気を使った珠算機を弾けば
…ほら、この通り。並みの妖怪では手も足も出ない程さ。
正直どうしてそんなに霊力が高いのか、不思議でしょうがないね。
ほんとに何にも心辺りがないのかい?まあだけれども、それが今は抜けてしまっているんだよ。
普通の人間ならば元々霊力が無いからいいんだけれどもね、お兄さんみたいに空高く飛んでいた人が落ちれば、
丁度空から落ちたみたいに体に衝撃が来るんだよね。天人五衰とはよく言ったもんだね。
さあ、これについても珠算機を弾いて、ううむ…。丁度後二日といったところだね。
え?何がって?お兄さんの残りの寿命さ。
今まさに空からどんどん落ちていっている状態だから、
二日後にお日様が傾き出す頃には目出度く地面に接吻できるって寸法だね。
ああ、悪い悪い。あんまりにもお兄さんが暢気だから、茶化してしまったよ。
うん、どうにかできないのかって?それは少々難しいなあ。
並みのお寺や神社では落ちるのを弱めることすら出来やしない。
え、命蓮寺かい?普通なら良い選択なんだけれどなあ…。
そんなに素養があったなら、そこで十年修行すればひょっとすれば、そ
れだけの力を自分で手にすることが出来たのかもしれないんだけれども、
今からじゃあ遅すぎるってことよ。
ああ、お兄さん、言い忘れていたけれど二日ってのは文字通りの死ぬまでの時間だからね。
先に体の方が動けなくなってしまうから、まともに動けるのは今日の日が暮れるまでってところだよ。
夜?駄目駄目。弱っている人間なんて幽霊や妖怪のご馳走じゃないか。
そんなの今すぐに死神を呼んできて魂を刈り取って貰った方がいい位だよ。
なにせ痛いのは一瞬だからね。そっちは。
どうすれば良いかって…?お兄さん本当は知っているんだろ?
思い当たる節があるけれど、それを選ぶのが嫌だから、わざと頭の中から消して、
他の方法を探しているんじゃないかい?
どうして霊力なんて何も知らない只の一般人が、そんなに高い霊力を持っているんだい?
きっと徳の高い天人様か誰かから貰ったか、贔屓にされているんじゃないかい?
そしてどうしてそれが今、そんなに凄い勢いで消えてしまおうとしているんだい?それが消えてしまえばお兄さ
んが不味いことになるのはその天人様も知っている筈だよ。
折角霊力をあげるなんてことをしているのに、何も理由が無いのに消すなんてことはないんじゃないのかい?
まるで天人様に嫌われてしまって、加護を受けられなくなってしまっている感じさね。
さあ、どうすればいいか、お兄さん分かったんじゃないかい?
いやはや全く…手遅れになる前に、天人様の元に
戻らないといけないんじゃないかねえ…。
感想
最終更新:2019年02月25日 04:42