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この曲、どこで聞いたんだっけ
ヘッドホンから聞こえるBGMに耳を傾ける
確か、なんかのドラマの…映画だった気も…
がくん。
首の落ちる衝撃に目を覚ます、はてさっきまで何を考えていたのか思いだせない
今何時なのか、パソコンのモニターの隅の時計を探すが霞んで数字もなにもとらえることができない
目をグシグシと擦る、その一瞬目を閉じた為か眠りに入るもまた首を落とし目を覚ます。だがそれもほんの一瞬だけ、起きたのはなにかの間違いだったかのように意識は夢の中へとかけていく
モニターにうつる書きかけのSSをぼんやりと捉えながら、なにも考えられず不確かな覚醒と睡眠を繰り返している
遂に力尽き、奮発して購入した超カッコいいパソコンチェアに不恰好に身を沈めた
些細な抵抗もできなかったエナジードリンクの缶は力なく倒れデスクに広がり絨毯へとポタポタ落ちていく
彼はもう知ることはないがパソコンに表示された時刻は03:23。
いつしかBGMは終わりヘッドホンから漏れる音は聞こえない。夜の静寂に包まれて、部屋の中に潜む家電の囁き声と部屋主の汚い寝息が聞こえるばかり
誰もいない。仄かな風がカーテンを揺らす


当時、男はとあるソシャゲの推しキャラが排出されるガチャのために学業の合間に勤めて得たなけなしのバイト代で課金を行い、無惨に屍を晒した
さらに友人がログインボーナスだけで得たアイテムでガチャを回す所謂無料ガチャで自分の目当てのキャラを引き当てたのもだから彼の心中をどうか察して欲しい
その苛立ちをぶつけるが如くパソコンに向かいキーボードを叩き出した
勢いというものがある、鉄は熱いうちに叩け。この『高ぶっている』間にSSを書き上げてスレに投下し賞賛の声を浴びようと目論んでいた
しかし勢いだけで書き上げることができるなら誰も苦労はしない。次第に文章が雑になりタイピングの速度はみるみるうちに落ちていく
しまいには動画サイトにて良さそうな作業BGMを探し回り結局それだけで30分は無駄にする
亀の歩みのような進捗でタイピングを続けている、書いては消して、書いては消して、その繰り返しを何度も何度も
眠気で頭は回らない、先程までTwitterをやっていた癖に『今日中にしあげなければ』という無用な使命感に突き動かされそれでも鈍く鈍く進んでいく
そして意識は途切れいつの間にか迎えた朝、自分のイビキで目を覚ます
時刻は08:48。その数字に冷や汗をかき完全に遅刻コース確定だと跳ね起きたが今日は日曜日。奇しくもプリキュアを見逃したことの方が悔しく感じられた
寝ぼけ眼でホットサンドメーカーにパンを挟む。タイマーをセットしてテレビをつけるとちょうど仮面ライダーが始まった
焼けたパンを頬張りながらヒーロー番組を眺めるのどかな日曜日。
さて今日は何をするか、映画でも見ようかな
そういえば昨日遅くまでSS書いてたな、まぁ別にいっかそんなすぐ投下しなきゃいけないやつじゃないし一週間もあれば書けるだろ(書けない)
どこまで書いたんだっけ?っていうか保存したか?
パソコンに向かいつきっぱなしだった画面を確認する
昨夜のことを思い出すように文章を読み返していく
読み返していく
読み返していく
読み返していく

読み返している。そのはずだ
俺が書いたのだから…内容も全部わかるはずなのだ
なのに、なのに
この文章に見覚えがない。書き覚えがない。
全く関係ないページでも開いたか?いや違う、キチンとファイル名は自分のものだ
寝ぼけている間に俺が書いた?それも違う、自分の作風じゃない。
例えば、例えばこの単語…えっと…漢字読めないけど……こんな言葉知らない
待て、待て、待て。なんだ、どういうことだ?
『誰』が書いたんだ?だとしたらどうやって?
寝落ちして書きかけが『パァ』になった話ならよく聞く、よく聞くが
書き足されているだなんて、何がどうなって…

読み返していく
口はだらしなく半開きになっている
しかしスクロールは止まらない、それほどまでに作品に引き込まれていく
自分の考えていた拙いストーリーなんかよりずっとおもしろく、恐ろしい
得体のしれない文字の羅列に明確な危険を感じながらもホイールを動かす指は止まらない。止められない

よくよく考えてみれば、掲示板の皆の顔だって見たこともないし声も聞いたことがない。
当然名前も知らないしどんな人間なのかもわかるべくもない
いままでそうだったじゃないか
そんなことはどうでもいいのかもしれない
誰が書いたかなど問題ではない
知らなくていい、名前など、姿など

そうして彼はずっと、ずっとずっとスクロールをし続けた
毎日毎日彼のパソコンに書き込まれる作品を、名無しの誰かが書き連ねる物語を延々と読み耽る
その誰かが人間だろうが妖怪だろうが構わない
与えてくれたかたちのない本のページをめくるのがその人に報いるたったひとつの方法だと信じて
もう閉じることのできない闇にかかったことも知らずに
名無しの本読み仲間の物語を読み続ける
ずっと、ずっと





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最終更新:2019年05月09日 22:24