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「なあ、どうだい。」
疑問ではなく、確認。八坂神奈子が目の前の人物に問いかけるように言う。
「いや、今暫くは必要ないだろう。」
そう答える男性。どうやら気乗りはしていない様である。
「そうかい…もうそろそろ書いてもいい時分じゃないかと、私は思うんだがね。」
「そうだろうか…。」
「ふうん…。」
煮え切らずにあくまでも避ける相手を見て、神奈子の目の色が変わった。
「なんだい、それとも、あたしとの色々を書くのが嫌だっていうのかい。」
瞬間、時が止まった。世界に二人だけが取り残されたような感覚が走り、全身の血液が止まる。
口の中がカラからになり、声が男の喉につっかえて出なくなった。
「……いや、そういう訳ではない。」
気圧された末にようやく出てきた言葉は、ありきたりな言い訳であった。
「それならどうなんだい。まさかどこぞのカラスに気兼ねしているっていうのかい?」
「そうではない!」
思わず男の言葉が強くなった。目の前の人物は天狗といえども「そう」してしまえるだけの力がある。
延焼を防ぐためにも男は余計な事は言えなかった。
「そうかい…安心したよ。なら、いいんじゃないかい。誰も私達の邪魔をする奴は居ないさ。」
「……ああ。」
諦めた男の声が空間に響いた。




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最終更新:2019年08月10日 22:30