「水橋さんあなた胃にあなが空いてたんですよ」
気づいたら病院のベッドの上だった
急に倒れて運ばれて手術していたらしい
他人事のように先生の説明に相づちをうった
ストレスが原因らしい
━━ストレス。
そんなもの、当たり前だと思ってた
苦しくて苦しくてしかたない。
『みんな』もそうやって生きていると
そう信じていたから
誰もがみんな、過去のあやまちや嫌な思い出に今この瞬間も心を蝕まれ辛く苦しく、強く生きていると思っていた
そうじゃないとなんとなく気づいたのは病院のベッドの上でぼんやりと、みんなの笑顔を思い出しながら眠りについた夜のことだった
どうして、みんな笑顔でいられるの?
初対面の人は私のことを『いつも怒っている気難しい女』だと感じているらしい。そう、いつも怒っている。間違いじゃない
このまま結婚して添い遂げると思っていたたった一人の男と盗っていった女を今でも許せない。
悲しくて、たくさん泣いて、涙がすごく熱くて、その熱は怒りとなって全部全部呪った
私水橋パルスィのみすぼらしいみじめな嫉妬であっけなく全部終わらせてしまった。そのつもりだった
全部消せば私の怒りも嫉妬も苦しみも泡みたいに全部全部ぜーんぶ!消えると、思ってやった。心の赴くままに
でも違った。なんにも消えなかった。ひとつも消えなかった
そう、誰もがそんな消せない後悔や苦痛を抱えて生きてると思ってたの
毎日、苦しみながら起きて苦しみながら眠る
毎日毎日、ふと思い出して難しい顔しなきゃならない
毎日毎日毎日、ずっと振り払えない。暇潰しみたいに思い出してしまう
思い出すなんてものじゃない、ずっと。ずっと心をぐるぐる回ってる
なのになんでみんな笑顔でいることができるのか、わからなくて
羨ましくて
私にはそれができない
忘れることも乗り越えることもできない
だからまた新しい男を自分のものにしようと追い回すだろう、愛がほしいと叫ぶだろう。今度こそと、間違えないと
自分の心を満たすためだけに。それこそが自分の心に穴を開け続けているとも気づかずに
その穴から誰かを愛する優しさが漏れていることも気づかずに
これからもずっと私の涙を救う者は現れない
それを阻んでいるのは私だから
自分を呪ったら、病みたいに広がっていく。なにもかもに穴を開けていく
優しさも愛しさもなくして、誰のためにも生きられない。自分のためにも生きられない
こんな自分がだいっきらい
だいっきらい
誰か、助けて。
感想
最終更新:2019年09月16日 00:25