おやおや、またいらっしゃったのですか。いくら霧雨と謂えども、それ程人様がお聞きになって感心するお話なんて、そうそう
持ち合わせてはいませんよ。……そうですか。前回の記事が好評だったと。自分の話した物が評判だと聞きますと、
なんだか自分の手柄のように感じてしまいますね。あくまでも主人の事を話した積りだったのですが、これは私も少しばかり、
射命丸さんを見習って鼻を低くしないといけませんね。

 前の続きとなりますと、主人と結婚してからですか…。あの頃は随分と私も色々とがむしゃらにやっておりまして、そうでしょう?
今まで魔女の真似事をしていたのが、急に店の女主人をしないといけなくなったのですからねえ。そりゃあ、父の代から或いはその
前から霧雨に仕えてくれていた方はおりますが、いくら周りを固めて頂いても、結局は自分の足で立たないといけませんからね。
当時は慣れない仕事をするのに必死でございましたよ。言い訳にはなりませんが、そのせいであの人には大分素っ気ない態度を
とってしまっていました。私の為に色々と話しかけて下さっていても上の空でしたし、顔を合わせても仕事の用事ばかり、食事すら
一緒に取らない事もよくありましたの。まあこれは内緒ですが、夜の方もおざなりでして、生娘でなくなってもあの人に任せっきりで、
適当に向こうの気が済むままにしていましたの。決して主人が下手な訳ではありませんでしたが、私の方が忙しいせいで其方まで気が回らずに、
そうなっていました。まあ私の方は兎も角として、主人が他の女性に靡かなかったのは幸いでした。あの人が私以外に知らないで
良かったですわ。…色々と昔の悪知恵も役に立つ物ですね。
 いえ、なんでもありませんよ。え?私の方ですが?いやはや、そんな事をする積りは毛頭御座いませんが、万が一、億が一で私がそんな、
主人を裏切るような事になれば、間違いなく自分で死んでいますよ。ええ、それについては魔女の言葉として申し上げますわ。でも、それはそれ、
私も独り立ち出来るようにと、あの頃は焦っていましたので。それが変わったのは、子供が出来たのが判ったときですわ。それまでは
全てを取り仕切ろうとしていたのですが、ひとたび出来た事が判ると、上げ膳下げ膳の世界になりまして、箸よりも重い物は
持たせて頂けなくなりましたの。笑い事ではありませんよ。少し前までは店の全てが自分の物だと思っていたのに、全て自分を通さないと
動かないと思っていたのに、それが全て出来なくなってしまったのですからね。始めのうちはその内にボロが出ると思って余裕綽々でいましたが、
返って私が居た時よりも良くなっていたのを見て、言葉にできないような衝撃を受けたものです。魔女を捨ててゼロから築き上げていた物が壊れて、
私に残ったのはあの人だけでしたからねえ。そして当時は夫婦仲もあのような具合でしたので、あの人すら失ってしまえば私には最早、
何も残らないのですから。私もあんまりにも辛くって、思わず母に泣きついてしまったのですわ。

 母は私を抱きしめまして、泣くがままにしていたのです。そうして私が泣き疲れて落ち着いた頃ですが、あの人をこっそりと力を使って
部屋に連れてきましたの。そうしたら、あの人は私をしっかりと抱きしめてくださいまして…。ご自分も辛かったでしょうに、
私の事を愛していると言って下さいましたの。あの人の温もりと感触を感じながらそれを聞きましたら、私はどんなに恵まれていたか、
幻想郷一幸せな女であるかとしみじみと感じまして…。ワアワアと子供のように泣きながら主人の胸元に顔を擦りつけながら詫びたのです。
そうしたら、主人は私が頑張っていた事をねぎらって下さって、そして今からは自分がそれを引き受けるから、温かい家庭を築いていこうと
言って下さって。それを聞いて私は、表の事を主人に任せて、自分は家に収まろうと思ったのですわ。
それからは、私は家庭の時間を一番に考えるようになりまして、今までは仕事仕事で主人の事も家庭の事も禄にしていなかったのですが、
それを改めまして。そうして今の様になったのですよ。
 さて、ここまで喋ったらコラムには丁度いい具合でしょう。ああ、それから先程の分の処理はキチンとお願いしますね。でないと色々と
問題がありますので…では、よしなに…。






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最終更新:2019年12月17日 23:15