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早鬼「はぁ……」
八千慧「あら、溜息なんて貴女らしくもない。何かお悩みでも?」
早鬼「ほっとけ」
八千慧「……○○さんのことですか?」
早鬼「なッ!? 何でアイツのこと知ってんだ!」
八千慧「貴女が生身の人間の男を一人、直々に取り押さえるところを部下が見ていましてね。それも一度や二度ではないとか……。名前については我々の諜報力をもってすれば容易いことです」
早鬼「……わざわざ名前まで調べるとは、お前まさかアイツのこと……」
八千慧「報告通りの執心ぶりですね……まあ、安心して下さい。特に興味はありませんので」
早鬼「ハッ……男には苦労してないってか」
八千慧「御明察恐れ入ります。かくいう私も、良い人を見つけましてね」
早鬼「あぁ? じゃあ何か、『鬼傑組の頭が男を囲ってる』て噂は本当かよ」
八千慧「ええ、彼と出会ったのは昨日今日の話ではありませんよ。開け広げにしていないだけで。……立場というものがありますからね」
早鬼「嫌味か、てめぇ」
八千慧「むしろ忠告ですよ、情夫を囲う同士としてのね。この畜生界で宝物を手元に留めておきたいなら、その実体も情報も、おいそれと外に出してはならない」
早鬼「……分かってんだよ、ンな事は! アイツの意思で私の元にいてくれりゃ、見せびらかしたりしないさ。でも逃げ出しちまったらああするしかねえだろうが!」
八千慧「そうして無理に捕まえることで、なおさら『ここに居たくない』と思わせてしまう。悪循環ですね」
早鬼「だがお前の話を聞く限り、アイツが俺のモンだってことはもう割れてんだ! 他所の連中に捕まりでもしたらただじゃ済まねえ、でも嫌われたくもねえし、どうすりゃいいんだよ……」
八千慧「その消沈ぶり……かつての貴女からは想像もできませんね。いっそ霊長園にでも引き渡しては?」
早鬼「……『考えてみたことがある』って言ったらどう思う」
八千慧「相当追い込まれていますね。……時に"北風と太陽"という説話をご存知ですか?」
早鬼「……何が言いたい」
八千慧「例え消極的な動機であっても、自らの意思でそばにいてもらうよう仕向けるんですよ。好いてもらうのはその後でいい。私はそうしています」
早鬼「消極的な動機?」
八千慧「私の場合は、彼の優しい人格を利用しています。見張りに敢えて気弱な者を任命し、『自分が逃げたらこの人達はどうなるんだろう』と同情を誘い、逃亡を躊躇させる」
早鬼「……」
八千慧「根底に『逃げたい』という思いがあることを前提とした策ですが、閉じ込める形になる以上そこは甘受せねばなりません。好いてもらうのはその後でいい」
早鬼「はん、お前らしいやり方だな。……だが、こればかりは力技じゃどうにもならん。お前に助けられるとは意外だったが、その助言、有り難く頂いておくぜ」
八千慧「ただでさえ不安定な時勢。貴女の組織が崩壊すればそれこそ収集が付かなくなりますから。……後はまあ、同士ですし。この件に限っては、ですが」
早鬼「そうかい……さて、そうと決まればさっさと帰って段取り立てなきゃな」
八千慧「ああ、私の策を参考にするのなら、もう一つ忠告を」
早鬼「?」
八千慧「同情を誘う、と言いましたがね。そうなると当然、件の部下達と彼との間に、同情をするに値する内容の会話があるわけです。大半は一方的な仕事の愚痴ですが、彼もお人好しなもので、それはもう親身になって聞き役を買って出るんですよ」
早鬼「……」
八千慧「それが続くと、部下の中には"勘違い"するのが出てくるものでしてね。ええ、ベタベタと、馴れ馴れしく。……何が言いたいのかというと、ある程度までこれを許容する忍耐と、一線を超えれば早急かつ秘密裏に駆除する算段を用意しておかねばならない、ということです」
早鬼「……肝に銘じておくよ。じゃあな」

――さて、思いのほか長話になってしまいましたね……お土産に甘納豆でも買って帰りましょう
――彼の本当の好物は豆大福ですが……それは部下伝いの情報で、まだ私が知り得ない筈のこと。怪しまれる要素は排除しなければ。
――いつか、貴方のありのままを、貴方の隣で、貴方の口から聞ける関係になるまで。待っていて下さいね

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最終更新:2020年02月25日 11:44