運命の女神
視界に人影が見えて、ふと足が止まった。日中であるというのに傘を差す人物。黒い日傘から伸びた影が、道路の端から長々と伸びていた。
こちらに向かいながら、向かうようで、向かっているようで。伸びた影を踏みながら、目の前まで来た少女に声を掛ける。
「……で、どうしてここに居るんだ。」
「偶然じゃないかしら。」
サラリと答える彼女。見知らぬ人からすれば、きっと彼女の表の顔を見て判断するのだろう。だが、僕は彼女の本当の姿を知っている。
別に人よりも観察眼が優れている訳ではなく、結局のところそれだけ経験をしたに過ぎないのだから。彼女の直ぐそばで。
「偶然っていう言葉は、三回までしか使えないんだよ。」
「丁度ぴったり今日で三回ね。」
「今日一日だけで三回だ。」
「誤差じゃないかしら。」
「これが誤りですむなら、世の中の大抵は謝れば済むだろうな。」
「そんなに多かったかしら…。」
人形のように小首を可愛らしく傾げる彼女。しかしそんな彼女に指を突きつけて断罪するように、証拠を突きつける。
「早朝、午前中、そして今、よく知っているだろう。」
「朝食の時間と、朝のおやつの時間と、昼食の時間は気が付いていなかったからいいんじゃないかしら?」
「オイオイ、ちょっと待ってくれ…。ひょっとしてその時も居たのか…?」
思わぬ犯人からのの自白に、流石の自称街の名探偵(当社比調べ)の灰色の頭脳にも驚きが走っていた。しかも、こいつ、食事時ばかりじゃないか?
「英国貴族にはお茶が欠かせないのよ。」
僕の思考を読んだかのように言葉を返す彼女。だが、甘い。例えるならば紅茶に砂糖を何個もいれている、彼女の「れもんてぃ」並に甘い。
「御先祖様はルーマニアなのに?」
「うっ…。と、兎に角、いつでもあなたの事はお見通しなの!」
「さっきは偶然って言ってたけど?」
「偶然の必然よ!」
堂々と矛盾した言葉で宣言する彼女。だれか彼女に辞書を与えてくれないだろうか。具体的には季節外れのサンタクロース辺りが。
「まあ、良い。ここでサヨナラだ。」
「じゃあ、またね。」
「いやいや、その挨拶は違うんじゃないか…。って、もう消えたのか。」
出てきた時と同じ様に急に消え去る彼女。また近いうちに彼女に会う気がした。まるで誰かが運命を操っているかように。
感想
最終更新:2020年04月01日 22:37