関西熟年夫婦5 久々に投稿 弐号に転落した華仙ちゃん 

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もうわかった。うん。あの人だな。

重心が右に傾き、下手な音頭を取るように摺り足で歩く長身の男。
昼どき、繁華街の人込みでも、収まりの悪い異物感をたたえて彼の頭がもたりと揺たれながらこちらへ近づいてくるのが見えた。

「相変わらず、人に物を教える人間とは思われへんな」
机に並べた化粧道具を信玄袋に詰め込み、手鏡を開いて今日の出来栄えをみる。
下唇右下の紅が少しだけはみ出していた。よかった、こういうの男は何かと見つけてはすぐに萎えようとする。

指で紅をぬぐい、舌で唇を湿らせた。苦い。
「うん、かわいい」
「こんなクソ暑い日にようおそとですわってられんな、おじょうさん」
「外来人まるだしの格好で、女に会いに来る感性の人間に言われたら傷つくわ」
腕を伸ばして、彼の袖を掴んで立ち上がった。
「いこか」「うん」

私達が歩いていても、彼らは一瞥するだけで隣を通り過ぎていく。横目に好奇をちらつかせて。
なんだかんだ、自分もそれにはもう慣れてしまっていた。元々は青蛾のものだったけど。
どこで彼の優先順位が入れ替わったのはわからない。あの日は爪先が荒れていたのかもしれない。
化粧室から帰ってくるのが遅かったかもしれない。

今は楽しい。最後にあった日は前の季節の始めごろだった。
前よりも早かった。それだけでうれしい。
今日はいつまで一緒にいれるのだろう。前よりも長くいてくれたら。今日は彼にとって合格点だったのだろう。
可愛い華でいないと、可愛い、可愛い、華でいないと。

重たい硝子戸を引く音が聞こえた。
「今日は早かったわね」
机に並べた化粧道具を信玄袋に詰め込み、手鏡を開いて今日の出来栄えをみる。
右眉の左端が少し薄く描きすぎていた。よかった、こういうの男は何かと見つけてはすぐに萎えようとする――――――――





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最終更新:2020年04月01日 22:45