言霊
「……何て言ったんだい、
さとり。」
「ここから出れば酷い事が起きる、と。そう言いましたよ○○さん。」
僕の目の前で言う彼女。その目はしっかりと僕を捉えており、嘘を付いているようには思えなかった。
僕の考えたことを読んだのだろう。彼女の目が細くなり表情が変わった。
「あらひどい…。私が嘘を付いていると思っているのですのね。」
そう言いながらも彼女の顔は笑みさえ浮かんでいる。まるで全てを見通すかのように、神の言葉を告げる預言者のように。
ゆっくりと伸ばされた手が僕の肩に掛けられる。服の上から触られただけなのに、まるで心臓を掴まれたかのように、
僕の体が震えた。
「まあまあ、こんなに怯えて…。」
「……ッ!」
「ああ…なんて悪い子…。」
さとりの手が僕の唇に当てられる。口を塞ぐように、声を出させないように。そして意思を砕くように。たった指一本だけだったが、
僕の激情が彼女の指によって押さえこまれているのを感じた。
「不安なのでしょう?私の言葉が。」
「……。」
肯定することもできず、然りとて否定することもできない僕を見透かすように彼女は言う。
「これまで私の言ったことが外れていた事が有りましたか…?」
「○○さん、よく思い出して下さい。全て当たっていたでしょう?」
「そして私の言ったことに従わなかったら…どうなったか、思い出しましたか…?」
僕の額に汗が浮き出て、流れ落ちてくる。徐々に、しかし段々と多く。彼女の顔が僕の耳元に寄せられる。
「ねえ、酷い事になったでしょう?」
「もう一度体験したいですか…?」
「戻りましょう。私の居る場所へ…。」
彼女の囁きに、僕はその場から動くことができなかった。
感想
最終更新:2020年05月18日 21:46