落ちる雷
彼女が一歩踏み出す。怒りの鉄槌を振りかざすために。そして、目の前の哀れな犠牲者に向けて雷を落とすために。
止めなくては。瞬間的に感情が沸きだしてくる。彼女の怒りは凄まじく全ての物を砕いて進んで行く。
他の何者にも邪魔をされず、天地人全てを見通す天人の姿は傍若無人そのものでさえある。傍らに人無きが如し。
天界に住まう存在にとっては、地を這う人間などは物の数にすら入らない。なればこそ止めなくてはいけない。
もはやこれ以上の被害は望んではいないのだから。
そう思って彼女に向かって一歩踏み出した。地面に付いた脚に鋭い衝撃が走った。
「-----!!」
僕は自分の足を抱えて転げ回った。痛いなんて物ではない。伝わった衝撃によって足に刃物で肉を刺されたような痛みが走り、
その痛みが全身の神経を針で引っ掻いていく。涙が勝手に絞り出されて息が短く漏れる。彼女に何か言って止めさせようなんていう
さっきまでの威勢は粉々に砕け散っていた。
僕が倒れる音が聞こえたのだろうか。彼女が一瞬こちらに視線をやった。かつてのように鋭い、人の心を見透かすような視線。
果たして彼女は何を見ていたのだろうか。憐憫なのか、それとも慈愛なのか、あるいはそれらを超えた境地なのか。
天人として解脱にいたる非想非非想天の高み。煩悩が僅かに残るのは、人を超えた彼女に唯一残った、思いであればこそなのか。
顔を戻した彼女が剣を抜いた。色を纏い空気を震わせる刀身に光が走った。スローモーションのように、
彼女が腕を振り下ろしていくのが見える。あれが刃物として人を物理的に切り裂くのでは無いと、
いつか彼女は僕に語ったことがあった。他の人は知ることも無いあれは、もっと恐ろしい物の筈だった。ただの人間一人に使うなんてものでは無い。
それは世界を壊す力。天変地異を起こし、地上の在り方を変えてしまう力。それが今、無情にも振り下ろされていく。
ふと、男と目があった。恐怖に満ちた慈悲を請うような、そして僕を恨む視線。それが僕に注がれていた。
その視線を受けてもなお、恐怖に痺れた僕の足は一歩も動かなかった。
感想
- 天子ちゃんカッコイイな〜。(白目) -- 美少女オールレイプ協会会長さん (2020-05-31 15:59:43)
最終更新:2020年05月31日 15:59