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 小さな出来事

 休日の夜も深まった頃、やるべき雑事は終わり程よく疲れた体でお気に入りのサイトの更新をしていく。
日課という程ではない。なにせそれ程は更新をしていないのだから。むしろある種の習慣なのかも知れない。
パチリ、パチリとゆっくりとキーボードを叩いていると、ふと違和感を覚えた。もう一度操作をする。
またしてもページが反応しない。見間違えなどでなく、操作ミスでもなく、純然たる結果としての何か。

 僕はしばらく手を止めて考えた。これは一体何であろうかと。この作品が取り立てて危険だという訳ではないだろう。
現実とは異なる世界-つまり幻想郷から投稿されたと思われる作品ならば、もっと特有の匂いがする筈だから。
そういったものは粘りつくような、捉えて放さない執念染みた黒い残滓が文字の隙間からほんのりと浮かび上がってくる。
であるのならば、一体これは何なのか。「彼女」は僕に関わった事があっただろうか?これは拒否なのだろうか?
それは間違いないだろう。他の人で起きた以前の出来事よりは穏健な方法だが、恐らくは「何かの」都合が悪いのだろう。
警告には至らないレベルの小さなサイン。微かな囁き声を聞き逃す代償は大きな警告を呼び寄せ、そしてその先は……
いくら僕でも経験したくはない。

 少し考えて、結局僕はそのページの更新を諦めた。疲れているのもあるのだが、それは言い訳に過ぎない。
世界の物事に潜む、触れてはいけない裏側の部分を隠すための、都合のよい取って置きの言い訳。
「まあ、大丈夫さ…。」
誰に言い聞かせることでなく、そう呟いて僕はページを閉じた。

 そういえば心当たりがもう一人いた事に、僕はページを閉じてから気が付いた。書いた事ではなく、書かなかった事が原因ならば…
色々と辻褄が合ってしまいそうになる。そうすると彼女はお冠なのだろうか。いやいや、それ程彼女の心が狭い訳ではないだろう。
幾ら何でもだ。もし彼女がその気ならば、僕はとっくにこの世に存在していないのだから。
「まあ、大丈夫さ……。」
気まぐれのようにそう呟いた言葉は、空気中に小さく消えていった。






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最終更新:2020年08月05日 00:10