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 気のせい

 夏の暑さを幻想郷が忘れ去り秋の夜が深まった頃、僕は彼女に何気なく明日の予定を話した。
久々に地上に出て人里で友人に会うことになっていた。手帳に記した日付は間違いなく明日の昼前を紙に残している。
いつものように何気なく聞き逃す程度-何も僕が彼女を軽んじている訳ではない。むしろそれ程までに二人の関係は
気の置けない間柄だと主張したい訳なのだが-どういう訳か彼女から思いもよらない返事が返ってきた。
「行きません。○○さんは明日地上に行きません。」
「え?だから明日、人里に行くんだってさ。」
「○○さんは大丈夫です。…そんな所に行きませんから。」
「いや、そういうのじゃなくて…さ……。」
取り付く島もない、とはこのことなのだろうか。あるいは頑なな、と表現した方がいいのかもしれない。こちらに
背中を向けながらも、第三の眼が睨みつけるという器用な様態を演じた彼女は、用事が終わったのか僕の方へ
クルリと振り向き、洗い物をして濡れた手を拭く。
「○○さんは、私を置いて人里へ行きません。だから大丈夫なんです。悪いことは起きません。めでたしめでたし。
それでこの話しは終わりです。」
僕の心を読んでいる筈の彼女は、今やすっかり僕と反対のことを言っていた。






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最終更新:2020年11月01日 00:13