紫「……本当のお母さんに会いたい?」
○○「うん!お姉ちゃんに聞いたら僕を産んでくれた人間のお母さんがいるって!」
紫「……藍?」
藍「も、申し訳ありません。私達と○○の種族の違いを聞かれて誤魔化し切ることが……」
紫「馬鹿……ねえ○○、ママ達が本当の家族じゃないって聞いて嫌じゃなかった?」
○○「なんで?ママとお姉ちゃんはママとお姉ちゃんでしょ?大好きだよ?」
紫「……ふふ、そうね、その通り。うん、分かった。本当のお母さんに合わせてあげましょう」
○○「本当!?」
紫「ママが○○に嘘ついたことあったかしら?」
○○「ううん、ない!やったー!」
紫「ふふ、じゃあママ達はお母さんを探すから、向こうで橙と遊んでてくれる?」
○○「はーい!」
藍「……ゆ、紫様、よろしいのですか?○○は赤ん坊の時分にこちらに流れてきた子。良い結果になるとはとても……」
紫「あら、悪い結果になったらあなたは○○を見捨てるの?」
藍「まさか!血は繋がらなくとも私はあの子の姉ですよ!?」
紫「ええ、知ってるわ。だったら何を恐れることがあるというの?○○が傷ついてしまったら癒えるまで私達が傍に居てあげるだけでしょう?それとも、あなたの懸念はあの子の願いより優先すべきことなの?」
藍「!……すみません、私としたことが……」
紫「いいのよ、藍の考えも正しいのだから。もしもの時はいっぱい慰めてあげましょうね」
藍「はい、身命を賭して」
紫「大袈裟ねえ。さて、じゃあお母さん探しをしましょうか」
藍「見つかりますか?」
紫「当然。けど、両親共に不慮の事故に会っててお墓参りに行くってオチだったりしてくれないかしらねえ……」
───────────────────────────────────────
○○「ここにママが来るの?」
紫「ええ、もう少しで来るから、会ったらちゃんとご挨拶しましょうね」
○○「うん!」
藍「…………」
紫「藍、表情が暗いわよ?」
藍「暗くもなります。○○の母親は……」
スッ
△△「…………」
○○「あ、お、お母さん?はじめまして、○○です!」
△△「…………」
紫「あら、△△さんは耳が聞こえないのかしら?」
△△「っわ、私に何の用!?あんな脅しまでして!」
紫「脅しとは心外ですわ。あなたのお子さんがあなたに会いたいと言うので会わせてあげようかと思ったまでです」
○○「お母さん?お母さんなんでしょ?僕○○っていうんだ!産んでくれてありがとう!」
△△「っ……黙れクソガキが!!」
○○「ひっ……」
△△「お前、お前さえいなければ私はあの人に捨てられなかったんだ。たった一度別の男と寝ただけじゃない。なんでこんなことになるのよ。なんで私の体に宿ったのよ……」
○○「お、お母さ──」
△△「私を母と呼ぶな!なんで産まれてきた!私は望んでなかったのに!捨てたのに!なに勝手に存在してるんだよクソガキ!」バシッ
○○「あぐっ……ぅ、うぁ……」
○○「うわああああああああぁぁぁぁぁん!!!」
ぞわっ
藍「貴、様っ……!!」
△△「ひっ、ぁ、あ……」
紫「藍、あなたが今すべきことは泣いている○○を放置して暴れること?」
藍「!」
藍「○○、痛かったな、怖かったな。もう大丈夫だぞ。お姉ちゃんが抱っこしてあげるから、あっちに行ってような」
紫「…………さて」
△△「っ」ビクッ
紫「ああ、別にあなたをどうこうしようとか思ってないから安心して頂戴な。ただ一つ確認をしたいだけ」
△△「確、認?」
紫「そ。まあさっきのを見て分かっているんだけど、最終確認。あなた、○○を引き取りたいと思ってないのね?あの子に愛情は欠片もないのね?」
△△「お、思うわけがないでしょう!私はアイツのせいで──」
紫「ああ、あなたの事情は興味無いわ。じゃあ、私達が引き取っていいのね?」
△△「好きにすればいいわ。もう私には関係ない」
紫「言質は取りました。ふふ、ありがとう」
△△「も、もういいでしょう?私は帰るわよ!」
紫「お好きに……ああ、最後に一つ」
△△「なによ──」ゾッ
紫「あの子を捨てるに飽き足らず、今また傷つけたあなたに……平穏な死が待っているとは思わないことね」
△△「ひっ……!」ダッ
紫「……人のことは言えないけど、愚かね」
藍「紫様、あの女はどうしますか?」
紫「どうもしないわ。何もしなくてもまともな人生なんて歩めないでしょうし。それより○○は?」
藍「泣き疲れて先程眠りました……私達はきっと地獄に落ちますね」
紫「あら、分かってた?」
藍「少し考えれば分かりますよ。紫様は○○の願いを引き合いに出しましたが、○○を母親に会わせたのはあの子の縁を断ち切り、人間そのものに隔意を持たせるためですね?」
紫「ええ。こうでもしないと○○の意識はいつか外に向いてしまうもの。そうなれば私達は育ての親と姉にしかならない……あの子の女になれない」
藍「そうですね」
紫「へえ、藍は姉で満足していると思っていたのだけれど」
藍「ふふ、私は紫様の式ですよ?」
紫「馬鹿にしてる?」
藍「いいえ、感謝しています」
紫「言うわね…………今回、私達は私達の都合のために○○を利用し傷つけたわ」
藍「はい」
紫「以後、このようなことは許されない……いいわね?」
藍「承知しました」
紫「その上で、○○の全てになるの」
藍「母であり、姉であり、友人であり、親友であり、恋人であり、妻である」
紫「ええ。私達の全てを以てあの子の世界を完結させる。もう二度と外へなど関心さえ持たせない」
藍「私達が育て、私達が作ったものだけを食べ、私達だけを抱き」
紫「望むのであれば私達と同じ時を生きて、いつか私達の手に抱かれて死ぬ」
藍「嗚呼、○○」
紫「私達の可愛い○○」
「「愛しています」」
感想
最終更新:2020年11月06日 00:06