最近男は夢を見ていた。見るのは決まって空の上、雲の上に位置する晴れ渡った天の世界で、いつも少女に連れられて
いた。夢の中とはいえ、男が空を飛べる訳ではない。残念ながら物理現象は相も変わらず存在しているようだ。
物理学者ならば安堵するかもしれない世界であるが、只の人間である男にとっては少々都合が悪い。なにせ、雲の上に
いるだけでもおっかなびっくりという具合であるのに、どうやってそこから空を飛べばいいのか。しかしそこは夢の中、
上手い具合に助けが入るようである。男にとってはそれが彼女であった。男を連れ出すように彼女が姿を見せる。
目に映える青い服を着た少女。空の色と相まって、普段モノクロの夢しか見ない男に対して鮮烈な印象を与えていた。
少女の手を取る男。細い手であるが、不思議と自分の手よりも力強く感じるものであった。フワリと空中に浮かび、
空を飛ぶ二人。抵抗が無くなったかのように風を切る音すら感じずに、ただ下を雲が流れていく。
ふと男は感じた。このままいけば、どこまで行くのであろうかと。けれどもそれを言う事はなく、ただ黙って男は
彼女の手を握っていた。まるで幼子が母親に手を引かれていくかのように。
感想
最終更新:2021年01月20日 21:41