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 救いの手

「ねえ、本当にそう思っているのかしら。」
彼女の声が刺さる。本当に…?いや違う、本当にそうなどは思っていない。だけれども事実として言うなれば、あるいは
もっと直接的に現実社会で穏健に生きていくためには、それを偶然として受け入れるしか僕には方法が無かった。
「そうさ……全部偶然さ…。」
「本当?」
「………。」
息が詰まり、彼女の言葉に答えられない。目の前の矛盾に苛まれて、それでも受け入れることしか出来ずに、
思考が行き詰まる。
「先々月は事故が二件、先月は自殺、そして今月は急病……。ちょっとあなたの周りのお友達には、死の匂いが絡みつき
過ぎているわ。決して偶然なんかで済ませられない程に。」
分かっている。それでも、僕はそう認める訳にはいかなかった。僕がこの社会で生きていくためには。
「警察、病院、学校…。全部が調べたさ。そして僕も何回も言ったさ…。だけど、駄目だったんだ!何も分からなかったんだ!
○○は偶然に駅のホームから落ちた!××は白血病!そして**は進路で悩んでいた!全部調べ尽くされて、それでも分からなくって、
結局何も解決しなかったんだよ!」
堪えていたものが吹き出すように、声が大きくなる。改めて考えても、絶対に偶然なんかじゃない。あいつらが死ぬなんてことは、
絶対に有り得なかった。
「幽霊の事は言ったのかしら?」
あっさりと言う彼女。僕も暫く前ならば笑い飛ばしていただろう。そんな非現実的な存在などは、商売っ気のある人物が勝手に
作りだしているのだと。しかし今、あの体験をしてしまった後では、そんな「空想的な」ことは二度と言えなかった。なにせ、
死は自分の目の前に迫っているのだから。
「誰も信じなかった…。」
「そう…残念ね……。」
彼女の顔が微かに悲しみを帯びた。初めて見る表情だった。
「それで、貴方は何もしないのかしら?」
「何もできないよ…。幽霊相手に何をすればいいんだよ…。」
そう、僕はあの後必死になって調べたが、結局のところ何も分からなかった。相手がどういう存在なのかすらも。あいつらが
死ぬ前に幽霊が見えたと言っていた、それだけが僕に残された唯一の手掛かりで、それはあまりにもぼんやりとし過ぎていた。
だから僕は全部偶然と思い込んでいた。あいつらが死んだのはただの偶然で、人間の力を超えた超常現象などは何も無いと
いうことに決めつけて、どうにか恐怖心を押さえ込んでいた。もしも本当に幽霊がいたとしたのなら、そして僕がそいつに
何もできないのならきっと僕は狂ってしまうだろうから。

 現実を突きつけられて、黙りこくってしまった僕に彼女が言う。
「それはいけないわ。だって半分はあなたの力と行動が必要なんだから。」
「……もう、どうにもならないさ…。」
「いいえ、そんな事はないわ。だって私がいるんだから…。普通の出来事ならば貴方の力で乗り越えられるかもしれない。
だけれども、貴方の力だけでは乗り越えられない程に大きな障害が襲ってきたのなら、それを乗り越えるには他の力がいるの。
貴方と私の力の二つを合わせれば、きっと大丈夫だから。貴方は死ぬ運命ではない。私が保証するわ。」
しっかりと彼女が僕の手を握る。手から伝わる温かい思いに、僕の眼頭が熱くなった。





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最終更新:2021年01月20日 21:45