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 独白

 ええ、確かに私はあの時彼女に会いました。丁度今日のような日曜日の夜中だったと思います。
空気は澄み切っていて、だけれども月は見えていませんでした。ひんやりと肌を刺すような空気が辺りには
充満していて…。そんなところに彼女はいました。そうですね…貴方達が言うところの幻想郷という場所だったの
かもしれませんね。私には現実でないどこかとしか分かりませんでしたが…。まあ結局のところ、そこが現実で
あったのか、あるいは幻想郷であったのか、あるいは私の夢の世界であったとしても、それは私には関係が
無いものですからね。私にとっては彼女に出会ったという事だけが、それだけが重要なのですから…。

 彼女についてですか?貴方達の方がよくご存じではありませんか?きっと私のような人に何人も会われているの
でしたら、他に彼女を見ている方も居られるでしょうから。…そうですか。まだいらっしゃらないのですね…。
それはなんといいますか、私も少しだけ優越感を抱いてもいいのかもしれませんね。彼女がこんな風に思っている
私を見れば、きっと何か一言文句でも言うのでしょうか。でも彼女を知っているのが少ないのであれば…憧れなのか、
或いは他の感情なのか…。いえいえ、いけません、これではいけませんね。彼女もきっとそれを望まないでしょうから。
それでは少しだけ話しをしましょうか。彼女について、僅かなお話を…。


 私が彼女に出会った空間は、ええ、あえて空間と言わせて頂いたのも、私にはそこがどこだか、とんと見当も
つかない場所だからなんですよ。先程も申し上げた通りに、正に夢か幻か…幻想の世界に迷い込んだような感覚でした。
確実にこの世界で無いと私は思っているのですが、まあ、所詮私一人が言っていることですからね。お上手な奇術師
にかかれば、私のようなずぶの素人などは簡単に騙せてしまうでしょうから。
 成程、成程…。そこは天界と仰るのですね。天に住む彼女に相応しい場所なのでしょう。穢れもなく、迷いもなく、
ただ神聖な静けさが満ちるその世界は、広く雲が空にかかり、地面もまた白く輝いていたように見えました。
そこに彼女はいました。青い服を着て帽子を被る、天人様のお姿がありました。そこで私は天人様に声を掛けて
頂いたのです。そのお言葉については申し訳ありませんが、ここでは申し上げられないのです。あくまでも
本筋とは関係ないと言うだけであって別に大したことではございません。私が申し上げたいのは、天人様が、
地を這う人間に対して天に住む御方が、恐れ多くもお声を掛けて下さったという事なのです。いかかでしょうか。
バテレンの耶蘇教徒などは天主様という方を崇め奉っているようですが、正にそのような感覚と同じなのでしょう。
私も彼女のお姿が目に入りましたら、まるで雷に打たれたかのように衝撃を感じまして、敬服に至る次第であります
からに。きっとあれは体験した人にしか分からないものでありましょう。それ程までに彼女は神々しかったのですから。





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最終更新:2021年01月20日 21:46