「何か、お手伝いしましょうかぁ?」
しかし東風谷早苗は、○○の感情を阿求の感情を、これらを理解しているのかいないのか、よく分からない態度でゆらゆらと動きながら声をかけてきた。
さすがに近づきこそしないが、その瞳は確実に稗田夫妻の方向を捉えていた。
○○は振り向こうかと思ったが、先ほどから早苗は的確に○○と目線を合わせに来ようとしている。
それを思い出した○○は、自分にしがみついて来てくれる阿求の頭を柔らかい手つきで撫でながら、もう片方の手で早苗の声が聞こえてきた方向に手の平を見せつけて、これ以上は近づいてくるな、もっと言えば黙っていてくれと主張した。
幸いにも早苗は、○○のそう言った行動が何を意味するのかぐらいは、理解してくれているし。そこまでをも無視するほどに、今はまだ、傍若無人ではなかった。

○○の目には○○自身が努めて、早苗の事を視界に納めないようにしていたし。
稗田阿求は必死になって、○○の側にいようとしいていて、阿求が用意したとはいえ○○の来ている上等な衣服は阿求の爪やら握りしめやらで、傷がいっていたが。
早苗はいまだなお、ゆらりゆらりと動いて、稗田夫妻のどちらかと目線が合わないかと、いまだなお努力するかのような動きを見せていた。
上白沢の旦那は早苗の声が聞こえたあたりで、再び『ロクな事にならねぇな』と言う雰囲気を聴覚だけで感じ取ってしまい、まだ目を閉じて慧音の艶やかな手先による目隠しも求めていた。
なのでこの状況を完全に把握しているのは、上白沢慧音だけであったが。彼女は……稗田阿求から悪意だの嫉妬だのをぶつけられた余波で、慧音自身も阿求に対して悪意を隠さなくなった。
なお悪いことに、慧音の場合は阿求に嫉妬する要素が無かった。体は健康的で、身長もあり、肉体的魅力は少なくとも稗田阿求よりは十分どころか、抜群である。

早苗は、明らかに悪意を持って慧音から見物されている事に、舌を少しばかり打つが。ちょっかいにちょっかいでやり返して、ふざけてこないだけマシだと考えて、我慢することにした。
あくまでも東風谷早苗の興味の対象は稗田夫妻、もっと言えば稗田○○なのだから。
件の歩荷は完全に放っておかれ、一時的ではあるが忘れられてしまったが。これが常識人の限界と言う物なのかもしれなかった。

そのまま何分か、と言っても大きな時間ではなかった。
やはり東風谷早苗の予想は正しかったようで……命蓮寺につながる参道において、歓声と言うよりは、はやし立てるような声が聞こえた。
物部布都が命蓮寺に殴りこんでくれたようだ。


この声に○○と上白沢の、二人の旦那は息を吹き返して。阿求と早苗もそちらに意識を向ける事になった。
唯一上白沢慧音だけは、もうちょっと眺めていたかったなと、意地の悪い考えを持っていた。
件の歩荷は、さすがにそこまで予想が立てられないほどに、朴訥(ぼくとつ)では無かったようで。
このはやし立てるような歓声が、何を意味しており、また何者によってそのような声が出てきたか位は、予想していたし。
寅丸星は二杯目はおろか三杯目を頂こうかとしている時に、この野次馬根性丸出しの歓声を聞いたので、腹を立てながら表に出てきたが。
出来る限り関わりたくはないという意思があるので、稗田と上白沢の両夫妻のいざこざを見ていたのと同じ場所で、遠巻きに見ようかとしたが。
東風谷早苗と言う、新たな役者の登場を把握したら、さっきよりも遠い場所に移動してより安全な方法を取ってきた。

この声に○○と上白沢の、二人の旦那は息を吹き返して。阿求と早苗もそちらに意識を向ける事になった。
唯一上白沢慧音だけは、もうちょっと眺めていたかったなと、意地の悪い考えを持っていた。
件の歩荷は、さすがにそこまで予想が立てられないほどに、朴訥(ぼくとつ)では無かったようで。
このはやし立てるような歓声が、何を意味しており、また何者によってそのような声が出てきたか位は、予想していたし。
寅丸星は二杯目はおろか三杯目を頂こうかとしている時に、この野次馬根性丸出しの歓声を聞いたので、腹を立てながら表に出てきたが。
出来る限り関わりたくはないという意思があるので、稗田と上白沢の両夫妻のいざこざを見ていたのと同じ場所で、遠巻きに見ようかとしたが。
東風谷早苗と言う、新たな役者の登場を把握したら、さっきよりも遠い場所に移動してより安全な方法を取ってきた。

○○は少しばかり迷いながら、阿求の方をちらちらと見ていたが。
阿求はただでさえ必死なのに、更に強い力で○○の衣服を掴んだ、まるで子供が駄々をこねているかのようにも見えたが。
それよりも重要なのは、阿求は体が弱いというのに、無理をしながら力を出しているのは明らかであると言う部分だ。
先ほど、物部布都が参道に現れたのを示す歓声に、意識を傾けたのは○○のように状況が動きそうだ、と言う部分に注目したのではなく。
どうやら、○○が1人で行ってしまうのではと懸念したからこその、意識の傾け方だったのだなと、○○は今更になって理解した。これは何が何でも付いてきそうだなと、そう考えるしかなかった。
そして東風谷早苗は○○と阿求の、言葉を使わずに行った意思のやり取りを、しっかりと確認していた。

「役者がそろったようだ……ああ、阿求」
○○はまだ迷っていた、阿求を連れていくかどうかを。ロクな事にはならないだろうから、体の弱い阿求を近くにおいても良いかどうか……迷っていたのだ。
「行きましょう、あなた」
けれども阿求は、そんな○○の逡巡や苦悩、そして思考の隙間に対して即座に入り込んできた。
阿求は握りしめていた○○の衣服を離す際、硬い表情をしたけれども、最後には阿求から○○に対する信頼が勝った。
阿求が先に行けば、○○は追いかけてきてくれるという信頼だ。
案の定○○は、阿求を追いかけてしまった。横にいる事にも、なし崩し的にそうなってしまったが。
東風谷早苗はその様子を見て、舌を打った。結局○○は稗田阿求に振り回されっぱなしであり、その様子がとても、悲しく思えたからだ。
○○に対する早苗の念は、更に増した。





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最終更新:2021年01月20日 21:49