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 一体いつから今のような状況になっていたのだろうか。重い記憶を思い起こせど明白な時機すら分からない。
最初はほんの小さな気持ちであったはずだ。どうしても上手くいきたい時の神頼み。その程度の筈であった。
それがしばらく続いていた…ような気がする。酷く曖昧な、カラメル色の記憶。それが常にうまくいくように
なって来た頃、彼女の力を借りる頻度はほぼ毎日になっていた。何かが成功すれば次はより大きなモノに挑戦
することになる。失敗を恐れるあまりに僕は彼女に頼り過ぎていたのかもしれない。ここで少し痛い目にあって
いれば……どうしようもない空想のもしもの世界。この世界に「もしも」はなく、ただ思考を曇らせる空想
として脳のメモリーを食い潰していく。あるいはこれすらわざとなのかもしれない。少なくとも、空想に浸る
間は今の状況に直面しなくてもいいのだから。
 しかしながら頭は次第に働き出し記憶が呼び覚まされる。まるで彼女が現実に向かって僕の背中を押していく
ように。天人たる彼女の力を常に借りるようになってから、すでに随分と時間が経っていることに気が付き、
今更ながらに愕然とした。それは数ヶ月前のように感じていたのだが、手繰り寄せて確かめるといつの間にか
年単位で過去の物となっていた。
 今の状況に後悔は無い。たとえ常に彼女の力を借りていなければ、まともに行動することすらできないのだと
しても。確かめて見る勇気は消えていた。過去に一度だけ彼女をぞんざいに扱ったときに、素晴らしい返事が返って
きたのだから。あれでもきっと彼女は優しいのだろう。きっと、彼女は僕に手厚く手厚く、外界の嵐から遮断
するために纏わせていた加護を、一気に消しただけなのだろうから。
そして息も絶え絶えとなって、彼女に縋り付いた僕を再びすくい上げてくれたのだから…。確実に破滅する未来を
追求するのは、きっと勇気ではなく蛮勇と呼ばれる類いのものだろう。生物として、生きていく上で本能的に
避けられる、体が選ぶことを許さないそういった枷。彼女に覆われるかのように、導かれるかのように生きて
いる中で、きっと他の人には彼女は見えないのだろうけれども、僕は彼女をしっかりと現実に感じていた。






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最終更新:2021年01月20日 22:10