「……なるほど」
上白沢の旦那は東風谷早苗からの、彼女が遊郭で洩矢諏訪子にちょっかいをかけに行ったついでに、今回の事件の中心人物である純狐の周りで生じた事、そして早苗自身が観察したことをつぶさに聞き取ったあと、上白沢の旦那は出来る限りにおいて感情の変化を出さずに東風谷早苗に対して優位と言うほどではないけれども、付け入られないようにと努力したけれども。
「あの男がまた出てくるのか」
忘八たちのお頭も今回の事件に関して興味を示していると言う事実には、大物がまた一人増えたことに対する重量の増大を感じ取り、ため息を付かざるを得なかった。
「でも大丈夫だと思いますよ?」
しかし早苗は実にあっけらかんとしていた。上白沢の旦那は彼女の目を見た、言葉には出さなかったがこのあっけらかんとした様子に、所詮は部外者ゆえのお気楽な姿であると上白沢の旦那の目には映ってしまったからだ。
洩矢諏訪子も少し気になったのか、一歩前に出てきたが、それよりも上白沢の旦那は早苗から聞き取る事を優先したかった。

「何がどう大丈夫だと?」
明らかに――最初からそんなものはないが――友好的態度がまるで無い様子で上白沢の旦那は聞いて来たが、東風谷早苗は意にも介さずに話を続けてくれた。
まだ彼女は、事態をかき回せている事に楽しさを見出しているのかもしれなかった。
(あるいは○○への執着も、野次馬根性や洩矢諏訪子へのちょっかいの延長線程度で済んでくれればな)
早苗の姿はあまりにも挑発的だけれども、楽しそうである事には変わりがないのでこれ以上の悪化は、あるいは、防げるのではないかと言う一縷(いちる)の望みは上白沢の旦那としても、そんな希望にすがらざるを得なかった。

「どう大丈夫かと言いますとね、あの忘八さんたちのお頭さん、明らかに今回○○さんたちが犯人だと思っている男を、純狐さんたちに売ったんですよ。会話の全部を詳細に聞いたわけじゃありませんけれどもね、どうぞどうぞと言う様な態度でしたから、あのお頭さん。あの男は遊郭街としても厄介と言うか、迷惑な客だったんじゃないですかね」
上白沢の旦那はその事実も、帳面に対してしっかりと記したが。
東風谷早苗の言葉を信じないわけではないが、○○ならば遊郭街でのあの男の評判と言う奴を、悪評であるならばその悪評が自分が知った物と大差ない事を確認したがるだろうなと、○○の一番の友人を自認する上白沢の旦那としては、そんな○○の基本的な行動原理はすぐに思い至った。
そんな事を考えていたら、ごくごく自然に上白沢の旦那は帳面に対して『○○は確認したがるだろう……一か所だけからの情報を信頼しない』と言った懸念あるいは付帯事項と言う物を書き込んだ
しかしながら遊郭街への調査など、たとえこちらからの一方的な聞き取りだとしても、慧音は嫌がるだろうなという事もごくごく自然な成り行きであるのだ。

しかしながら東風谷早苗とはそんな、いわゆる突っ込んだ会話や議論と言う物は、間違ってもやりたくなかったしそんな会話や議論がそもそも、成立するとも思ってはいなかった。
「まぁ……だろうなとは思うが裏は取っておく」
なのでよくある言葉、きわめて事務的な言葉を上白沢の旦那は出してこの場をおしまいにしてしまいたいと考えたけれども。
その言葉の節のどこかに、特に裏を取ると言う部分に対して早苗はカチンと来てしまったのだろう。
確かに裏どり作業も、必要だとは思っているけれどもそれを行うのは別に彼ではなかった。
「お前が動くわけじゃないのに。指示すら出さないでしょう、それで相棒?」
東風谷早苗にとっては彼が、それでも相棒と言うのが、稗田阿求のようにただ○○の横でイエスマンをやっていればいいと言う風には見てはくれなかった。

「出来ないでしょう、上白沢慧音の夫であるあなたには。しようと言う発想すら存在しない。上白沢慧音を気にしすぎて遊郭とは極力関わらないようにしている」
何かの一線により、明るい声は作ろうと努めているけれども、この時の早苗の声には友好的であるかはもちろんではあるけれども、冗談であると言う部分すら存在はしなかった。
遊びでは無くて明らかに早苗は上白沢の旦那の事を批判していた、演じようとしていても怒りは消えないだけでは無くて隠すことすら出来なくなっているのだ、感情の昂ぶりが非常に強い事をうかがわせる。
本人すらもはや制御が難しくなっている。
「おい!?」
不味いと思った諏訪子は、早苗に対して 掴みかかるように向かっていったが、どこかの段階あるいは最初から早苗は、もうここまで来れば諏訪子が来ることを予想していたらしく、ひらりとかわしてしまった。

そのまま早苗はどこかに行ってしまった。
上白沢の旦那は黙って、彼は飛ぶことが出来ないので、黙ってその光景を見ながら横合いにいる洩矢諏訪子の事を見るしかできなかった。
「何とかしてくださいよ」
しかし、何も言わないなんてことは無いはずもなく。
「洩矢諏訪子、さっきの東風谷早苗は明らかに私に批判的であった……もう決定的だろう。○○は東風谷早苗の事を、あくまでも、熱狂的なファンの一人と言う事にして穏当な部分を見つけようとしているようだけれども……そう出来るかどうかは洩矢諏訪子、貴女次第と言っても良いかもしれない」
ここまで喋った後、上白沢の旦那は急に殊勝なと言うよりは悲しげな顔を作った。
「……あれでも東風谷早苗は随分とまだ、言葉を選んでくれている。もっと酷い言葉を使おうと思えば使えたのに、例えば、俺はあくまでも上白沢慧音の夫である以上の意味がないことぐらい……当の本人である俺が既に分かっているんだから……」
「良い、もう何も言うな」
殊勝と言うよりは悔やむような恥じるような声を出した上白沢の旦那に対して、洩矢諏訪子は黙ってくれと言わんばかりに声をかけたが。
身体に触れようとした際、果たしてそれはやり過ぎなのではと思ってしまい、急に彼女の動きが止まった。
今ここにいない存在を、諏訪子は明らかに、恐れたとまでは言わないけれども後々の事を考えて面倒と言う物を避けようと、あからさまにそう動いてしまった。

「ははは」
この諏訪子からのあからさまな気遣いに対して、上白沢の旦那は投げやりな笑顔を見せるだけで、手を振ってこの話題はもう別に、とにかくやらないでくれと言う様な態度をとった。
「東風谷早苗の事は頼んだ。あの女が言う通り、俺は遊郭の人間から何かを聞き出す様な事すら実は出来ないが、同じぐらいに東風谷早苗との接触にもどこか警戒心を持ちながらやる必要があるぐらいはご理解いただけるかと。今回は、保護者同伴でしたからまだ何とかなっているだけだと言う事は分かっていますよ」
喋っているうちに段々と、自嘲の裏に苛立ちも出てきたのか投げやりな態度も見て取れるようになってきてしまった。
「待て」
諏訪子は相変わらず、ここにはいない上白沢慧音の事を気にしてしまって身体には触れないけれども。
前に立って、落ち着かせるための時間やらは何とか作ろうと諏訪子は努力していた。
努力と警戒、相反する気持ちの存在にはこの男ならば気がづいてくれた。
「お気になさらずに、ちょっとお手洗いに寄ってから稗田夫妻のところに戻りますよ……貴女は?洩矢諏訪子」
少し諏訪子は考えた、優先順位を付ける必要があったからだ。
その際に置いて
あの忘八たちのお頭の顔が諏訪子の脳裏には、確かに出てきた、早くアイツのところに戻ってもう一度飲み直したいと、強烈に諏訪子はそう考えた。


(ああでも、その前にさすがに早苗がどこに行ったかぐらいの把握は必要か……神奈子に頭下げるのも1つの手段か。ええい、面倒くさい)
いくらか考えをまとめあげた後、諏訪子は大きなため息をつきながらも足を前に出した。
「頼む、早苗の方は私が見張るから」
「ああ」
大きくホッとした声を上白沢の旦那は出したと言うか、出さざるを得なかった。
「助かると言うか……そうしてもらわないと困る。身内じゃない俺が出来る事じゃない」
それだけを伝えたら上白沢の旦那は、まだ洩矢諏訪子が見える範囲にいると言うのに、神様が相手だと言うのに、神様などさして重要視をしていないと言う風にくるりと動いて稗田邸の中に戻っていった。
(あの男もあの男で、早苗とはまた別の意味で危なっかしい存在だな。まぁ関係が無いと言えば無いのは、助かっていると言うかあるいは、ありがたい事だけれども)
稗田阿求と言う存在が特級特大の爆弾である事には変わりがないけれども、一線の向こう側でも特に恐ろしい存在である阿求の周りには、やはり、普通ではない厄介の種が集うそんな力場のような物が形成されているのかもしれない。
(あるいはうちの早苗や……あるいは私も?)
上白沢の旦那の力強い歩き方を見れば、彼が心変わりしてやっぱりこちらを見る可能性は一考する必要すらないので、諏訪子も素直に歩みを再開した。
けれどもその際に一瞬考えた事は、諏訪子からすれば言ってみれば最悪の可能性であった。
(そんなはずがあるか!私は冷静だ!!少なくとも早苗よりは!!)
背筋に寒気すら覚えた諏訪子は、顔を横に何度も降ってその考えを遠くにやりながら、ひとまずは早苗の後を追う事にした。



「……遅かったな」
○○は特に何も言わずに戻ってきた上白沢の旦那に対して、他愛もない言葉をかけた。
しかしながらその言葉が出てくる前に、○○は上白沢の旦那に対してジッと、非難を意味するような部分は一切存在してはいないけれどもジッと見ていた。
ただただ心配してくれているのだ。
「ああ……お手洗いに寄っていたんだ」
嘘は言っていない、けれどもお手洗いに向かった理由は決して普通の意味ではない、不意にやってきた自己嫌悪を抱えたままで稗田夫妻の前に戻るのはあまりにも危険だし、そうでなくても厄介の種でしかないから時間を作りたかっただけなのだ。
多分に自分勝手な理由で、自分は稗田夫妻を特に○○の事を待たせてしまった。
まぁ、そこは良い。この自分勝手な理由で時間をいくらか作ってしまった事に対しても、お手洗いで座りながら気持ちの整理は付けた。
だが別にもうちょっと時間を作ってしまっても、そんなに不都合は無かったなというしか無かった。
稗田阿求が実にご満悦な笑顔を見せながら、最愛の夫である○○の小膝に座って、完全にではないけれども少々イチャついていた。
稗田阿求にとっては、こんな近しい関係と言うのは熱烈とはいえたかがファンにはできない行動だと、そんな風に自慢したい攻撃的な意思も上白沢の旦那は稗田阿求から若干以上に見て取らざるを得なかった。


「はは」
上白沢の旦那は少しばかり、目の前の光景に対して乾いた笑いを出してしまった。
「ああ……」
今度は○○の方が少しばかり言葉に詰まってしまった。
「何も考えていないわけではないんだよ……あの兄弟は今も永遠亭にいるし、永遠亭に対してはあの兄弟を保護してくれと頼んでいるから……となればただの人間に奪還だなんて、考えられるか?そんな可能性が」
なるほど、筋道の通ったちゃんとした理由であるなと上白沢の旦那は頷いた。
けれどもどこか呆れたような、乾いたような笑いはいまだなお出てきたままであった。
その理由として最も大きいのは、やはり稗田阿求が○○のように悪びれていない事だろう。
ただこれに関しては、呆れつつも何をいまさらと言う思考も同時に出てくるのだ。
そう、稗田阿求のこう言った行為、○○に対する執着心に対して呆れると言うのはとうに通り過ぎた感情だろうと言われたならば、その通りだと言うべきなのだ。
今更この部分を引きずっても、何にもならない。特に今現在は幸いなことに、阿求が誰かや何かにこの執着心が原因で他害を加えているわけではない。
「ほら、色々分かったと言うか……まぁ、放っておいても何とかなりそうとも思えるかもしれない」
とは言え、上白沢の旦那も東風谷早苗の名前を出せるほどに胆力と言うか向こう見ずな性格はしていない。
誰から聞いたかと言う部分を言わないで――どうせ稗田阿求は分かっている――上白沢の旦那は帳面のある部分を開いて渡した。
純狐が遊郭にてくだんの兄弟の……あの法の骨を折った犯人、しかも残念ながら実の父親であると言うのに。その男の事を捕まえてボコボコにしたこと。
遊郭にとってあの男が、はっきりと言って性質の悪い客であった事。
忘八たちのお頭にまでその性質の悪さは報告として挙がってきているようで、あるいはそこまでの人間にまで目を付けられているようなのが父親であることを嘆くべきなのか。
とにかく遊郭街はこの男の事を、純狐がたとえどのように扱おうとも問題にすると言う様な姿勢は見えないし、何だったら差し出す用意すらあるような口ぶりを、上白沢の旦那が聞き取った相手――つまり東風谷早苗――は遊郭街でその空気を感じたと言っている。

「なるほど」
○○は阿求と一緒に、相変わらずイチャつきながら軽く帳面の中身を確認していたら。
どうやら阿求の方がこの事態の収拾に対して、一定以上の絵図と言うか、成果すらをもこの状況で見つけたような、解決に至るまでの見込みと言う物まで見つけたかのような楽な姿勢を取っていた。
この状況での稗田阿求にとっての楽な姿勢とは、より最愛の夫である○○とイチャイチャすると言う事である。
「なんかもう、純狐に対して任せっきりでも良いような気がしてきた」
珍しく○○も、あるいは阿求が自分にイチャついてきてくれているからなのかも知れないが、雑な言葉を口に出した。
ただその雑な言葉、あるいは態度が許されるのはやはり純狐の存在は大きいだろう。あれは生半可ではないのは、少し資料を調べるだけで十分にわかる。

「まぁでも、あともう一回は会おう。聞いておきたい事もあるから」
「あら、お出になりますか?」
○○が窓から少しばかり外を見たら、阿求は即座に反応した。
「ああ、例の老夫婦がやってるお菓子屋に行ってくるよ。もう一回は会った方が良いだろう、その後は純狐に全部丸投げしてもまぁ、構わないと言えば構わないが」
○○の投げやりと言うわけでもないが、手を引くような言葉に阿求は面白くないような顔を浮かべた。やはり最愛の夫である○○の偉業を喧伝し続けたいのだろう。
「まぁオチぐらいは見届けよう」
阿求の事をおもんばかった、と言うのも無いとは言わないけれども、○○の言葉はそれよりももう少しばかり自らの欲求に正直であった。
実際オチと言うか結末を見届けたいのは、上白沢の旦那にとっても同意見であった。
上白沢の旦那もオチや結末が気になると言う、○○の言葉に肯定的な雰囲気を見て取った○○は「じゃあ行くか」と言って立ち上がった。
「ゴシップ好きでは無かったはずなんだがな」
上白沢の旦那は少し自嘲気味に笑って、歩き出した○○に付いて行った。
けれどもその際に、さっと、稗田阿求が○○の一番近くを奪取するような動きをした。
身体が弱いと言うけれども、この程度ならと言うべきかあるいはやはり、執念がそうさせたと言うべきか。

「それに気分転換をするべきだろうとも思った」
○○は稗田阿求から恭しく、外出の際の見送りとお辞儀をもらいながらいくらか歩いたところで話始めた、相変わらず稗田家からの護衛は見える範囲にいるが――いい加減に上白沢の旦那にだって誰がそうなのかは分かるようになってきた――ちゃんと聞こえないぐらいの距離感は取っていた。
「気分転換?」
「そう、君にとっての。特に理由や目的は無くても、散歩は良い物だよ。特に天気のいい日は」
何もかもを知られているわけではないだろうけれども、○○は上白沢の旦那が落ち込んでいる事を見抜いていた。
「ああ……まぁ、うん。ありがとう」
自分が所詮は上白沢慧音の夫でしかない、重要なのは上白沢慧音の方であることを再び考えてしまったが、上白沢の旦那は素直に○○に対して気にかけてくれた事に対して礼を言うのが最も良い判断であるし道義にも則っているはずだと考えることにした。
「うん、良いんだ」
○○は短くそう言うだけだが、横に立って相変わらず一番の友人である○○は上白沢の旦那の事を気にかけてくれていた。
気恥ずかしい気はするけれども、嬉しい事ではあった。
ただやっぱり気恥ずかしくて、妙な笑顔が出てきてしまうけれども。そんな笑顔が出せるぐらいには、マシになったとも言える。



「ああ、やっぱり来たね。友人様ー!あの二人が来ましたよー!」
例の老夫婦が営んでいるお菓子やにたどり着いたとき、店先でもぐもぐと、いかにも子供が好みそうなお菓子を食べながら周りを見まわしていたクラウンピースが、○○と上白沢の旦那を見つけるとすぐに、友人様を、つまりは純狐の事を呼びに店の中に入っていった。
純狐はクラウンピースの事は、やはり大事に思っているらしくて彼女が呼びに言ってすぐに純狐は店先に出てきた。
純狐の方も、クラウンピースと同じように子供向けのお菓子を食べていた。
不思議なのはこの光景に対して上白沢の旦那は、奔放な印象が強いはずのクラウンピースよりも大人びているどころではないキレイさを持っている純狐の方が、子供っぽいなと思ってしまった事だ。
ただそれが、純狐の美しさを意味しているのかもしれないけれども、同時に恐ろしさに厄介さの原因なのだろうなと言う妙な納得を上白沢の旦那は覚えてしまった。

「首尾は?」
純狐は口の中でお菓子を食べつつ、○○たちに向かって今の状況を聞いて来たが、それに対して○○は思わず吹き出してしまった。
「貴女の方がよっぽど動き回ったはずだ……まぁ、遊郭街では中心人物を見つけてくれたようなので、それに向こうも今回に関してはむしろ厄介者を排除してくれると言う実利の方が上回っているとなると……」
ここで○○は純狐の表情を確認するように目線をやった。
純狐は相変わらずお菓子をもしゃもしゃと食べ続けていたが、その目つきは少し笑っていた、少なくとも最初のどこを見ているのか何を考えているのかよく分からない印象は薄くなっていた。
「じゃあもう少し好きに動いていい?」
そして純狐は、少し笑っていたから穏やかな声色だけれども、物騒な印象がどうしても拭えない言葉を出した。
○○はすぐには答えを出そうとしなかったけれども、決して後ろ向きではないのは純狐と同じく薄く笑っている表情でうかがい知る事が出来たが。
この薄い笑い方に不気味なものを上白沢の旦那は覚えたが、その感覚は決して間違ってはいないだろう。
第一、今回の中心人物にたいしては○○も純狐も、助けようと言う意思がまるでないどころかくたばってしまえとすら思っている。
ある意味ではこの事件が、○○が扱ってきた事件の中で最もひどい物だろう。
○○は自分の資産を横領された時ですら、犯人たちを助ける事は出来ないと思いつつも妻である稗田阿求に知られる前に、自分で始末して、少しでも苦しめないようにしようと言う慈悲や情けは存在していたが。
今回の事件にはそれすら存在していないのだから。
残念ながらあの兄弟の実の父親なのだが、なのに兄の骨折の原因、犯人がどうなろうと○○も純狐も、それどころか上白沢の旦那ですら割とどうでもよかった。
「まぁ……正直なところ、今の状況をさほど悪いとは思っていないんだ。どうでもいいと言うわけではないし、結末を見届けさせてはもらうけれども……まぁなるようになるでも、正直なところ、全然構わないんですよね……あの兄弟はもう永遠亭にいますし」
相変わらず○○は薄い笑いを浮かべながら話を続けていた、○○からの白紙委任のような物をもらえたと認識した純狐はと言うと薄い笑いは相変わらずだがその笑顔は、明らかに獰猛(どうもう)な物に変化していた。
上白沢の旦那はやや困ったように○○と純狐を互いに見比べるが、ふと思った、自分も似たような物だと言う事をだ、止めない時点でさしたる違いは存在していないのだ。

「じゃあ、不都合が合ったらその時言ってくれないかしら、すぐに止めるし稗田○○の都合に合わせるから」
「ええ、それで構いませんよ」
酷い会話だ、上白沢の旦那は困ったような顔を浮かべている物の結局最後まで特に止める事はおろか、苦言のような物を出すことすら無かった。
不意に、純狐の後ろでものすごくかしこまっている、あのお菓子屋を営んでいる老夫婦と目線があった。
上白沢の旦那はむろん軽く会釈をした。
するとそれに反応をして、老夫婦は慌ててやりすぎなぐらいのお辞儀を見せてくれた。
…………また上白沢の旦那には自己嫌悪がやってきた。
このお辞儀は自分に対してだろうか、自分の後ろにいる上白沢慧音に対してだろうか。
しかしこの話題は、ここでは全く関係がないので、何とかニコニコした顔を維持してこの場を乗り切ろうと言う事だけを考えるようにした。

もう今日は慧音に抱いてもらいながら過ごそうかなとまで、上白沢の旦那は勝手な事を考え始めていたが。
ぶらぶらと視線を左右に散らせている時に、向こう側から因幡てゐがこちらに駆けてくるのが見えた。
彼女は幸運のウサギとも伝えられるけれども、何てことだ今回は真逆の報告だとすぐに理解できた。
「すまない!」
因幡てゐがそう叫んだ時、純狐と○○の様子は明らかに怖くなり、クラウンピースは飲み込みかけていたお菓子がノドにつっかえたような動きを見せた。
「あの兄弟がいなくなった!!」
その時の純狐と○○からは、殺意のような物が因幡てゐに向かって飛んで行っているのが、何となくわかった。





感想

名前:
コメント:




+ タグ編集
  • タグ:
  • キツネつきと道化師とキツネシリーズ
  • 早苗
  • 諏訪子
  • 阿求
  • クラウンピース
  • 純狐
最終更新:2022年02月07日 23:09