「大丈夫だとは思うが」
どういう意味で?と思ったが、心配の向きがどのような物であるのかは、もう○○は気づいていると見てよいだろうから、自嘲気な笑みを思わず上白沢の旦那は出してしまった。
「ああ…………」
少し長めのため息のような物が○○から見えたが。
「目立つのは好きなのか?」
○○から思ってもいなかった質問をもらった、けれども今更この質問をはぐらかす必要性は感じなかった。
「ああ、求めている。野心、あるいは名声のような物が欲しい」
なので上白沢の旦那は正直に答えたら、○○は少しだけ笑ってくれた。悪い意味のない、ちょっとした微笑であった。
「そうだな、それを批判する権利は俺には無いだろう。分かった……心配と言えば心配だが、阿求の方が心配だから頼むよ」
「ありがとう」
ある意味でもなんでもなく、確かな免状を○○から得た上白沢の旦那は素直に礼を述べるのみであった。
○○は妻である阿求の事が心配だからと言うのが最大の理由ではあるが、上白沢の旦那がついに表に出した自分もやはり目立ちたい、と言う正直な欲求に対して、ならば自分の代わりに動いてくれと比較的以上に快く免状を与えた。
けれども免状を与えた瞬間に、もっと言えば上白沢の旦那もどうやら名声と言うのに飢えていたような表情を見せてくれた時に、最初は○○も自分だって名声依存症だと分かっているから、たとえ依存と言う渇きを満たすために振舞う事がその実では、嫁である稗田阿求ですら許しているを通り越して、振舞うための舞台すら用意してくれている。
○○はその事に対してとてつもなく、自分は幸運だと思っているしもし他の人物が、ましてや妻以外では最も近い存在である上白沢の旦那が実は自分も名声と言う物に飢えていると告白されたならば、協力こそすれども邪魔をするだなんてことは、絶対にありえないのだけれども。
だとしても、協力をすると言う感情と不安に思うと言う感情、これらは決して矛盾や二律背反と言った動きは見せないどころか、むしろ不安にすら思うから協力してしまうと言っても構わなかった。
正しく今この時、○○は悪意にあてられた阿求の事が心配なので動けない代わりに、上白沢の旦那に種々の調査や……場合によっては直接的な行動をやってもらうために、その手伝いとなる稗田家の奉公人達を、○○のように分かっている人間が先頭を歩いている訳ではないからと言う事で、奉公人達が誰がついて行けばいいかを慎重に吟味している際、○○は案外とこういう場合でもと言うよりも、そもそもの段階で待つと言う事になれていた。
稗田家と言うのは中々所では無くて大きな組織だ、そんな組織がいつもの動きならばともかく普段とは違う動きの場合は、それがちょっとした事でも――上白沢の旦那が野心を満たしに行くのが、ちょっとした事かどうかはこの際においては棚上げしておく――少しばかり相談と言う作業が必要になってしまうし。
ちょっとした相談のすべてに、あの稗田阿求の夫である○○が、旦那様が、首を突っ込むと言うのも慎まれるべきだと言うのも○○は理解している。
だから○○は待っている間も、ソワソワとはせずにお茶をもう一杯飲もうかと言う程度の心持でしか無かったのだけれども。
肝心の上白沢の旦那の方が、明らかに落ち着いていなかった。
「……まぁ、お茶でも飲んでいようよ。幸いにも俺達は、そうしている事を許されているのだからね」
「うん?ああ、まぁでも、待つと言うのは落ち着かなくて。その間の時間に、何かやれるんじゃと考えてしまってね」
せっかく○○が、お茶のお代わりを用意しているのに上白沢の旦那はと言うと、用意されたお茶の方にはまったく意識はおろか視線すら向けずに、○○の私室内でウロウロとしていた。
さすがは稗田邸の内部にある部屋だけあって、広々としていて動き回るのに何不自由は無いけれども、この私室の主であるはずの○○が客をもてなそうとしてお茶まで入れてくれていると比較すれば、あまりにも落ち着きのない上白沢の旦那の姿には、一番の友人が相手であるから柔和な態度を維持したままで微笑を携えて彼の事を見つめ続けていたが、○○が上白沢の旦那の事を見つめれば見つめるほどに、彼の方が○○をまるっきり見ていないのには残酷なぐらいに、○○は知る事が出来た。
けれども○○はその事実に対して、無視されたと言うわけではないから怒りや悲しみは無いけれども、不安と比べればそれらはまだ、マシな感情かも知れないと○○は思った。不安と言うのはどうしても長引く。
「急いては事を仕損じるよ?君が持っている、そして否定しようがないほどに気づいてしまった野心の存在を、決して俺は問題だとは思わないけれども。野心を満たすために性急な動きをすることには、はっきりと危ないよと言わせてもらう」
○○は相変わらずニコニコとしながら穏やかに、一番の友人である上白沢の旦那に対して、出来る限り優しい言葉をかけていたけれども。
内心においては、○○はそれが一番の友人に関わる事であるから気が気ではなかった。
決して○○は、上白沢の旦那の気を害したくはないのでその事は言わなかったけれども。
何と無しに彼の野心と言うか、求めている名声に関しては○○が追い求めている物よりも短期的な利益を求めている、そんな気配をどうしても感じ取ってしまった。
一口に言えば上白沢の旦那は明らかに、焦っているという風に○○の目にはそう見えていた。
一瞬、彼が焦っているのはまだ見つかっていない弟の方を生きていると信じて早く見つけたいと、そう思っているのかなと考えたと言うか、思おうとしてやりたかったのだけれども。
顔つきから見える感情が、心配とは真逆なのでそう思ってやってわざと自分自身を錯誤に置く事も、○○はかなわなかった。
○○は、彼がこんなにも焦っている理由は何故だろうかと考える事はもちろんの事で行ったけれども、同時に現実的な事も考えていたこの短時間で彼の内面を全て理解するのは不可能である事ぐらい、○○は理解していたからだ。
○○は友人である上白沢の旦那の事を考えながら、稗田家の奉公人達の事を、その人たちの中で今回において、上白沢の旦那の随行員として動くであろう人たちの事を考えていた。
この人たちにどのような言葉を用いて、今の上白沢の旦那が名声と言う物を欲してしまい、野心と言う物を抱いてしまった上に、どうにも焦りと言う物を抱いてしまったかを。
これらを、上白沢の旦那への評価を傷つけずに下がらせずに、どのようにして伝えればいいか……友人が焦りだした事よりもこちらの方が、直近ゆえに重大な事柄のように○○には思えてきた。
「慧音は褒めてくれるだろうか、慧音ともう少し並び立てるだろうか。俺の今の立場は慧音が全部、用意してくれているような物だから少しは自分の用意した何かが欲しい」
ああ、くそ、なるほどそう言う事か。○○は思わず心中に置いて毒づいた。結局のところで、上白沢の旦那が焦っているのは劣等感が原因なのだ。
……これは実のところでは、○○にとっては縁のない感情であった。そんな感情、抱く必要のない契約を○○は阿求と交わしているから。
むしろその事で阿求の方が気にしていた、今日や明日と言う超短期的な話ではないとはいえ阿求は自らの都合だけで、○○の身も心もそして生命すらも、阿求が好き勝手にしなければならないからだ。
最も○○は、それだけの価値があるし阿求がそうすることによってのみ、稗田○○と言う名前の価値を最高点に到達させられる事が出来ると、○○はそう判断しているからだ。
けれども、同じ一線の向こう側とはいえ稗田阿求と上白沢慧音のその旦那に対する愛し方と言うのは、実は若干以上の差異と言う物が存在していた。
それは上白沢慧音が健康面においても肉体的魅力に置いても、非常に高い水準である事はとても大きな関係があるとも分かっていたし。
……友人だからこそ、詳しく調べていないけれども。上白沢の旦那とその妻である慧音、この両名の間に何かがあって上白沢慧音がいっその事で過保護とも言えるぐらいに、甘い事にも○○は気づいていた。
その、上白沢慧音が彼に対して、過保護なぐらいに甘い事がその実で彼に名声欲や野心と言う物を抱かせたと言う、皮肉気な推測も無論の事で○○は、行う事が出来たけれども。
それはあくまでも枝葉でしか無かったし、こちらが触れるべきことでない事も明らかであった。
「上白沢先生は気にはしていないと思うよ。今、気にしているのは、行方不明の弟の事だろう」
だからあくまでも○○は、喫緊の事柄でありなおかつ、どのような場合に置いたって子供の身の安全と言う、ずっと重大な事のみを気にしている事を口に出して、上白沢の旦那に対してもどうかそっちの方向に思考を傾けてくれないかと、そんなことは言わないけれども誘導するような言葉を○○は口に出したが。
「ああ」
上白沢の旦那の返事は、上の空とまでは行かないけれどもあんまり、声に力がこもっていなかった。
全くの上の空ではないのは、目の前にいるのが声をかけたのが友人であるからと言う以上の意味は、恐らくは存在していなかった。
やや、上白沢の旦那は恍惚としたような雰囲気すら携えていた。さすがにこの雰囲気は、外に出れば隠せるし、仮に見られても彼の評判を考えれば悪い風には思わないで、事件に対する意気込みと思ってくれるだろうけれども。
だろうけれども、不安が募ってしまう。少なくとも○○は気づいてしまっているからだ、彼の妻である上白沢慧音に対する劣等感の存在に。こういうのはこじれやすいし、何だったらもうこじれてしまっているとすら考えても良かったかもしれない。
「上白沢慧音はそれで良いと思っているし、寺子屋の副担任だかと言った地位にいる事を、周りの人たちだって好意的にこそ受け入れてはいれども、悪い風には思っていないはずだ」
今のままで良い、と言うような事を○○は上白沢の旦那に伝えたかった。もちろんそこに他意はないのだけれども、他意や悪い意味の存在が無いといくら発言した本人が言ったとしても、受け取った方の感情が方向性を決定してしまう。
「『だか』ね……」
そして寺子屋の教師らしく、上白沢の旦那はちょっとした言葉遣いに対して、鋭敏に反応した。これには文章を歴史の編纂を生業としている、稗田阿求を妻としているはずの○○は、奥歯でしくじった事を悔しさと一緒にかみしめる事しかできなかった。
幸いなのは、○○のちょっとした言葉遣いに対して決して上白沢の旦那は、怒りだしたりしなかったことだけれども、忸怩たる思いであるのは震える彼の姿を見ればわかった。
ますます不味い事になってきた、としか○○には思えなかった。何か、とにかく大きな仕事を成し遂げたいと言う気持ちを上白沢の旦那から、あまりにも強く感じ取ってしまった、この強さは暴走と言い換えても大差は無さそうであった。
「うん、その……」
上白沢の旦那を何とか落ち着けたかったが、○○は何かよさげな言葉をおためごかしですら出てこなかった。
「良いんだ、自覚している」
殊勝すぎても却って不安を抱いてしまう物でしか無かった。
「旦那様」
結局何も、○○は上白沢の旦那に対して慰めたりするような言葉をひねり出すことも出来ずに、結局で奉公人達が上白沢の旦那の為について行く、手の者を集め終わり編成も済んだと言うような事を伝える、その声がついにやって来てしまった。
「ああ……」
○○も動かないわけにはいかないが、後ろ髪を引かれる思いであるのは言うまでも無く、稗田家で奉公人をしかもちょっとした以上の荒っぽい事も望まれている者ともなれば、こういう機微と言うのには聡くなければやっていけない。
「ご用意が出来たのでお伝えに上がりましたが。何か、あったので……?」
丁度近づいてきた○○に奉公人は○○にだけ聞こえるように声をかけ、それに○○の方も上白沢の旦那に気を使ってくれと伝えたかったので、渡りに船とはこの事である。
こういった小さな事の積み重ねで、○○は稗田家と言う組織を絶対に侮ってはならないと、そう考えるに至るまでの時間は決して長くは無かった。
つまり目の前の奉公人を、能力はもちろんであるけれども信頼するに足ると言う事でもある。
「上白沢の旦那の事だが……名を立てたがっているのかな……?いや、それは良いんだけれども……そのう、性急に過ぎるかなと言う部分が見えて」
この時○○は決して、彼に劣等感が植わっている等と言う言葉は使わなかった、友人の事を悪く言いたくも無いし、名声と言う物に実は飢えていると言うのはその実で○○だって同じだからまさか悪く言えるはずがないとも言える。とはいえ言葉に困るのは事実だから、厄介極まりない。
ものすごく言葉を選ぶので、○○の喋りは途切れ途切れになってしまったけれども、奉公人の方はもうとっくに気づいてくれていた。
「焦って、その結果にやり過ぎないように、注目しておいてほしいと言う事ですか?」
「ああ、そうだ」
「了解しました」
○○の肩の荷がすべて降りたわけではないが、あの阿礼乙女の九代目である阿求の夫の彼に報告などを持ってくる奉公人は、基本的に高位の物が来てくれる。
今回も彼に、○○は自分が抱いている懸念を伝えることに成功したと言うか、彼の方が即座に何かに気づいてくれた、○○はやや以上に助けられたと言う気分を抱いたけれども、助からないよりはずっと良い方向なので○○はこの、何と無しに感じた自身への力不足を飲み込むのみであった。
「用意が出来たよ」
「ああ!そうか!!」
ソワソワとしていた上白沢の旦那であるけれども、○○からの言葉に更に強い様子を浮かべたけれども、事件の内容を考えればこのワクワクとした様子は奇妙の一言でしかなかったし、友人だから奇妙で済ませているけれども他から見れば、不快感すら想起させる可能性はとても高かった。
「うん、まぁでも……いや、はっきり言おう。この一件をこなす事で名声を得られるかもと言う部分において、そう考える事には、俺だって名声依存症だから何も言わないが。名声を欲している事を、腹の底に隠しておく腹芸は必要だよと、ほんとうに強く助言させてくれ」
○○は人差し指を立てながら、言い含めるようにしていたが。その姿はさながら、教師のようであった、悪い子ではないし評価もしているが、少しばかり動きに不安を抱いてしまう子を相手にしているかのような、今の○○はそんな皮肉な姿をしているなと自覚してしまったが。
「あ、ああ……なるほど確かに、○○、君の言う通りだ」
出来る事ならば上白沢の旦那には、この皮肉な状況に気づいてほしかったけれども、その欠片すら見当たらなかった。
○○のこの言葉だって、助言と言って表現を柔らかくしているけれども、完全に忠告と言っても良いのでそちらにだって気づいてほしかった。
○○からの助言と言うよりはほとんど、それは忠告だと言う言葉たちの意味にも気づく素振りも無く、上白沢の旦那は、とはいえ一応は表の意味である意気揚々とした姿は隠せと言う言葉を何とか実行しようとしてくれながら、上白沢の旦那は用意された奉公人達をぞろぞろ連れながら、件の父親の家に。
今は、例のお菓子屋の店主夫妻と純狐と、歯止め役として何とかしようとしてくれている
クラウンピースの来訪と言うよりは襲撃を受けている、あの家に向かった。
事態の大規模化と悪化を食い止めようとする、クラウンピースには本当に申し訳ないが○○は図らずともクラウンピースの努力を不意にしてしまう動きをしてしまったが、彼女にはただただ平謝りするしか出来ないとしか○○は考えなかった。今の上白沢の旦那には、少し気にかけてくれる人たちの目と言う物が必要だ、と言うのも事実であるのだから。
ただそれは上白沢の旦那の名誉にかかわるから、クラウンピースには伝えないが。仮に彼女が優秀だとしてもだ、○○は友情を優先する。
そして上白沢の旦那と彼の後ろをついて行く、と言うよりは○○からの懸念をもう知っているからやり過ぎないように監視――この表現は心中に置いても使いたくないが、監視と言うのが適切だからどうしようもなかった――している奉公人達も全員が、○○の視界から見えなくなってしまったら。
出てくるのはやはり、愛妻である阿求の事であった。
あのクソ女め……!よりにもよって阿求の身体の弱さをあげつらうとはな!!
○○はその性格と似合わない、激情と汚い言葉がその心中に対して自然と湧き上がってきたが。
意外な事に自分であいつらをどうにかしようとは思わなかった、それよりも阿求のそばにいて彼女を慰めてやりたかった。
阿求は、自分の身体が弱い事が原因で子を成せない身体である事を、ものすごく気にしている。
その心配によって阿求は、根も葉もない心配事だと○○はその度に思っているけれども、やはり○○が阿求のそばを離れるのではないかと言う、そんな恐怖を大きい小さいはあるけれども常に抱いている。
たとえ笑顔の時であろうとも、その不安は絶対に阿求の奥底に存在しているのだ。見えないだけでしか無かった。
既に○○は動き出していた、行先は無論の事で阿求の私室である。
すれ違う奉公人達に会釈の一つも、○○は行う余裕が無かったけれども。既に阿求がとんでもない悪意を受けて、そのせいで気を病んでしまった事は、奉公人達の間では周知の事実であったのでむしろ奉公人達の方が道を急いで譲るぐらいの物であった。
「阿求」
真っ直ぐと、脇目を振らずに阿求の私室に入った○○は妻である阿求の隣に、大急ぎでやってきた。
幸いと言うべきかは分からないが阿求は少しばかり気を取り直したのか、横にはなっておらずにちょこんと座った状態であった。
……○○は今の阿求の様子を見てまったく自然と『ちょこん』と言う表現が出てきた。
身体が弱い事もそうだけれども、身体が小さい事も無論の事で阿求は気にしている。○○は自分で自分に毒づきながら、ごく自然に出てきた自分自身の感情と言葉に苛立ってしまった。
「あなた」
阿求の隣に座り、○○は自身の苛立ちを押し込めるのに必死で言葉を出せなかった、最初の言葉は阿求が出してしまった。
「妻が子供を成せない身体で申し訳ありません」
阿求にそれを言わせてしまった上に頭を下げようとした阿求であったが、何とか頭を下げる事だけは、○○が彼女の肩を力強く持つことでそれだけは阻止したし。
「名声依存症の旦那で本当に済まない、俺は間違いなく阿求を利用している」
○○にだってスネに傷はある、それを阿求に分かってもらいたかった。
「存じていますが、結局私は最終的に私の都合であなたの絵図を台無しにします。臥竜点睛(がりゅうてんせい)を欠く、肝心な部分を私は○○にさせる事無く、私の都合だけで、付き合ってもらう事が決定しています」
阿求は本当に申し訳なさそうな表情を浮かべて、○○に対して許しを乞うような姿であった。
○○が肩を抑えているから何とかなっているが、力を抜いたり手を離せば間違いなく、阿求は頭を下げてしまうだろう。
それだけはさせたくなかった。
「歴史的な評価は本人には下せない、後世の者が下すそれこそ専権事項だ。けれども予測は立てられる、もう今の時点で、後世が下してくれる評価が好意的な物であることは、もう疑っていない」
「なるほど確かに、そうかもしれませんね」
○○からの言葉に、歴史編纂こそが阿礼乙女の最大の使命である阿求であるからこそ、○○からの言葉にさしたる異論は挟まなかった。
「今回俺は、稗田家の力を最大限に使わせてもらう。今までもそうだったかもしれないが、それを超える勢いで使う」
○○の言葉に阿求が同調してくれたのを機と見て、○○は話の内容をその向かう先を変更してきたが。
むしろこちらの方が本題ですらある。
「どの様にになさるおつもりで?」
「俺が直に行くかどうかは分からないが、それでも処断以外の結末を考えていないが……」
一応、阿求に対して流血である事に構わないかと言うような事を聞いたが。
阿求が答えを出す前に、彼女は口元をクスリとした風にしていた。
「ご随意に」
阿求が○○に対して、しとやかに会釈してくれる前に口元のほころびを○○は見ていたので、その答えを聞く前に○○も口元をほこらばせて。
つまり夫妻ともに、笑っていた。
感想
最終更新:2022年02月09日 22:32