彼女に通じた言葉はいつもこうだった。僕の肯定、賛成、同意といった言葉を聞く彼女は穏やかで優しい。
しかし、その反対の言葉、そういった感情がわずかでも入っているものを聞いた瞬間、彼女の笑みは別の
意味を放つ。
「違うんじゃない?」
薄っすらと犬歯を見せながら笑みを浮かべる彼女。手に持った硝子製のグラスが中に入った液体の曇りなき
色を伝える。血のような赤い色。高級なワインなのか、それとも人間の・・・。
彼女の心情を伝えるかのようにグラスが回されて荒波を立てる。薄いナイトドレスを着た彼女は正に夜の
女王と呼ぶべき存在だった。大きめに作られた衣装から見える白い肩が僕の方へゆっくりと近づいてくる。
僕の前まで来た彼女が指を伸ばす。白い指が僕の頬に触れた。
「○○……。」
グラスが僕の口に添えられて、中の液体が注ぎ込まれる。今回は幸いに葡萄から作られたものであった。
安物にはある渋みは感じさせずに、ワインが僕の口を通り赤い液体が体に流れていく。丁度注ぎ終わると、
彼女がソファの横に腰かけた。
姉といえども小さい彼女の姿は自分の横に座るとよく感じ取れた。細く折れそうなと文豪ならば表現するで
あろう彼女の腕。それが人はおろか、妖怪すらも粘土細工のようにあっさりと引き裂いているのを
僕は既に知ってしまっていた。グラスを置いた彼女の手が僕の首筋を撫でる。指の腹が僕の血管をなぞり
脈打つ場所を探り当てる。僕に彼女の体重がかかり、そしてよじ登るように彼女の手が僕の肩を掴んだ。
舌が僕の首筋を這う。二人の間で沈黙の時間が過ぎた。
「----!!」
僕が言葉を口にしようとした瞬間、器用に彼女が僕を倒して上に乗った。猫のようにしなやかに小柄な体格
が動く。そのまま僕の口を唇で塞ぐ彼女。反対の言葉を言わせまいとするかのように。
僕は結局、彼女を退かせることができなかった
感想
最終更新:2022年02月09日 22:34