いくらかの監視兼護衛達と一緒に、報告書にあった場所に○○はほとんど変装をせずに向かった。
上白沢の旦那と喫茶店にでもお茶をしにいくのならばともかく、○○には普段から変装と言う物が、どうしても必要であった、特に調査に赴く際には。
これは阿求の持っている、興奮を促すツボの存在がどうしても理由として存在していた、有名人である名探偵の稗田○○と言うその肩書を○○には良くも悪くも使っていてほしかったのだ。
何となくこの肩書の存在に、○○ですら振り回されているような気はしないでもないけれども、実際に振り回されているのならばそれはそれで阿求は喜ぶ、阿求だって阿礼乙女の九代目と言う看板には辟易とする場合が間々あるのだから、自分と似たような存在に○○がなってくれていると阿求ならばそう考えてしまう。
それぐらいの事、阿求の夫である○○は妻の琴線がどこにあるかぐらいは、もう、把握していた。
そして今回は事件が事件だから、子供の生死がかかっている所か既に1人は落命してしまっているから、せめてもう1人は助けたいと言う考えが詰まっているのだろう今回に置いて○○に阿求がつけてくれた監視兼護衛の人たちの数は、いつもよりも明らかに多かった。もしかしたら平時の倍近い数なのではないか?
1人や2人多い程度ならばともかく、ここまで多くなると隠すのはほぼ不可能である。
「しかし雑多と言うか、猥雑な区画だな」
ならばもう、隠さない方が却っていい結果を招いてくれそうだと考えた○○は、一応程度に被っていた帽子を取り払い、つまりは変装することを止めて稗田○○が来ている事を姿だけではなく、ややわざとらしく発したこの少し大きな声によっても周りに対して大いに伝える事にした。
帽子を取り払った瞬間に、また阿求が喜びそうなことをやってしまったなと思ったが、それが
決して悪いとは思っていなかった。
ただ、四季映姫・ヤマザナドゥはこういうのを嫌うだろうな程度にしか、○○は考えていなかった。
屈強な監視兼護衛の集団が、○○の表現するところの雑多で猥雑な地域に大挙してやってきた時からそうであったけれども。
○○がその姿をさらしたことによって、本能的にこの場を立ち去った物もいれば、楽観的なのかそれとも本当に脛に傷が見当たらないからなのか○○とその手の者である稗田家の屈強な奉公人を見て、遠巻きにしながらも何が起こるのか楽しみにしているのはともかくだが口笛のような物を鳴らして見物する者には、あんな下世話な音は稗田邸では聞く事が無いので一瞬○○は眉根を寄せて奥歯にも力を入れて耐えるような表情を浮かべた。
それは稗田家の、この屈強な奉公人達にしたって同じことであるから、それに今回の事件においては、子供の命と言うのがかかっているからこの人たちも気と言う物が立ってしまっている。
多分、○○が手をこの人たちの前にだして抑えていなかったら、甲高い口笛を吹いたものはそこまで酷い目にあう事は無いとしても、首根っこを摑まえられて○○たちの見えないところへ連れていかれて解放されるときも放り投げられていただろう。
それはそれで、胸がすくような感情はあるけれども本質的な部分からは程遠い、眉根は寄るけれどもこの程度の下世話な連中に付き合ってやれるほど今の○○には余裕と言う物はなかった。
弟の方の身の安全を気にしていると言うのもあるけれども、阿求の感情に強烈な暗雲と言う物を感じ取ってしまった以上は、そんなどす黒い感情に精神が阿求の、はっきりと言って弱い体に良い影響を与えるとは間違っても思えない。
二重の意味で、この事件は一刻も早くに解決する必要性を○○は得てしまった。
父親の方はもう期待できない、上白沢の旦那も分かっていたとはいえ純狐を止めるついでに近くにいたから一応聞いたが案の定であった、だから上白沢の旦那は独自に探し始めてくれた。
あの母親も、父親同様に期待は出来ないしやりたくも無かったけれども。それでもこっちの可能性はまだ、試していなかった以上は試さないと言うのは許されざることだとも○○は思っていた。
可能性が無いと確認できれば、それはそれであの母親の方面に断罪や処断をそれだけやりやすくもなってくれる。
「この店?」
報告書を一枚、○○は手に持って読みながらとある店の前で足を止めた。
「はい」
奉公人の一人が短いけれども覇気のある声で答えてくれた。
そして中からも稗田家の奉公人の一人が出てきて「まだいます、店にはもう話を通しておりますので、どうぞ旦那様」
あの母親に話を聞きに行くと○○が決めたのは、稗田家の奉公人に対して秘密でも何でもないとはいえ、そしてここまでの事を○○も求めているからそうしてくれとまで命じたとはいえ。
手の速さには助かると同時にこれが敵でなくて良かったと言う、表裏一体の感情を○○は抱いていた。
無論、あの母親とついでに巻き込んだ愛人に対して、冗談めかした感じでの『ご愁傷様』と言う感情すら、今の○○には無かった。
死なないだけマシだと思えと、本気で○○はそう思っていた。
ただ、○○は一思いに店内には入らなかった。
入れなかったと言う方が正しかった、第三の懸念と言うか事象を前にして思考回路が一時的に固まってしまったからだ。
○○がふと視線をやった先には、いや視線は間違いなく誘導されていた自分たち稗田家がやってきた時のざわめきとはまた別種の下卑たざわめきが聞こえたからだ。ちょうどいい女が中々に扇情的な格好で歩いている場面において、出てきそうな下卑た感じであった。
何だよと思いながら○○はその方向に目線をやったら……東風谷早苗がいたからだ。
『ああ、なんてことだ』と言う言葉すら。その時の○○の脳裏には浮かんでこなかった、先回りされたこともそうだが東風谷早苗の態度が一番の問題なのだ、早苗は○○が自分に気づいたことをしっかりと確認したら、とても好感を持ったそしいて色っぽい表情で○○の方向に手を振ってくれた。
早苗はもう隠さなくなってきている、自分が○○に惚れていると言う事実を。
そんな早苗の隣には八坂神奈子が、早苗が不味い領域に入っている事を幸いにも彼女は気づいてくれているようで、何か流行の飲み物やら食べ物やらを持ってきて、懸命に早苗の気を引こうと八坂神奈子は努力していた。
そして東風谷早苗の方も、遊郭で猥雑に好き勝手やっているうえに利益も一緒に持ってくるがゆえに、大きく言えない洩矢諏訪子と違って八坂神奈子には迷惑をかけたくないし無碍にはしたくないと考えているようで、困ったような顔は浮かべていたが嫌そうな顔は一瞬たりとも浮かばせなかった。
東風谷早苗も分かっているのだ、八坂神奈子が一体何を、つまりは稗田家の稗田阿求の怒りを買ってしまわないかと言う部分に、大きな心配をしている上に、早苗の事も大事したいから頭ごなしにやめろと言わないでおいてくれている事を。
○○は、八坂神奈子の相手を罪悪感からやっている早苗が、一瞬○○から目を離したすきに○○もここしかないと即座に判断して、店内へと一気に入っていった。
彼女の事は○○はチラリとも、東風谷早苗の事は意図的に考えなかった。とにかく考えないように努力していた、それが結局は東風谷早苗から離れる事の出来る態度だと、そう○○は信じていたからだ。
店内に入った○○は、雑多で猥雑な地域の店はやっぱりなんだか品がないなと言う思いを抱きながら、その歩みをずんずんと進めていた。
これならばただただ酒を飲むための空間である、立ち飲みやらの界隈の方が、よっぽど潔い店なのではと言う考えがふと浮かんでまで来た。
この場所は遊郭とは若干ではあるが離れてくれているから、阿求は○○がここで活動することを許容はしてくれているものの、『してくれているものの』と言うような表現はどうしてもついて回るそんな空気感は○○としても如実に感じ取らざるを得なかった。
ついて来てくれている奉公人達も、まだ耐えてくれているけれどもはっきりと言ってピリピリしたりして機嫌が悪くなりつつある、稗田家で働ける存在ともなれば品だってそれなり以上に求められるが故の現象だろうこれは。
○○としても、愛人とはいえこんなところで男女が会うのかと言う感想はもちろんだけれども、さっさと終わらせなければならない理由がまた増えてしまった、その事の方がより重大な事項として機能していた。
後ろからついて来てくれている奉公人の一人が、いつの間にか椅子を一脚持ち歩いて来てくれたいた。
そのままその奉公人は○○を追い抜いて、そしてある机の前に椅子を置いてくれて「どうぞ、旦那様」そう言って場を整えてくれた。
既に○○の前後左右には奉公人が誰かしら見えると言った状況が出来上がっていたし、客の方も追い出されたのかほとんどいなくなっていたし、ちらほらと残ったのも泥酔気味だったので奉公人がしかたなく担ぎだしていた姿が見えた。
檻のような物、それが出来上がったのは明らかであったが、普段と違ってこの檻が閉じ込めているのは○○ではなかった。
……ふいに○○は自分が檻にとらわれている事を自覚してしまって、いやな気分を覚えてしまったが、自分が檻に飛び込むことが阿求の心を最も慰める事が出来るのだからしかたがないと頭を振った、
第一、もっと大きな檻に阿求は囚われている、短命の業という檻に。
檻の存在を考えながら、そしてその考えを気づかれないように気を配っていたら案の定ではあるけれども、○○の機嫌は少し以上に悪くなってしまったが。
詰問を通り越した尋問を行うのであれば、これぐらいの方が丁度良かったのは少しばかりの皮肉と言えよう。
第一この事件、何から何まで嫌なことだらけなので機嫌を整えろと言うのも無理な話であると言えばそうなのだけれども。
「やぁ、さっきぶりだね。君の息子の死体が見つかった場所で、別れて以来か」
椅子にドカッと座って話始めた○○の言の葉には、隠す気の全くないトゲと言うかもはやこれは刃の切っ先を突き付けているのと変わらないぐらいの、そんな敵対的な行動を○○はとっていた。
○○をイライラさせるのは子供が死んだこともあるし、弟の方が行方不明なのもあるし、こんな状況で母親の方は愛人と会っている事もあるが。
目の前にやってきたらやはり、苛立ちの種と言うのは増えてしまった、母親の方は完全にめかしこんでいるし愛人の男は、はっきりと言って軽薄な印象が強くて嫌な物であった。
「もうね、俺はお前たちと議論だとか話し合いをするつもりはない」
阿求の身体と精神の為にも時間をかけずに、早く終わらせるべきだとは思っていたが、それは阿求の為はもちろんだけれどもここに来て急速に、○○自身の為と言う部分も出てきた。
こいつらとこれ以上関わりたくない。
○○は少し迷ったが、時間を買うと言う考えで懐から高額紙幣を目の前の机に、叩きつけるようにして置いた。
「弟の居場所を知っているなら今すぐ言うんだ、そうしたらこの札束は黙ってここに置いて行ってやる」
○○がそう言い放つと、愛人である軽薄そうな男の方が女の方に目線をやりつつも、完全にもの欲しそうな顔をして○○が机にたたきつけた札束を凝視していた。
「まぁ、たぶんその女次第だな。君がこれを受け取れるかどうかは」
○○はくすくすとしていたが獰猛な顔をしていた、けれど愛人の男は高額紙幣に夢中で○○の獰猛さに気づいていないのか、気付きたくないのか。
けれども女の方は気づいていた。だけれども気付きながらも、○○がこいつらの目の前にたたきつけた高額紙幣に対して、どうにか入手できないかと言うような色目と言う物を○○はずっとこいつらの顔を見ていたので把握できた。
「俺はあの弟の方を見つけたいだけなんだ」
再び○○は、自分がこの場所に来たそもそもの目的を、伝えるような自分に言い聞かせるような形で口に出した。
○○がそもそもの目的を口に出したら、女の方がやや以上に狼狽をしたのが○○の目には確認できた。
「知ってるのか?」
○○は間髪入れずに、けれども淡々と女に対して聞いたが女からの反応と言うか返答は何もなかった。
「ふん」
○○は少し以上の失望を表したかのような雰囲気で、鼻を鳴らした。
「お前、今日どこにいた?俺や阿求に強がりに来た以前の話だよ」
ふと思い立った○○はこの女の今日の動向を聞いてみる事にした。
女の方は○○の質問に、答えるはずは無かったが目線が右往左往と泳ぎ始めたのには、まぁ予想はしていたけれどもやはりの所で、ロクな事をしていなかったのは確認できた。
「調べればわかる事だぞ、稗田をあんまり侮るなよ」
いつもならば○○は借り物だと強く自覚しているから、稗田の名前はその権勢は極力出さないように気を使っていた――それでも○○と言う人物が生きているだけで稗田阿求の力はその身にまとってしまう――けれども、今回は全く別であった。
やはり稗田の名が持つ威力は素晴らしいの一言で、その名前を出して明らかに苛立ちながら侮るなよ言ったのは少なくとも人里ではこの恫喝に、勝るはおろか耐えられる勢力や存在はいないと言う事であった。
「私といましたよ!!」
軽薄そうでは無くて間違いなく、軽薄なこの女の愛人である男の方がたまらずに言葉を出した。
「へぇ」
たぶんこの男は本当のことを言っている、それは○○としても分かったけれども分かったからこそ余計にこいつらに対する評価を下げる要因にしかならなかった。
最も、どのように状況が展開しようとも評価を押し下げる以外に展開のしようがあるのかと言う根本的な問題はあるけれども。
とはいえ、男の方は○○が呆れたように言葉を出さなくなったのを傾聴と受け取ってしまったようで、聞いてもいないのに更にべらべらと。
と言うよりはこの男からすれば不安で仕方がないから、多弁にならざるを得ないとも言えよう。
「朝からずっと僕はこの方と一緒にいました!」
「ふん、まぁ信じるよ」
通俗的な表現をするならば、『あーマジかよと』言った感情を出しながらも稗田阿求の夫らしくあんまり砕けた様子だけは出さなかった。
しかしながら、この女は多分兄の方を――殺してはいないけれども、死んでしまう理由の何割かは間違いなく担ってしまっていると言う評価は固定化されてしまった。
「何時ごろから?」
一応は、正確な時間を知って置きたかったから○○も聞いて置いたが。
「九時!朝の九時には間違いなく僕はこの人と会っていました!!」
「寺子屋の朝礼は八時四十五分からだな……つまりこの女は朝の九時に『めかしこんで』この男と会うためには、何時ごろからお化粧をする必要があったのかなぁ……」
とつとつと、別に誰にも聞かせる様子も無く呟いた。それと一緒に上白沢の旦那が兄の方の骨折を見つけて、大慌てでこちらにやってきた時間も思い出していた。
あれは確か、本当に、九時になるかどうかだから。もうその時には、この女は子供を放ったらかして
愛人の所に行っていたと言う事になってしまう、お化粧の時間も含めればそれより以前から意識の外に子供を置いておかねばならない。
「もちろん!」
○○がこいつら本当に……救えない……と思いながら機嫌を悪くしていたら、やはり不安は誰しもをも多弁にさせる、黙ってりゃ酷くはならないかも知れなかったのに。
「あの酷いお話を聞いた時、この人はちゃんと家に戻りました!!」
それが免罪符、あるいはこの女の善性を担保もしくは喧伝できる何かだと思っていたらしい、この軽薄な男は。
この男は、○○が第一報から関わっている事にまるで気づいていない。
思わず、○○はこの軽薄な男をぶん殴ってしまった。
許せなかったのだ、まず初めにこの女は確かに産んだかも知れないが母親のように扱っていい女ではない事と、愛人であるこの軽薄な男はそれに気づいていないにしても、あるいは隠しているにしても、その事に及びをつかせるようなことは何も言わなかった、隠しているのならば純粋に気づいていないのならばその軽薄すぎる様子に○○は腹が立ち続けてしかたが無かった。
○○がぶん殴ってしまった事で、軽薄そうな男はそのニヤケ面が完全に醜悪な物に代わってしまった。
馬脚を現したとは、まさしくこの事だろうしなお面白い事にその男は醜悪な顔を浮かべながらも瞬間的に、○○が机に叩きつけるようにして置いた大量の紙幣を目にして、表情がコロコロ移り変わる様子を間近で見る事が出来た。
中々面白い見せ物とも思えたが、今の○○にそれを見てたとえ皮肉げであろうとも笑ってやる余裕は無かった。
「欲しいか?」
代わりに敵意を向けながらそう質問した。
愛人である軽薄な男の顔に少し以上の、媚びと言う物が見えた。
「弟の方の居場所を教えろ」
だが媚びられると余計に、○○は敵意をむき出しにしつつも、それでも目的は忘れてはいなかった。
軽薄な男はさすがにその事を、知っているはずは無かったので女の方にヘラヘラとしたような顔だが圧力を加えていた、やはり○○が目の前にたたきつけた高額紙幣の束は魅力的であったようだ。
脛に傷しかないこの女の方ですら、札束をチラチラと見ていた。
○○は金に目が完全にくらんでいるこいつらに苛立つし、そもそもこいつらに何かを話させる道具として持って来た札束は稗田家の金なので自分の物ではないと言う、その部分にも苛立つだけなので○○はまるで心が落ち着かなかった。
「正直に言えばくれるの?」
ついに女の方が、こんなのが母親なのだがそいつが口を開いた。そしてこの言葉には○○も、こめかみに苛立ちを超えた怒りから力が込みあがってきたが、話が進まないのが一番よくないので○○は黙って首を縦に振ってやった。
「知らないのよ……何も」
けれども出てきた言葉は、まぁ酷いの一言だ。
「もういい!」
○○はついに腹を立てて、叩きつけた札束も机を殴りつけるようにして回収して、この場を後にしようとしたが。
「え、待って!」
女の方はやはり札束を諦めきれないようで、すがってきてしまったが。
裏話や取引を持ち掛ける以外はあり得ないぐらいにくせ者な洩矢諏訪子ならばともかく、もはや今の○○はこの一件以前の話として阿求以外からの女性に触られることを拒絶してしまう、そんな身体が出来上がってしまっていた。
そして話をこの一件に戻せば、先の阿求以外の女性へ拒絶反応を起こす云々を抜きにしても、こんな女に媚びられても○○は嫌悪感しか出てこなかった。
「触るな!?」
突然の事であったが何があったかを理解できた○○は、裏返った声で手を振り回した。
とはいえ裏返った声を出してしまうような、そのような状況ではこの女との距離を離す事だけしか気をまわすことは出来なかった。
手に持っていた札束は握りしめら続けることは無くなって、どこかの段階で空中に放り投げらてしまった。
ヒラヒラと、何枚もの高額紙幣が宙を舞ってしまった。
「ああ!?」
もの欲しそうな顔をしていた、この軽薄な男は急に立ち上がって舞い落ちるお札を捕まえようとしたし、それは女の方だって全く同じであった。
二人の浅ましい物が宙に舞うお札を欲して、どちらともが完全に自分本位で他者を考えていない動きを行ってしまった。
「うわ!?」
○○の事など見えているはずは無いし、反射的に拒絶反応を出したばかりであったから思わず身体の均衡を崩してしまったが、活動的な事が幸いしてまだ大丈夫だったが。
「死にたいのか!?」
いっそこけていた方がまだマシだったかもしれない、○○はさっきよりも強烈に男の方をぶん殴ってしまったが、そうは言っても店内で暴れるのは外よりも狭いましてや身体の均衡を崩したばかりでぶん殴るなど。
一応この軽薄な男はぶん殴れたが、そのまま○○は身体を一回転させながら地面に転がってしまった。これは間違いなく、先ほど素直に転がっておいた方が勢いはマシであったろう。
嫌な音、何かが折れる音と一緒に○○は地面に転がってしまった。
唯一の幸いは、頭はぶつけていない事かもしれないけれども、稗田○○がケガをしたと言う事実が稗田阿求にどのような状況をもたらすか、奉公人達はもはや本能でそれを考えてしまい、青ざめてしまった。
「痛いが」
しかし○○は完全に宙を浮いた感情であった、片方の腕は完全に動かなくなっているけれども、何かを見つけてしまって全くもってお面白そうであった。
「おまえの息子が折れていたのと同じ場所だ!」
偶然の一致と言われたならば全くもってその通りなのだけれども、今の○○はその偶然すらをも天啓として扱っていた。
「そうか!お前たちはあんな小さな子供に、大人でも顔をしかめるような激痛を!?」
そうは言うけれどもその時の○○の、しかめっ面は激痛以外の部分から来ているのは明らかであった。
初め○○は、阿求の精神に悪い影響しか及ば差ないだろうからと言う事で、今回の首謀者と言うか犯人と言うか……愚か者を処した方が良いのではと考えていたが。
その考えに少しの変化が出た、阿求の為と言う部分は同じくであるけれども、○○の自発的意思としてもこいつらを処したいと、そんな望みと言う物が生まれてしまった。
感想
最終更新:2022年02月09日 22:58