埋めネタ
「さて、これでいいわ・・・。」
闇の中蝋燭の僅かな光りに灯されて少女が言う。まるでこれから起こることに絶対の自信があるかのように。
「お嬢様、よろしかったのでしょうか。」
側に控えるメイド服を着た女性が少女へ問いかけた。あたかも既に起こった事に対して、今からでも何か
出来てしまえるような声音で。それに少女が答える。血のように赤い液体をグラスに馴染むように回しながら。
「ええ勿論よ。咲夜…。」
彼女の唇が赤い舌によって舐められる。猛獣が獲物を狙うかのように赤い目が光った。テーブルに艶やかな
音が響きガラスの器が真っ直ぐに置かれた。水面がさざ波を立ててやがて収まった。
「○○にはもっと楽しんで貰おうと思ったのよ。この夜だけじゃなくって、ね……。」
「ですが…。」
「咲夜。私の能力を忘れたのかしら?」
少女の声が響く。口元から白い牙が零れた。高貴なる夜の女王、死人の王たる彼女が宣言する。
これから起こることは絶対の事だと。運命の女神を司るのは自分だと。
「……失礼しました。」
「○○が例え25番目の夜から抜け出そうとして、そうして次の朝を迎えたとしても…」
部屋の空気が粘ついた音を立てるかのように、一瞬の内に変化をした。少女から溢れた妖気が部屋を
侵していく。人間ならば即座に昏倒するような、例え館にいるメイド妖精の選りすぐりの親衛隊ですら
まともに息が出来なくなる力場の中で、平然と女性は横に立っていた。時が止まったかのように。
「やがてまた夜はやって来る。」
少女が立ち上がりグラスを虚空へ突き出す。この場に居ない愛しい人へ、最上の愛を込めながら。
「乾杯しましょう○○。そしてまた…」
空間へ赤い滴が零れていき、赤い霧となって消えていった。
「会いましょう○○。次のお話で。」
その夜、幻想に迷い込んだ一人の運命が動いた。
感想
最終更新:2022年02月09日 23:30