なるほど……光る獣、外の知識を用いて○○に対して○○がシャーロックホームズを非常に好んでいる事を見て取ってそのネタで煽ってきた存在の事を知ってしまった以上、この一件はどうしても目に留まってしまったが最後調べざるを得なくなる。
それに早苗が用意してくれた事件に関するメモ書きは、この光る獣が出てきた場面も事細かに記してくれている、これと言った遮蔽物の無い原っぱにおいて、夜間に突如出でてきたと言う状況もシャーロックホームズの原作、いや聖典とかなり似通った状況が構築されているように感じてしまう
○○にとっては喫緊においてもっと重大な事項が存在している。
拾い上げてから気づいたのだけれども、早苗が寄こしてくれたメモ書きはかなり仔細に渡って情報が書き込まれており、なおかつその書き込まれ方も非常に丁寧で……およそメモ書きと言うのは不釣り合いなほどにその文字はキレイに描写されていた。
その上、○○はこのメモ書きそのものに対して、可愛いと言う感情を抱いてしまった。これが一番の問題であった。
確かに稗田の奉公人をあちらこちらへと情報収集に駆り出した際も、集めてくれた情報を紙に書き記す際においては彼ら彼女たちは、子細にそして読みやすくしようとしてくれている。
だがそれは稗田に対する信仰心ゆえだ、でも東風谷早苗は違う稗田家とは関わりの無い人間が何故にここまで……ここまで可愛くメモ書きを制作してくれるのだろうか。
やはり、○○が問題だと思った通りで一度この早苗からのメモ書きを可愛いと思ってしまったら、しかもそれを手渡されこそしていないがわざわざ届けに来てくれたことも相まってしまえば、メモ書きから感じる可愛いなと言う感情はするりとそしてすばやく東風谷早苗本人への好意的な感情へと変化してしまった。
(どうしようこれ……)
○○はメモ書きの中身以上に、早苗の書いてくれたメモ書きそのものに対してもどのように処理すればよいのか分からなくなっていた。
○○はメモ書きを持ったまま突っ立ち、メモ書きの内容とメモ書きそのものをずっと見比べていた。
読み進めていくうちに、光る獣に追い立てられたことで遊女が一人大けがまで負っていると言う事を○○は初めて知った。
こんな情報は、本当にこのメモ書きを見るまで知らなかった。
早苗のメモ書きにも、射命丸をはじめとした天狗の新聞が面白おかしく書き立てると思っていたのにという、補足のような疑問のような一文も記されていた。
(阿求が握りつぶしているのか……?)
遊郭内部でのゴタゴタに関しては、阿求にとっては名探偵である稗田○○がその能力を誇示して崇め奉られる事実を作りだしそして見届ける事の次に、彼女にとっては面白い娯楽として機能している。
そんな彼女が、たかが遊女のケガなんぞに面白そうな顔こそすれ心を痛めるはずは無い、増してや動き出すはずがない。むしろ遊郭街を苛ませる方向に阿求のその頭脳は発揮される。
となれば、情報が表に出ない事で助けを呼べないと阿求が判断すれば、次の瞬間には阿求はこの情報が表に出ないように、それこそ旦那である○○にも気付かれないように素早く握りつぶしてしまう事は、十分にあり得るでは無くて間違いなくそうするなと、夫である稗田○○は残念ながらそう断言してしまえた。
そのまま突っ立たままでいると、奥の、お手洗いのある方向から足音が聞こえてきた。
どうやら上白沢の旦那がちゃんと戻ってきたようであった。
○○は思わず、背筋を跳ねさせてしまった。別に何もやましい事はしていないのに、だけれどもこの早苗が自筆したこの書状――いつの間にか○○の中ではメモ書き以上の価値を持っていた――をそのまま持っているのは明らかに不味いと、○○の意識はそう警告した。
○○が手に持っているこの紙片の製作者が稗田家の家中で常に動き回っている奉公人、これらの内の誰かであるのならば全く問題は無い、○○が稗田家の奉公人をあちらこちらにやって情報収集をやっているのはもはや通常業務のうちである、隠せるような物ではない事もあるけれども○○からしても隠す気はないを通り越して、名探偵であられる稗田○○の活躍の片りんとして妻の阿求がその事実を陰に陽に表に出したがってすらいる。
だけれども今回は○○が持っている紙片は、それ所か○○の中では書状と言う風に思い始めているこの物品は、本来稗田家とは何の協力関係も無い東風谷早苗が、ただただ○○の歓心を得るために無償で集めてまとめてくれた情報である。
稗田阿求への信仰心がそうさせている、これで全部を説明できる奉公人からのまとめられた情報であるならば、たとえその情報を渡したのが女性であろうとも阿求への信仰心は阿求が○○と共に生きる事を望んでいる、妙な事になる確率は万に一つもあり得ない。
最も阿求本人が我慢できないから、○○の周りで会話が発生する女性の奉公人は大体が少し以上に年を召しているのだけれども……
だけれども東風谷早苗の場合は、阿求への信仰心はない所かむしろ否定的であり批判的な部分も少なくはない、○○が名探偵のようなふるまいをしている事もそしてその舞台を稗田阿求が用意している事も含めてだ。
だが今回の東風谷早苗は……稗田阿求への否定的で批判的な態度があるにも関わらずに、○○に新しい情報を寄こしてくれた。
たとえそれが、以前の事件で外の知識を持ってして○○を嘲笑してきた謎の人物を追いかけると言う名目があっても、そもそもその事は伏せ続けている、もっと言えば早苗と○○が共通の書く仕事をしていると言う事実がもはや最大級の爆弾だ。
そこに加えて、東風谷早苗が自発的に情報を、明らかな好意を見せている様子で丁寧に情報の書き込みを行った紙片を渡したことまで含まれてしまえば、爆弾の大きさと危険性は○○にはもはやとっさに想像すら出来なくなった。
最終更新:2023年07月23日 01:25