原案 女苑/24スレ/322 ※だいぶ長い


「○○〜 はいっ今日のお小遣いね」

今日も受け取ってしまった、、
いつも悪いといって断ろうとすると

「もう!○○は一文無しの貧乏で根暗なんだからこれくらい受け取りなさい!」

正直言い過ぎだと思うが彼女のおかげで俺の生活が助かっているのもまた事実だ
俺は元々この幻想郷とやらにはいなかった
いわゆる"外来人"? というものらしい


俺がここに来た当初はとても困惑した
なんせ目の前に広がるのは時代劇で見るような長屋や商店の数々だったからだ

「おいその格好、お前外来人だろう」

これまた時代劇に出てくるような髷を結った中肉中背のおっさんが話しかけてくる
そのおっさんにこの世界のことをある程度聞く
おっさんは人情に厚く銭湯を経営しているらしい
その後俺は銭湯で働いた
おっさんが俺の仕事を見繕ってくれたのだ
ありがたい、
俺の主な仕事は営業時間後の風呂場の清掃だった
これがなかなか重労働で全て清掃し終わるのに6時間はかかった
意外だったのは見慣れたケ口リンの桶が浴場にある事だ
おっさん曰くあっちのものは時たま流れてくるらしい
よく分からないがそういうことらしい
ケ口リンのピラミッドに親近感が湧くとは思わなかった

毎日三食とは行かないが生活は出来る、家はおっさんが長屋の一室を借りてくれた
ほんと何から何までありがたい、、

そんな日が続いた
夜中は長時間清掃しっぱなしなのでいつも決まって昼近くまで眠る
起きても何もすることが無いので里を練り歩く
まさか昼まで寝て健康的に散歩をする日常がこんなに気持ちいなんて前居た世界なら一生知らなかっただろう

お、
この道は初めてだな
見慣れない細い道に身を滑り込ませていく


「ねぇ」


突然声を掛けられる
声質的には超美人!
そういえばこっちに来てから女っ気なんて一つもなかった
そんなことを考えならがら声のした方向に体を向けると、

なんというか、
バブリー?
美人なのは間違えないがそれをくらませる程の色彩と重厚なアクセサリーの数々
飾りとしての役割しかなさそうなサングラスは彼女の性質を表す指標としては良いだろう
そんなバブリーでビビットな彼女にあっけらかんとしていると

「貧相な服に貧相な顔ね、それでいて頭まで貧相とは救いようがないわねアンタ その道はこの辺のチンピラのたまり場なのよ」

、、
前半がだいぶ気になるが彼女は危険に片足を突っ込んだ俺を注意してくれているらしい

『あ、ありがとうございます』

「フン、感謝はわかりやすいものでって言いたいとこだけどアンタお金持ってなさそうだものね」


なんだったんだ、
嵐のように消えていった
残っているのは彼女の付けていた甘い香水の残り香だけだ

ーー

今日も石と木の浴場をブラシでこする
地味な配色だ
元いた世でもあんな色彩は滅多に見なかった
ふとあの甘い匂いがした気がする
いやおっさんが買ってきた石鹸の匂いだろう

『あ〜!可愛かった!!結婚してくれ〜!!!』

思ったことを何も考えず吐き出す
よく響くのに誰にも聞かれないとは愉快なものだ
誰かに聞かれたら恥ずかしいことは尚更だ

ガラガラッ
ひと仕事終わって長屋に転がりこむ
部屋から甘い匂いがする気がする
たった一度あっただけなのにこうも惚れていると思わされると自分の顔をひっぱたきたくなる

そんな自分を包み隠すように布団に包まり目を強くつぶる
完全な暗黒だとより強く匂いを感じるから困る

ーー

今日も今日とて練り歩く
彼女にまた会えるのではないかという淡い希望を重ねて


後ろを振り向く

いる!?
俺の鼻も捨てたもんじゃない


『その、昨日はありがとうございました』

「い、いいのよ」

「そ、それよりアンタあの風呂屋で働いてるのね、」

「稼ぎは充分なの?充分じゃないわよねぇ、そんな格好ですもの」

「手、出しなさい」

『あ、、はい、』

ジャラ

「感謝なさい!」

驚愕した
俺の手にあったのは俺の給料3ヶ月分、
いやそれを超えかねない重い重い大金だった

『え、これ』

「お恵みよ!アンタの格好見てるとこっちが恥ずかしくなるわ!」

『頂けませんよ、こんな大金、』

「私に一度出したものを引っ込めろというの!」

『う、、、ありがたく頂きます、』

そう答えるしか無かった

「それでいいのよ」

「、、名前は?」

『え?』

「名前よ!まさか貰うものだけ貰っておいて名前も教えないって言うの!?」

『、!○○です』

「そう、、○○」

「私の名前は女苑、依神女苑よ!よく覚えておきなさい!」

ーー

ひと仕事終え

長屋の扉を開き

布団に包まる

いつもの日常だ

懐の重い銭貨以外は

どう使おう
いや、使っていい物か?
女苑さんにみすぼらしい格好だと言われて頂いた大金だ
俺の金であって実質女苑さんの金だ身だしなみに使おう

ーー

次の日
呉服屋に出向く
布は産業革命以前の時代は高級品だった
この前までなら絶対手も出ない金額だ
こうも美しい直線で作られた服に囲まれると
おっさんのお下がりの丈の合わない服を着ている自分がとても恥ずかしく感じる

『すみません、これをください』

呉服屋のおばちゃんが驚くこの格好だ、どうせ冷やかしくらいに見られていたのだろう

女苑さんに貰った格好に不釣合いな枚数の銀貨を何枚か出す
するとおばちゃんは急に態度を変えて購入した服を着せてくれた

帯とはこう結ぶものだったのか
見よう見まねで結んでいたが今度からは正しく結べそうだ

おNEWの和服でいつもの散歩道を歩く
いつもの道は何も変わってないはずなのに何かソワソワする
久しく買う新しい服とはこうも落ち着かないものなのか


そんな足取りでいつもの甘味処を通り過ぎる

つもりだった、

看板娘が可愛い店だ、

ここのみたらし団子は美味い、

前居た世界のどの団子でも勝てないほど美味い


質素で優しい甘さの団子
醤油の香ばしさと団子本体の甘味を邪魔しない甘さ加減の餡
炭で焼いている故の弾力
何より手で焼いているので業務的機械的でない温かみ
この全てが見事に調和し相乗し高め合っている
もはや経口摂取する幸福である

、、

いつもならどうやりくりしても3日に1本が限界だが、

今の俺なら、、

〜〜

頼んでしまった、
5本も、、
注文した時のあの娘は少し驚いていたな

甘味処の看板娘が俺の座る左どなりにそれを置く

「お服新しくされたんですね、何かあったんですか?」
看板娘が不思議そうに問う

『いや、ちょっとね』
さすがに女苑さんからお金を貰ったから服を新しくして奮発して団子も5本も頼んじゃいましたとは言いづらい

「あ、お茶は負けておきますね」

ありがたい


団子を口に入れる

美味い

そんな三文字では表すことが出来ないほど

一口で頬の輪郭が溶ける

二口で胸から上の境界が曖昧になる

三口で少し宙に浮く

四口ともなればどこまでが自分か分からない

これが1本、

だが今日はその先があるのだ

熱い茶を喉に少し流し入れ冷静さを取り戻す

五口目

美味い

美味い、、

六口目

七口目
八口目
お茶
九口目
十口目


……


……


最終的に溶けた精神の下弦はマントルを撫で
上弦は成層圏を目にした


最後に少し冷め独特の甘みが際立つ緑茶を飲み干す



美味かった、、


もう筋肉で動いていることが信じられない溶けかけの身体を動かす

改めて女苑さんにお礼を言わなければ、


「あ、あら、○○じゃない、」

女苑さん!?

『女苑さん、ありがとうございます!』

「!? え、ええ感謝なさい、」

『女苑さん!俺女苑さんの為ならなんでも出来ます!』

「!!、、、な、なんでも?」

『はい!』

「その、、はんとか、、一緒に、」ボソ

『え?、』

「べ、別になんも言ってないわよ!」

「私はいいのよ、そういうの、私が○○にやってあげたいからやってるっていうか、」ボソボソ

「そんなことより!」

「今日も手を出しなさい」

『え!?いやさすがにそれは、』

「いいから!」

私は○○の手に無理やり銭貨を握らせる

○○の手と私の手が触れている、

『やっぱりこんなに頂けないですよ』

「まだまだ貧しさが芯から滲み出してるのよ!」

「そんなの見てるとこっちまで惨めになるわ」

嘘だ
受け取って貰わねば困るのは私だ


"これは必要な儀式なのだ○○が私に依存するための"


『でも俺こんなに貰うのさすがに悪いです、』

○○の悲しそうな顔だ
可愛い

「アンタの好きに使えばいいわ、」

「、、でも、さっきみたいに女にデレデレ、するのは、、」ボソ

そうだとも好きに使えばいい、取り返しのつかない所まで金銭感覚が狂うのが好ましい
けど私以外の女とさっきのようにイチャつくのは許せない
考えただけで、、

ーー

初めはなんてことなかった

口調で外来人だとすぐに分かった
私は外来人を見ているのが好きだった
大抵の外来人は苦しむ
具体的には元いた世界との落差で苦しむ
当たり前だ
一文無しでこの世界の知識もない
理不尽にこの世界に現れる
それを見ているのが楽しい
持っている自分と持っていない外来人
その構図がとても愉快だった

彼は惨めな格好で昼間にそこら辺を歩く
サイズ違いのボロい布切れを羽織り
実際に見ずとも皮膚の上から肋骨の形が分かるであろう身体

愉快だ

彼はたまに団子屋に立寄る
団子屋の娘にデレデレしながら質素な団子を幸せそうに頬張る
彼の生活の中で唯一と言っていいほどの娯楽なのだろう
そして腹の足しにもならなそうな団子を食べ終えたあと
彼は看板娘に一礼して歩を進める

しばらく歩いた後

彼の視線が薄暗い小道に引き寄せられる

確かあの道の先にはガラの悪い奴らのたまり場がある
そのままどうなるか観察するのも良かったが彼の姿を見れなくなるのは単純に嫌だ

彼に声をかける

彼はあっけらかんとしている

「貧相な服に貧相な顔ね、それでいて頭まで貧相とは救いようがないわねアンタ その道はこの辺のチンピラのたまり場なのよ」

少し小馬鹿にして彼を静止させる

『あ、ありがとうございます』

「フン、感謝はわかりやすいものでって言いたいとこだけどアンタお金持ってなさそうだものね」

再び小馬鹿にしその場を去る
なんて愉快なのだ
私の格好を見て絶対に羨んでいた

「ありがとう、ね、」

久しぶりに他人から向けられる好意だった
そういえば自分の心を他人の不幸を摂取することで満たしていた
他人の惨めな格好を
私の能力で散財して絶望する様を

少し彼のことが気になる

つけて行くとボロい長屋についた
こんな場所に住んでいるのか
私なら5分ともたずに音をあげてしまう

夜が深くなり彼は風呂屋に向かう
彼はブラシを持ち木造の風呂を一生懸命磨く
風呂に入らなければいけないほど汗をかいている人間が風呂を磨いているのは滑稽だ

そんな様子をしばらく見ていると

『あ〜!可愛かった!!結婚してくれ〜!!!』

!?

めちゃくちゃ驚いた

突然彼が叫んだ

いや驚いたのは叫んだこと自体よりその内容だ

こんなに濃い好意を向けられたのは生まれて初めてだった

彼に認識できないよう細工をしているがそこにいるのは限界だった
おそらく顔は紅潮して真っ赤だっただろう
私はその言葉から逃げるようにして浴場から退散する

さっきの言葉がぐるぐると私の頭で繰り返される
繰り返される度私の心音は早くなっていく

ーー

気づけば彼の部屋にいた
私は一体何をしているのだ、

ガラガラ

彼だ!

彼にとっては一人だが
私にとってはこの空間での私が異物すぎて落ち着かない
必死で息を殺す
息を殺すと今度は心臓の音がいやでも気になる

とても長い時間がたったような気がした
彼は床についた
彼の顔を近くまでいって覗き込む
無垢な寝顔だ
こうも汚れていない彼を見ると心の奥底の方からなにか黒いものが湧き上がってくる

彼を独占したい

"彼を私に依存させてやりたい"

ーー



彼だ

話しかけようと姿を現す
すると彼は見えていたかのように振り返った
想定していなかったので少し焦った

『その、昨日はありがとうございました』

彼からの感謝の言葉だ
やはり慣れない

彼に手を差し出すよう命じる

彼が少し慌ただしく手を差し出す

彼の手の上に財布から銭貨を取り出し乗せる

困惑している
そうだろう
私にとっては端金に過ぎないが彼にとっては大金のはず
彼を見ていると口角が斜め上に引っ張られそうになる

『頂けませんよ、こんな大金、』

金を返そうとする彼を丸め込む
受け取った時点で彼の負けだ
その銭貨には私の妖気をたっぷり吸わせている
じわじわだが彼を散財癖のあるダメ人間に堕としていく
狂った金銭感覚は一度回り始めてしまった水車の如く歯止めの効かない恐ろしい代物だ
その恐ろしさは私が1番よく知っている

ところで私は彼の名前を知らない
こんなに恵んでやったのだ
何の憂いもなく彼の名前を聞く

「、、名前は?」

『え?、』

「名前よ!まさか貰うものだけ貰っておいて名前も教えないって言うの!?」

不躾なやつだ
もっと金が欲しいというのか

財力なら誰にも負けない

財布を取り出そうと手を動かす

『、!○○です』

○○、

○○というのか

一度口に出してみる
良い口触りの名前だ

「私の名前は女苑、依神女苑よ!よく覚えておきなさい!」

お前の
○○の主人となる者の名前だ
よく覚えておけと自分の名前を名乗る

ーー

次の日

彼だ

新しい服を着ている
前のとは違う新しいやつを
なかなか似合っている
いずれ私のモノになるのだから○○はこうでないと

つけていくと団子屋の軒先に座った
看板娘に団子を注文する
どうやらいつもより多く注文したようだ
団子を一つ一つと頬張る


可愛い

次第に○○の顔がとろけていく
○○にとっては団子をいつもより多く食べるということが贅沢なのだろう
なんてこじんまりとした贅沢なのだ

○○の顔がさっきよりとろけてくる
見たことの無い○○の顔だ
とても幸せそうだ
なんだか私まで幸せになってくる
○○が幸せになることで私が幸せになるか、
今までの快楽とは質が違う

想像もしないカタルシスだった

しかし先程から気になることがある
隣にいる看板娘だ

私が知らない○○の表情を
私が知らない○○を
あの女は私より間近で見ているのだ

それだけがとても気がかりで不愉快だ





心がどうしようも無いほど締め付けられる




未だとろけ顔の○○の前に偶然を装い姿を現す
いずれ私の男になるのにその自覚が足りていないのだ
これは注意せねば

『女苑さん、ありがとうございます!』

!?
先手を取られた
いや先手は取っていたが払いのけられてしまった
どうやらまた私に感謝しているらしい

まぁそうだ
私のおかげで服を新調し慎ましいが贅沢もできたのだ

『女苑さん!俺女苑さんの為ならなんでも出来ます!』


再び○○に先手を取られた

それより、

いま○○はなんと言ったのだ

なんでも、なんでもと言ったのか?

「!!、、、な、なんでも?」

一応聞き返してみる

『はい!』

彼の快活な返事が帰ってくる

なにか、なにかないだろうか


そうだ
私と○○あまりお互いのことを知らない
特に○○は私のことをまるで知らない

○○に私のことを知って欲しい

いや
○○は私に依存するのだ
私の事を何から何まで知りたいだろう
ならば知るのは早い方がいい

それに○○の事をもっと知りたい

食事に誘おう
互いのことを知るには食事をするのが1番よい
そうしよう

「その、ごはんとか、、一緒に、」ボソ

言った言った!
言ってしまった!
○○はどう切り返すだろう

『え?、』

、、、、、


聞き取れていないようだ
どうせ栄養失調で鼓膜がろくに役割を果たしていないのだろう

「べ、別になんも言ってないわよ!」

不発に終わった自分の誘いを払い除ける
再びあんなセリフを吐くと思うと虫唾が走る

心臓がもたない、


「私はいいのよ、そういうの、私が○○にやってあげたいからやってるっていうか、」ボソボソ


嘘だ
○○を私に依存させるためにやっている

「そんなことより!」

私はまた○○に手を出すように言った

『え!?いやさすがにそれは、』

察した○○が私を静止しようとする

私は無理やり○○の手のに銭貨を握らせる

"これは必要な儀式なのだ○○が私に依存するための"

このままどんどん金を渡して彼の感覚をどん底まで落とそう


楽しみだ
彼が私無しで生きて行けなくなった所を想像すると

愉快だ
私に媚びへつらい 私から離れると深く落ち込む姿を想像すると

そんな○○は私を内蔵のようになくては困る存在に思うだろう


待ち遠しい、
そんな未来が、、、


ーー


5ヶ月程経ったあと




「○○〜 はいっ今日のお小遣いね」

今日も受け取ってしまった、、
いつも悪いといって断ろうとすると

「もう!○○は一文無しの貧乏で根暗なんだからこれくらい受け取りなさい!」

正直言い過ぎだと思うが彼女のおかげで俺の生活が助かっているのもまた事実だ


俺も思うところがあり前にどうしても悪いから受け取れないと言ったことがあった
その時の女苑さんは少し過呼吸になりボソボソ何かを呟く
そして俺の手を冷たい手で強く握った
顔を上げると泣きそうを通り越して絶望しきった顔だった
こういう時に顔面蒼白という言葉を使うのだろうか

とにかく俺はその女苑さんを見ているのが辛かった
いつも気丈な彼女が今にも死にそうな顔をしていたのは少しトラウマ気味だ

きっといつもの態度はセンチメンタルな彼女を隠すアクセサリーの1つなのだろう

そんな彼女を見て以来
心做しか俺に対する彼女の態度が軟化した気がする

「え?昨日よりお金が多い?○○も男だし、私がお金あげてるのに仕事辞めないから毎日働き詰めで大変でしょ? 少しは羽根伸ばして遊ばなきゃ体に毒よ」

俺の事を心配してくれているらしい
前から心配してくれてはいたが
今は以前より直接的になった


ーー



いつもあんな美人と話している
俺も男だ、溜まるものがある
夜中清掃の仕事がない日
静かな肌寒い夜
俺はおっさんにおしえてもらったそういう店に出向く

そういう店には初めて出向く
もちろん前居た世界でも行ったことはない
店の距離に比例して鼻息が荒くなっていく

見えた
夜中なのに異様に明るい店がある
きっと男の夢が詰まっている店だろう

ゴクリ…

「ね、ねぇ○○」

突如女苑さんの香水の匂いが濃く漂う

いつからそこに!?

『じ、女苑さん!?…』

「今、その店に入ろうとしてたのよね?、」

「なんで?嫌よ○○……」




「そんな店、、もう絶対近づかないで」

女苑さんは俺の手首を掴んだ
足に力が入っていないようで
俺がいなければ今にも倒れてしまいそうだ

『す、すみません』

「いや、ごめんなさい、お金はあなたの好きなように使いなさい……」


「でも、女を侍らせるような店にはいかないで…いい?」

「お、お金なら…ほら…いくらでもあげるから」

女苑さんは俺にいつもより多い銭貨を渡す

受け取らなければまたあの顔を拝むことになりそうだ

『す、すみません!』

『俺、いっつも女苑さんのおかげで助かってます!』

「えへ、えへへ、そう…ほんとに○○は私がいなきゃダメなんだから」

「ただ、念を押すようだけど女を侍らせるようなお店には行かないでね?いい?…」


念の為つけてきて良かった

夜に出歩くのだ嫌な予感はしていた、

私の○○、

私に依存していなければ生きていけない○○


でもまだ躾が行き届いていない、

私以外の女にうつつを抜かそうとは、

最近は団子屋の女ですら嫌悪するようになってきた、

躾なくては、、

いっその事一緒に暮らしてしまおうか

山奥の富豪を散財させ伽藍堂になった屋敷がある

○○と暮らすにはおあつらえ向きだ

○○も私とずっと一緒にいたいはずだ

私の庇護の下、私の財力の下、

彼を幸せにする

私の力で

私の唯一自信を持てる誰にも負けぬ強い武器で

一緒にいたい○○とずっと一緒にいたい


ずっとずっと



今目の前の○○に言ってしまいたい


これから一緒に暮らそうと

だがそんな2人の今後を決めるような大事なことを
こんな場所で打ち明けたくはない、

これは実質、



告白だ


ああ、
だめだ考えただけで頬が緩む

耳はもう真っ赤だろう


精一杯言葉を振り絞る

「あ、えと、今あったことは許してあげるから……
その…ご、 ご飯、でも食べにいかない?
ふ、2人っきりで一緒に、、
いいお店知ってるの……」ボソボソ

っ、、、
また聞き取れていない様子だ
前にもこんなことがあった
このままでは前の二の舞だ、

「ご飯よ!ご飯!!アンタ耳が聞こえないわけ!?」

言った!
今度こそ聞こえているはず!

『は、はい!俺も女苑さんに伝えたいことがあったので、』


やった!

、伝えたいこと?

○○も私に何か、

この言い淀んだ感じ、

、!


まさか○○も私と一緒に暮らしたいと思っていたのだろうか

私の事をずっと思い続けて、
私の事が恋しくて、
愛しくて、、
そうだ、
だから○○はこんな店に来てしまったのだ
どこに向けていいかわからない感情を、

私に遠慮して、
持て余すだけ持て余して、、

私の愛しい○○、、

彼の意図を理解した途端心から幸せになっていく

「…行ってくれるの?、ほんとよね?… えへへ、
私が全部払うんだから今度は遠慮なんてしなくていいのよ、」

「その…あ、ありがとうね……」ボソ


ーー


取り付けた!
○○が次の仕事のない夜に

まだ1ヶ月近く先だと言うのに
興奮が収まらない

彼にどう伝えよう

(ねぇ○○、一緒に暮らしましょう)

いや、これはすこし直接的すぎる

(○○、私のものになりなさい)

なかなかいいが強引すぎるか?

(○○、私の財力の下、一生を共にしましょう)

やはり直接的すぎるが
今のところではこれが一番のお気に入りだ

私が誰にも負けない長所

財力

それを全面に押し出した渾身のセリフだ
他とは安定感が違う


○○も私と一緒に暮らしたいんだっけ、

可愛いやつめ

○○に告白させるというのも一つの手だ

『俺と、一緒に暮らして欲しいです……』




『幸せにしてください、』



!!//////


可愛すぎる!

恥ずかしそうにする○○!

もう私にゾッコンではないか

いいだろう
一生幸せにしてやろう
私には人間から奪った富が、金が余るほどある


奪った金か、


いや、
余計なことを考えてしまった


妄想で膨らませた○○をこね回すことにしよう
いつもそうしてきた

『俺は女苑さんに幸せにされてばかりですね、』

あぁ、
○○はそれでいい

『女苑さん!幸せにしてください!俺女苑さんがいないとダメなんです!』

依存しきっている○○、

何度繰り返しても可愛い



人から奪った金で○○を幸せにできるのか?

そんな金を渡されて○○は幸せか?
そのことを知った○○はどんな感情を抱くだろう
人から奪った金を使わされていた○○は?
今度こそ本当に私の施しを受け取って貰えないかもしれない
そもそも私の金は全て奪った金だ
正当に私の手にあるものでは無い
私の唯一の長所は私のものでは無い
この煌びやかな指輪も色彩豊かな服もすべて私のものでは無い
私は何なのだ?惨めではないか?
私のものでは無いもので自分を着飾っている?
私の自信も人格も全て持ち合わせた富によるものだ
その全てが、私のものじゃない
じゃあ今まで私が○○にしてあげてたことは?
私のものじゃないのか?○○のあの表情は、、○○の私に向けられるあの感情は、○○のあの優しさは○○のあの眼差しは○○の態度は○○との関係は○○との思い出の数々は○○は○○の依存は○○の私の存在価値は

○○の私に対する全ては私の力では無い、


私自身、"自分"そのものは○○になにもしていない

これまでも、これからもそうだ


私の力で○○は永遠に幸せにできない


気が狂いそうだ

上手く呼吸ができない

私は○○に必要とされない

嫌だ、○○は私に依存している

私が幸せにしなくては、私が、私が、私が
私が○○を幸せにする
金ならいくらでもある
でもその幸せは私が作っているのでは無い、、
そんなはずは無い
○○は幸せなのだ私といることで幸せなのだ

私も幸せになりたい

○○に会いたい

○○、○○、○○、○○、○○

○○が近くに居なくては私が私でなくなってしまう


ーー



今日は女苑さんと食事がある日だ

とても悩んだ

緊張する、

女苑さんはどんな反応をするだろう、

とても心配だ、、

でも決めたんだ、

俺は男だもう心は決まっている

始まりはあの店の団子が味気なく感じてからだ
何個あの団子を食べても心が満たされない
いや、安いものは何を食べても心が満たされない
金を使わなければ全てが灰色に見える

初まりは不思議だったがすぐに理由がわかった

俺の中の幸福の閾値が以前に比べてグンと上がっているのだ

女苑さんと出会う前はあの団子も
なんてことの無い小魚も
ただの白米すらも
毎回これ以上ないと言うほど美味く感じていた

幸福というのは相対的なもので、いたずらに金を使い贅沢をすると価値観がグジュグジュに腐り心の方は逆に貧困になっていくのだ

俺は絶対に以前より豊かではない
かといって一度知ってしまった味を忘れることもできまい
それが人間だ

ずっとそんな状態が続いて顔に出ていたのだろう
おっさんがこんなことを言ってきた

「お前、もしかして元の世界に帰りたくなったのか?」

「今のお前なら帰れるには帰れるが、ここにいたことを全て忘れちまうんだぞ?」

どうやらおっさんは今まで俺が元の世界に帰れる方法を知っていたが黙っていたようだ
聞くとその方法は神社の巫女に頼むことで多額の金がいるらしい
なので当分払えないと思ったおっさんは俺が神社の金で苦しまないようあえて言わなかったらしい

最近になっても言わなかったのは俺が使わないと考えたらしい

「お前に金を貢いでいるあの美人さんのことも忘れちまうんだぞ、もし帰るならあの子に一言告げてからにしな、それが男だ」

おっさんの言う通りだ

元いた世界に帰れる代わりにここにいた全てを忘れるらしい

おっさんのことも

看板娘のことも

団子のことも

女苑さんのことも

ここにいた全てだ



そして何も魅力的に写らない俺の感覚も



悩んだ、

とてもとても

女苑さんはどんな反応をするだろう、

とても心配だ、、



ーー



今日は○○と食事のある日だ

この1ヶ月余り

ものすごく苦しかった

あの日から1週間は○○に会いに行けなかった

○○に合う度に泣き崩れそうになった

私は○○を幸せにできない

その事実が常に精神を蝕んでいた

だがもう決まった

○○は私の近くいれば良い

他人の金でも○○が幸せになればそれで良い

私のそばにいてくれさえ居れば良い

幸運にも○○は私のことが好きでいてくれる

この夜は2人にとって忘れられない日になる

とても楽しみだ

金で所々を装飾された駕籠に乗る

駕籠が担ぎ手によって持ち上がり店に向かう




〜〜





駕籠の簾越しに豪華な料亭が見えてきた

○○だ、

心待ちにしていた○○が私を待っている

彼に近づいていく

店の前で駕籠が下ろされる

早く○○と話したい、

担ぎ手によって駕籠の引戸が開けられる

○○が駕籠の前に立ち私にそっと手を伸ばす

私は○○の手に自分の手をそっと重ねる

○○は優しく繊細に、それでいて力強く私を駕籠から外へ誘う

しばらく彼と私は見つめあっていた

「それじゃあ入りましょうか」

今度は私が彼を店の中に誘う

扉が店の者により開けられる

穏やかな火の光が木造の天井や壁に当たり独特の雰囲気を醸す

そんな玄関を華やかで品のある花が生けられ彩っている

私と○○は質素な品のある女性に奥の大広間に通される

大広間には金の屏風とその手前に豪華絢爛という言葉が似合う立派な生け花、廊下に面する襖には水墨画の荘厳な山脈が描かれている。障子の空いている所から外を覗くと大きな岩が輪郭となったひょうたんのような形の池に朱色と白の柄の鯉が泳いでおり、
池のくびれた部分には唐紅の湾曲した橋がかかっている。
更にその橋の欄干の上に満月が浮かび幻想的な気持ちにさせる。

誰もいない黄金色の畳の敷かれたその空間はこれから2人にとって忘れられない時間になることを予感させる

触り心地の良い生地の桔梗色の座布団に腰を下ろす

慣れていないのか○○は落ち着かない様子だ

「緊張しないでいいのよ○○」

「今日はここを貸し切っているのだから2人だけの時間をゆっくり楽しみましょう」

私がそう囁くと○○は安心したように私を見つめる

「失礼します」

次々とご馳走が丁寧な所作で目の前に運ばれてくる

質素な器は料理そのものの華やかさを演出するために一つ一つ計算し尽くされているのだろう、置かれる順番やその配置も美しい

黒い光沢のある漆の器の中には三葉と色とりどりの麩が浮かぶ

ただただ質素なだけでなく器用に細工され繊細な味付けをされた根菜が笹の葉と共に小鉢に収まっている

川魚の天麩羅は胸びれと腹びれで自立しており静かな清流のような凹凸の器、その凹凸に沿うように描かれた銀の曲線、さらに端に添えられたまだ青い紅葉の葉は私を楽しませると共に情緒を感じさせる

それらの器が机の上を飾ってゆく

そんな中で目を惹くのは黒い平皿に乗せられた赤みの強い鹿肉と更に紅い馬肉だ、それぞれ赤い紅葉の葉と桜の花が枝ごと添えられている。本来同じ季節に見ることはない組み合わせだが幻想郷ならではのひと皿と言えるだろう。

仲居が一度瓶を逆さにしてから私たちの杯に酒を注ぐ
酒の中に金箔が入っているのだ、普段なら品がなく感じるだろうがこの豪勢な雰囲気の中ではそんな酒もよく馴染む

私は箸置きから箸を持ち上げる
親指、人差し指、中指と順番に箸の温度が伝わる

ふと○○の方を見る律儀に手を合わせている

微笑ましい
彼と暮らすと毎日こんな光景を見れるのだろうか

一つ、また一つと○○は口に料理を運んでいく

そんな彼をずっと見ている私

こんな大きな広間で
こんなご馳走に囲まれているのに私が見ているのは○○だけだ

そんな自分が恥ずかしい

○○が私の方を不思議そうに見ている

そういえば私は○○を見ているばかりで料理に手をつけていなかった

適当な小鉢から手を付け始める

美味しい、

これもだ、

久しぶりに食事をこんなに美味しいと思えたかもしれない

思えば私は食事の時、いつも1人だった

これはいい発見だ、これからは○○と一緒に食事をとろう


美味しい

煮物を噛んだ時に溢れる慎ましい甘みと確かな旨みが

お吸い物の純粋な旨みと三葉の香りが

顎に伝わる肉の弾力と舌触りが


楽しい

散りばめられた色彩豊かな花を見るのが

ひと皿ひと皿に込められた情緒を感じるのは

彼と微笑みあいながら話題を交換していくのは




〜〜





腹八分目辺りまで達しただろうか




あのことが気になり始める


ずっと葛藤していたあれだ、、


さっきまでは完全に忘れて○○との食事を楽しんでいたのに



一度気になり始めるととにかく気になる



もし、「一緒に暮らさないか?」という問いに対して否定的な○○を前にしたら、


想像したくない


彼が伝えたいと言っていた事もチラつく


こんなに幸せな空間なのに、、


それが崩れてしまうのが恐ろしい



そういえばさっきから口数が少なくなってきている気がする

2人ともだ、



完全な沈黙、、



沈黙が静寂へと移り変わり先程の空気がどんどん冷めていく



怖い、この静寂を打ち破るのは、



怖い、彼が私のことをどう思っているかが



怖い、彼の気持ちを知るのが



怖い、彼の気持ちが私とは違うものだと露呈するのが




恐ろしい、、







でも、







言わなくては、、

























「『 あの、」』

!?



同時だ


こんなに長い間沈黙して同時!



やはり心の奥底で私達は通じあっていた!



私の不安が音を立てて私から剥がれていく



すべて私の杞憂だった!



この場で○○を抱きしめてやりたい!



堪えよう、! もう少しの辛抱だ、、!






「いいよ…」





「先に話して…」






『……』



緊張している○○、


そうだ、緊張しろ


できるだけこの時間を長引かせてほしい



『その……』



まったく!じれったい!!!


真逆の感情が振り子のようにいったりきたりだ


心臓が破裂しそうだ


彼を目に焼き付けておこう


好き、、私の○○、、、、


来い!!


来い!!!!!






『元いた世界に帰ろうと思ってるんです』








今、










あ、











だめ





私が音も立てずに壊れていく




息が吸えない
彼を見れない
視界が端から暗くなっていく


泣き崩れてしまう

涙がでない、

体が上手く動いてくれない







「そう あなたの決めたことならしょうがないわね」








結果、女苑さんは俺が元いた世界へ帰るということをあっさり認めてくれた

言い出す前はまたあの今にも死にそうな顔をするのでは無いかと思ったが言い出してみると容易く許可してくれた


その後は特に特別な会話はしなかった


最近お金は足りているのか?


等の俺と女苑さんの間では普通の会話だ









そんな会話が続いた後に俺達は店の前で別れた

『じゃあ、さようなら』

「うん、またね」

女苑さんは腰をかがめて駕籠に乗る

、、


またね?

明日また会うという意味だろうか

俺が女苑さんに帰るといったのだ

これからは一日一日をかみ締めて生活せねば


思えばなんだかんだ楽しい生活だった


そんなことを考えながら長屋に歩を進める

女苑さんからお金をいくら貰っても引っ越さなかった我が家だ

あの長屋で床につくのもあと何日だろう

そんな風に思いを馳せる


ガラガラ


『ふ〜、』





真っ暗で分からないが甘い匂いがする


気のせいとかではなく確実に、濃い甘い匂いが


なにか、絶対にどこかで嗅いだことのある匂い、


『じょ、女苑さん……?』


暗闇の部屋の奥から衣擦れの音が微かにする


黒い影がこちらに歩み寄ってきている


女苑さんだ


いや、いつもの女苑さんじゃない


いつもの女苑さんは服をもっと上手く着ている


今の女苑さんは女苑さんの形が服を着せられて動いているだけのような、


表情から感情が読み取れない



なんだか不気味な感じだ



「ねぇ○○、これからは私と暮らしましょう?」


『、、いや、俺は元の世界に帰るって、』



!!!



俺の腹に衝撃が走る



口の中がめくり上がりそうになる




女苑さんの右肩が軽く俺の方を向いている



腕は俺の腹部に深くめり込んでいるだろう



女苑さんの細い腕からこんな力が、、


視界が白く点滅する


女苑さんの指にはめ込まれた緻密な彫刻を施された貴金属が
光を浴びると複雑にして返す煌びやかな宝石が
単純な暴力を底上げする凶器として使用される



胃酸と共に先程までの料理を床にぶちまける



うずくまり腹を抑え長屋の敷居に倒れ込む


「あ、あぁ……」



「ごめんなさい○○…でも○○が……」



「○○があんなこと言うから……」



「私…○○がいない世界で生きていけない……」



「○○はこれからずっと私のそばに居るの……」



「○○も私といれて嬉しい、よね……?」



『……ズズッ…ヒュ-…ヒュ-……』



「○○も嬉しいの?」



「えへへ、○○が喜んでると私も嬉しい!」



「もう私たちの新居は用意しているのよ、」



「もう、そんなに喜ぶなんて……可愛いんだから…」



「じ、じゃあ行こっか……」



ズル…ズルズル……









「好き!好きだよ○○!!」


「○○…○○……」


「ん?今なんて言ったの?」


「……こんなことしたくないのに……」


「ごめんね、でもあなたが…またお腹にアザが増えちゃうよ……」



○○は最近私に甘えるようになってきた


可愛い、私に依存している○○……


いや、私が……


それでもいい


私の力で彼を引き止めている訳でなくても


私のそばに彼がいてくれる






それだけで幸せだ












(テンポが悪くなって構成が無茶苦茶だった、でも料亭で海鮮を出さずに幻想郷の設定を守ったのは偉いと思ってる。後おっさんいい人すぎ)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年05月27日 22:24