(長い・少々グロ)
満月、迷いの竹林
白い月の光が光沢を帯びた青竹に反射し竹林全体を柔く照らす
その薄暗い空間を悠々と歩く影が1つ
その影の持ち主の背丈は160cm程、その内約10cmはピンと真上に釣られた獣のような野性的な耳
何かに気づいたその影は歩みを止める
影の足元には腹を抑えた裸の少年が横たわっている
少年の肌は空に浮かぶ満月のように白く、その顔は人形の様だ
だが少年の呼吸は死に抗うように荒く、細い手で抑えた腹からは肌に覆い被さるように鮮やかな紅い血がドクドクと溢れている
少し顔を近づけてからその影は少年を担ぎ、先程進んでいた方向とは違う方向に全力で走り出す
人ならとても見渡せぬ竹林の中を昼間の四足獣の如く早く
先程まで長い裾で隠れていた足元は毛深く鋭い爪が生えている
その速度と風貌はまるで狼のようであった
「ハァハァ……」
「こ、この子を!竹林で血を流して倒れてたんです!」
永琳「すごく危険な状態……すぐにオペを初めるわよ!」
イナバ「はい!」
永琳「手術室につれてきて!」
私は彼を手術台に乗せた後、手術室を離れ、廊下の椅子に腰掛ける
あの子は大丈夫だろうか、医療に通じていない私はただ心配することしかできない
あの子の匂いと紅い血がべったりとついた体で無力さを実感する
…………
永琳「ねぇ、起きなさいよ」
「んあ?」
どうやら眠っていたようだ
「ん〜〜!いい夢だった〜!いっぱいお肉を食べる夢!あれ、なんでこんな所に………あ!」
「あの子は!?」
永琳「手術は成功、今は意識も取り戻してるわ」
「良かった〜!!助かったのか〜!」
永琳「あなた彼に会っていきなさいよ」
「え、なんで私が、?」
永琳「彼、昨日のこと話したらあなたにすごく会いたがっていたわよ」
「ん〜、そうですか〜、なら会います」
昨日のあの子の顔が浮かぶ、めっっちゃ可愛い顔だった
まるでお人形さんみたいな……
それ故に彼に会うのは少し緊張するなぁ、
でもなかなか楽しみかも……
永琳「開けるわよ」
お待ちかねだ……
ザラァ
白いカーテンが永琳の手でクローシュの様に一気に開けられる
「あら、」
可愛いらしい男の子だ
太陽に照らされた彼はもう1つの太陽のような笑顔で私に微笑む
「お、お姉ちゃんが僕をここまで連れてきてくれたんですか?」
「え、えぇ、そうよ」
○○「ありがとうございました!僕○○っていう名前です!」
影狼「○、○○君って言うのね!私は影狼って名前よ!」
か、かわいい〜!!
絶対今の私の顔変だ!
永琳「あなたえらくこの子に気に入られてるじゃない」
永琳「影狼お姉ちゃん……」ボソ
ンーーーーッ !!
何故だ!この人はこうまでも意地悪なのか!
永琳「なぜ○○は竹林にいたの?人里から迷い込んだ訳でもなさそうよね?」
そういえばそうだ、○○を抱えて必死で走っていたから気づかなかったがあの場所は結構人里から離れている
なぜこの子はあんな場所に
○○「僕、おじいちゃんに言っちゃダメって言われてた山で遊んでて、そしたら急に竹がいっぱい生えてる所にいて、テレビとかに出てくるみたいな妖怪が僕のお腹を切ったの、」
○○は必死に自分に降りかかったことを説明する
永琳「それで逃げて足の裏が裂傷まみれだったのね…」
永琳(聞きなれない言葉……)
○○「でもそれをお姉さんが助けてくれたの!」
○○「ありがとう!影狼お姉ちゃん!」
ぐふっ!
まさかその言葉が本人から出るとは、、
重みが違う……………
永琳「あなた…外の世界から迷い込んだようね」
影狼「え!それって!」
永琳「そう、○○は外来人、」
永琳「先程の聞きなれない単語、山で遊んでいたと言っていたけどこの竹林から1番近い山でも、とても○○のような人間が移動できる距離じゃないわ」
○○は永琳さんの話をあまり理解していないようだ
それも無理は無い、いきなり別世界に飛ばされて更に年齢も年齢だ
永琳「さて、○○の傷が治ったらどうしようかしら……」
影狼「え、○○は元いた世界に帰れるんですか?」
永琳「博麗神社でなら元いた世界に返せるけど、傷が完全に塞がらないうちは無理よ」
○○「僕、おじいちゃんの所に帰れないの?」
永琳「今だけよ、数ヶ月したら帰れるわ」
○○「……うん、」
○○は先程とは違いしおれた様子だ
異世界でとても寂しいだろう、可哀想に……
そういえばうちに使ってない部屋がひとつあったな……
影狼「ね、ねぇ○○……よかったら少しの間お姉ちゃんと一緒に暮らさない?」
あ、
永琳「え、あなた………………」
永琳さんがドン引いている、まぁそうだろう……
一方○○は目をキラキラかせている
○○「いいの?、ありがとう!影狼お姉ちゃん!!」
グハァッ!!!
その後、私は…いや、私たちは私の家についた
竹林の中の丘にある平屋で人里の建物とは少しテイストが違う
こういう建物を洋風(?)というらしい
外観を見た○○は赤なんとか?という絵本にでてくるような家だと喜んでいた
そういえば永琳さんは私のことを犯罪者のような目で見ていたな、、引かれながら諸々の注意は永琳さんから聞いている
毎日3回腹に塗り薬を濡れとか
初めの1ヶ月は風呂に入れずに濡れたタオルで身体をふけとか
あまり激しい運動はさせず安静にしろとかだ
○○「影狼お姉ちゃん!」
グッ…
影狼「ど…どうしたの?」
○○「僕お姉ちゃんとここで暮らすのとっても楽しみ!」
グハッ!!!!!
影狼「そっか…私も楽しみ……!」
影狼「あなたの部屋はここにしましょうね」
○○「え〜、僕お姉ちゃんと一緒の部屋がよかったなぁ、」
グワァァァァァァ!!!!!!
瀕死寸前の私の口からは幸せ色の何かが漏れ出ていそうだ
影狼「で、でも!ほら!少し埃っぽいけど西向きで暖かくて夕日がとっても綺麗なのよ!」
一緒の部屋でも良いが私の身が持たない……
○○「うん、でも寂しくなったらお姉ちゃんの部屋にいってもいい?」
天使か!?天使なのかこの子は!?
影狼「も、もちろん!!いつでも来ていいのよ!」
ほんとうにいつでも!!
○○「ありがとう!!」
○○が私に微笑む…私の太陽だ……
そんな感じで○○に私の心が萌やされ続ける生活が始まった
影狼「私は今から人里に行ってきて買い物してくるわね」
○○「うん、」
寂しそうにうつむく○○
○○「あの、」
影狼「どうしたの?」
○○「僕お姉ちゃんがいないととっても寂しいから、早く帰ってきてね」
グフゥッ……
影狼「え、ええ!もちろんよ!すぐに帰ってくるわ!」
私は○○とずっと一緒にいたい思いをぐっと堪え買い物に出かける
相変わらず人里は変わらない
あー、ホームシックだ…○○にあいたいよぉ
私は食材を色々買い漁りながらそんなことを考える
影狼「ん、」
ふと目に入る店が
影狼「本屋、、」
私と○○が一緒に家にいる時することがあまりない
○○はいつか退屈してしまうかもしれない、
それに対する最適解はこれかも……
○○は退屈を凌げるし私は○○に読み聞かせることでずっと○○と一緒にいれる………
これだ
私は5冊ほど子供向けの本を購入した
影狼「へへ…楽しみ」
影狼「ただいま〜」
影狼「○○!?」
○○がドアを開けたすぐ前に倒れている
影狼「ねぇ、○○!大丈夫!?」
○○「ん!お姉ちゃん!」
○○が私の腰に抱きつく
影狼「ハッ…フゥ……○○…?//」
○○「お姉ちゃんが遅いから玄関で待ってたの」
○○「そしたら寝ちゃってたみたい…」
アッアッアッアッアッアッ!!!!
私がいない間私をずっと待っていた!
しかも待ち遠しくて玄関で!!!
尊すぎる!!
可愛いわー!○○可愛いわー!!
影狼「s、そう…お姉ちゃん嬉しい…!」
影狼「でも風邪ひいちゃうから今度からはお布団で待ってようね……」
○○「うん!」
○○「でも、その代わりお姉ちゃん早く帰ってきてくれる?」
ァァァァオアア!!!!!!
影狼「も、ももももちろんよ!」
影狼「私も早く○○に会いたかったもの!」
嘘偽りが微塵もない超ストレートな私の言葉だ
私は眠そうな○○をベットまで運ぶ
影狼「おやすみ」
○○「……」
もう寝てしまったようだ、窓から指す夕日が部屋を優しい赤色に染める、
影狼「はっ!?」
いつの間にか部屋が暗くなっている
ずっと○○の寝顔を見ていた……
可愛い、
食べちゃいたいくらいだ……
永琳さんはこういうのをキュートアグレッションと言っていたな……
○○の匂いが充満した部屋でそんなことを考える
身体が疼く……
○○と会ってから1ヶ月が経った……
ついにあの日だ……
今夜はまんまるな月が空に浮かぶ……
私が狼になってしまう日だ……
影狼「ねぇ、○○…今日の夜はあなたと一緒に眠れないわ」
○○「寂しくなってもお姉ちゃんと一緒にいられないの?」
○○は悲しげな瞳で私を見つめる
影狼「う、うん!今日だけね…大丈夫?」
○○「うん!大丈夫!今日は我慢する!」
聞き分けのよいとってもいい子だ……
影狼「じゃあ…夜ご飯はテーブルにあるから、寂しいでしょうけど……」
○○「うん…お姉さんの作るご飯美味しいから大丈夫…!」
言葉の節々から私に対する彼なりの気遣いが感じられる……
ほんと、なんていい子なんだ……
ガチャ…
……
日が落ちてきたようだ
本当はずっと一緒にいてあげたいけど……
○○の目には満月の私の姿は恐ろしく写るかもしれない……
それに狼になった私は○○に何をしてしまうだろ……
理性が残ってるとはいえ……
あぁ、こわいこわい……
空が青く暗くなってきた頃、
東側の空に真円の月が浮かび竹林に光をもたらす
月の光は竹林の中の一室に静かに流れ込む
白い光を切り抜いたような影が1つ
その影は少年の名前を口にしながら何かにひどく怯えるように自分の体を抱え込み小さくうずくまっていた
○○「お姉ちゃんおはよー!」
影狼「お、おはよう!」
○○「昨日はとっても寂しかったけど…1人でがんばれたよ!」
影狼「えらいわね!よく頑張れたわ!」
私もとても寂しかった…何度も○○が夢に出てきた……
影狼「そういえばお腹の傷は塞がってきた?」
○○「うん!もう大丈夫!」
○○は元気に服をたくしあげて私に白いお腹を見せる……
あぁ……
影狼「そう!じゃあ今日からお風呂に入れるわね!」
永琳さんから1ヶ月は風呂に入れるなと言われていた
○○「うん!」
○○「でもお姉ちゃんに体ふいてもらわなくなるのはちょっとかなしい、」
アァァァ……
影狼「じゃあお風呂では私が身体を洗ってあげるわよ!」
言ってしまった!!
あの時と同じ過ちを……
永琳さんの私に対する態度は正しかったのかもしれない…
私は完全に犯罪者だ……
だが私の葛藤とは裏腹に○○は太陽のように微笑む
○○「ほんとう!?ありがとう!」
影狼「えぇ、!」
あぁ、罪悪感がやばい……
可愛いなぁ
私は脱衣所で服を脱いでいく○○を見ている
白くてツヤツヤしている人形のような○○の肌……
華奢な身体にまだ生々しい傷跡が残っている……
○○の顔は少し紅潮している…
ずっと○○を視ていた……
私も服を脱ぎ始める
○○「……」
上着を脱いだ私は○○が静かなことに気づく
私の裸を見ないようにしているらしい
こんなに可愛いのにすごく……
完全に裸になった私は○○の頭をそっと撫でる
影狼「照れなくていいのよ、さぁ入りましょう」
浴場の扉を開ける
家の浴場は白と緑とターコイズブルーのモザイクタイルで浴槽は丸いつやつやとした白い陶器で出来ている
まだ昼間なので陽の光が差し込む広めのそこは我が家の自慢だ
○○「すごい!」
○○がキラキラと目を輝かせている
影狼「すごいでしょ〜!」
さっき沸かした浴槽の湯加減を手で確認する
影狼「よし!いい感じ!」
ザバァ…
木の湯桶で○○に頭からゆっくりお湯をかける
○○「ぷはっ!」
影狼「熱くない?」
○○「うん!」
影狼「じゃあ入りましょうね」
○○を少し介助しながら湯船に入れる
ザブゥ……
温よかな湯気が空気をマイルドにする
○○「ふぅ…」
暖かいタイルに膝をつき肘を湯船の縁にかける
影狼「どう?久しぶりのお風呂は?」
○○「あったかくて気持ちい……」
お湯に浸かりとろけたような声で答える
影狼「そっか!良かったねぇ…」
影狼「じゃあ身体を洗おっか」
影狼「おいで!」
○○「うん!」
シャコシャコシャコ……
○○は木の椅子に座り私に頭を洗われる
影狼「ねぇ○○…」
○○「どうしたの?」
影狼「○○は、私の事怖くないの?」
○○「なんで?」
影狼「だって私、耳とかしっぽとか生えてるでしょ………」
影狼「あなた達の世界ではいないんでしょう?」
影狼「だから怖いかなって……」
○○「そんなことないよ!お姉ちゃんは優しいしどんな見た目でもお姉ちゃんだよ…」
○○「それにお姉ちゃんの耳かっこよくて好きだよ」
影狼「そっか……ありがとう!」
影狼「うへへ…私の耳は○○の声をよく聞くために大きいんだよ」
影狼「そして…このしっぽは…」
影狼「こうするためだ!」
○○「ひいっ!!」
私は石鹸のついたしっぽで○○の身体を擦る
○○「あっ!くっ、くすぐったいよ!!」
影狼「○○はくすぐったがり屋なのね〜!」
私は構わずしっぽをこすり付け○○は身をくねらせる
○○「ハァハァ……」
○○「いじわる……」
ムスッとした顔で私をにらむ
スゥゥゥゥ……
影狼「…でも綺麗になったでしょ」
○○「む〜……うん…」
ザバァ……
○○についた泡を流し、もう一度湯船に浸からせてからお風呂を出た
影狼「さっぱりした?」
○○「うん!さっぱり!」
影狼「よかったねぇ〜!」
フワフワのタオルで○○を包み込む
○○の匂いが消えて少し寂しい……
○○「影狼お姉ちゃん!今日もお話きかせて!」
影狼「うん!おいで!」
いつも通り○○に読み聞かせをする
いつの間にか○○は私の膝に力なく体を預けて眠っている
影狼「よしよし♫」
可愛い
○○の匂いと石鹸の匂いが混ざった匂いがする
いい匂い……
やわらかい
可愛いなぁ
私が産んだことにしたい
なんとか私のお腹に入ってくれないかなぁ
ずっとここにいてくれないかなぁ……
はぁ……
昨夜、迷いの竹林
イナバ「今日はお薬いっぱい売れたな〜!お師匠様に褒められるぅ〜!」
影狼「あ、鈴仙さん!」
イナバ「はっ!?影狼さん!?」
彼女は慌てて上を向く
イナバ「ふぅ、今日は満月じゃないんでしたね……」
影狼「……」
イナバ「あ、!ごめんなさい!」
影狼「べ、別に気にしてないですよ…!」
影狼「それより○○の件で……」
イナバ「あー!○○君の!お師匠がそろそろ傷が治る頃だから帰れるって言ってましたよ!」
影狼「……そうですか」
イナバ「?、何かほかの相談ですか?」
影狼「いや、聞きたかったのはそれだけです……」
現在、夕暮れ時の影狼の家のソファ
西日がかかった○○の顔を見つめる
○○の顔が鮮明に見れない
あぁ……
○○の顔に私の涙が落ちてしまう
○○「んぅ……影狼お姉ちゃん……」
○○「……泣いてるの?」
影狼「うんうん!違うの!すこし埃が……」
私は必死で涙をぬぐい目を擦る振りをする
○○「そっか……」
○○「僕ずっとお姉ちゃんと一緒にいたいなぁ……」
影狼「、どうしたの?急に!」
○○「あのね…僕、夢見たんだ……」
○○「おじいちゃんの家にいて、お姉ちゃんのことを探すんだけど、僕がお姉ちゃんのことを呼んでもどこにもいないの…」
○○「それでお姉ちゃんの声がして、お庭にいたお姉ちゃんがバイバイって言う夢…」
○○は私のお腹に抱きつく
泣いてるようだ
影狼「私はどこにも行かないよ……」
私は覆い被さるように背中を丸め○○の背中を優しく撫でる
窓から夕日が見える、
私たちを赤く染め上げる
○○「ほんとに行かなきゃだめなの?」
影狼「そうよ、今日は永琳さんが○○にお話があるってさ…」
○○「僕、帰らなきゃいけないのかな……」
影狼「それは分からないわよ、それにその話と決まったわけじゃないわ!」
影狼「……ね?」
○○「……うん、」
○○は竹林の中をうつむきながら歩いている
私は○○に声をかける気にはなれなかった
永琳「○○、あなたは元いた世界に帰れるわ」
影狼「!……」
今……
○○「…え、」
……覚悟はしていたが…………
永琳「…? 嫌なの?」
○○「だって僕、お姉ちゃんと一緒に………」
永琳「!」
永琳さんは私を恐れるような目で見る
影狼「……」
永琳「あなたの傷の治りは良好でもう帰れるのよ?」
永琳「それにこの世界はあなたの暮らすべき世界ではないわ」
……………悲しいがその通りだ
○○「でも……僕…」
永琳さんは申し訳なさそうに○○を見つめている
○○「僕……お姉ちゃんとずっと一緒にいたいよ……!」
…!
………………
………………………………
影狼「○○…、」
影狼「永琳さんの言う通りよ……」
影狼「○○は元いた世界で幸せに暮らすの……」
影狼「それがあなたの本当の幸せなのよ」
○○「…………影狼お姉ちゃん……」
影狼「悲しいと思うけどそれが真実なの……」
○○「どこにも行かないって……、」
……
影狼「○○……!」
影狼「ごめん!ごめんね…!!!」
私は○○を思いっきり抱きしめて泣いた
○○「お姉ちゃん…!お姉ちゃん!!」
○○も私に抱きつき泣く
永琳「…………………、」
私たちは家に帰った
帰りの道は来た時より空気が重かった
あの後2人で沢山泣いた後
残りの時間を2人で大切に過ごそうという話になった
永琳さんは1ヶ月後に元いた世界に返すと言っていた
それまでの間…………
身体が疼く……
こんな日に限って……
今日は○○と会ってから2ヶ月が経った日だ……
今夜は○○と一緒にいてあげられない……
少しでも長く一緒にいたいのに……
影狼「○○……今夜は…………」
○○「…………うん……」
影狼「ごめんね……」
○○「大丈夫…………」
ガチャ
○○……
ごめんなさい…………
私がどんなに拒もうと……
どんなに抗おうと……
私の逃れられない定め…………
西の空に太陽が沈み、月が追いかけるように登る
だが今夜も月が太陽に出会うことはなく月は孤独に空に浮かぶ
悲しいほど大きな、どうしようもなく丸い月だ
そんな月の光に当てられどこまでが自分でどこまでが影なのか分からないが、たしかにそこにある影がひとつ
その影は少年を拾ってから丸い月の日は狭い部屋で蹲るようになった
境界が曖昧な何かが恐ろしくてたまらないのだろう
まるで自分の中にそれがいるように自分を抑えて怯えている
「ねぇ…お姉ちゃん……やっぱり寂しいよ……」
怯える影のいる一室がノックされる
外にはあの白く人形のような顔立ちの少年がいるようだ
影の呼吸がどんどん荒くなっていく
床には透明な液体がこぼれ落ちる
影はノックされた扉の方向にゆっくりと歩き出す
影の大きな手がドアノブにかかる
暫く動かなくなり
「ごめんなさい……」
ドア1枚を隔てたその向こうで少年が立ち退く
影は少ししてから床に倒れ込む
○○「…おはよう……」
影狼「……おはよう……!」
○○「昨日はごめんなさい……」
○○「どうしても寂しくなっちゃって……」
影狼「だ、大丈夫よ!」
影狼「あ、」
○○が私に抱きつく…
もう数え切れない、
このハグはその中でも1番悲しいものだろう……
影狼「よしよし……」
まだ○○がいなくなるまで時間がある
影狼「今日はお出かけしよっか」
○○「おでかけ?」
影狼「うん!」
ずっと○○の大事をとって家にいてもらっていたが傷はもう治った
いい思い出にしよう
○○「すごい!」
影狼「そうなの?」
私にとっては見慣れた人里だが、○○は目を輝かせている
○○「江戸時代みたい……」
影狼「○○のいた場所?」
○○「僕がいたより昔の時代…」
影狼「そっか……こことは全然ちがうんだね!」
○○「うん……!」
影狼「そっか……」
○○「ここに海はないの?」
影狼「海?」
○○「大きい塩水の池……みたいな」
影狼「なにそれ!?」
○○「そういうのがあるの……」
影狼「へ〜魚とかは生きていられるの??」
○○「うん!いっぱいいるよ!」
○○「この世界は全部綺麗なんだね」
影狼「そう!なのかな…?」
○○がなんてことない紫色の花を見る
○○「でもお姉ちゃんが1番綺麗かな!」
影狼「もう!いつからそんな言葉覚えたのよ!」
○○「えへへ!」
その後私達はほぼ毎日幻想郷を巡った
とは言ってもあまり行けるところはない
神社やひまわり畑、そのくらいだ
○○は紅葉で赤く染った山が気に入ったらしい
○○「お姉ちゃんの家みたいで綺麗!」
○○にとってはここでの思い出はあの夕日らしい
影狼「そんなに私の家がすき?」
○○「うん!」
影狼「じゃあ今日はそろそろ帰ろっか!」
○○「うん!」
ガチャ
影狼「○○はインドア派なのね」
○○「インドア派?」
影狼「あんまり外に出たくないってことよ…たしか…」
○○「ちがうよ!僕ずっとお姉ちゃんの家にいたいの」
○○「お姉ちゃんとずっといたいよ……」
……
影狼「よしよし、」
影狼「私も一緒にいたい……」
影狼「でもあなたと私は違うのよ……」
息ができない……
必死で心を殺す……
○○「お姉ちゃん……」
○○「ごめんね……」
?
○○「お姉ちゃんを困らせてるってわかってるのに……」
影狼「いいの、私も同じ気持ちだもの……」
今度は私から抱きしめる
ずっと一緒にいて欲しい
私から離れないで欲しい
ずっと一緒にいたい
○○から離れたくない
でもそんなのは健全ではない
元の世界の○○の家族も心配しているだろう
けど………………
今日も変わらず夕日が2人を赤く染める
何度も夕日が沈んで行った
…………
ついに明日だ……
○○と過ごす最後の日……
○○と食べる最後の朝食だ……
あまり進まない……
最後なのに……
最後だから…………
影狼「ねぇ○○…!」
影狼「今日は何しよっか?」
○○「……」
影狼「……」
○○「お姉ちゃんといたい……」
影狼「そっか……」
いつものソファに腰を下ろす
何も言わずに○○がソファに横になり頭を私の膝に乗せる
私の膝に○○の温もりが伝わる
○○の肩を撫でる
手に○○の華奢な体の曲線が伝わる
○○「影狼お姉ちゃん……」
○○「今日は夜に会えない日だよね…」
わかってたんだ…
言わないようにしていたのに……
いや、私が再認識するのが怖かったんだ……
影狼「うん……」
○○「僕知ってるんだ……」
影狼「え?」
○○「お姉ちゃんが満月にどうなるか……」
○○「初めから知ってたの」
影狼「……え、」
○○「お姉ちゃん狼になっちゃうんだよね……」
なんで……
ずっと秘密にしてたのに…………
怖がられないように……
離れられないように……
○○「あの日…僕のこと永琳さんのとこに連れていってくれたでしょ?」
○○「僕あの時もうだめだと思ったんだ……」
○○「妖怪にお腹を切られて必死で走ったけどもう歩けなくて、」
○○「すっごく苦しくなって倒れてたらお姉ちゃんが来てくれたんだ……」
○○「初めは食べられちゃうと思ったけど……」
○○「僕を持って走ってくれてたよね」
○○「あの時のお姉ちゃん…早くてすっごくかっこよかった…」
影狼「あぁ……」
○○「それで起きたら永琳さんが昨日のことを教えてくれて」
○○「お姉ちゃんに会いたいって言ったんだ」
○○「初めて会った時、可愛いお姉さんだったから驚いたんだ……」
○○「それでね……」
○○「お姉ちゃんはお姉ちゃんで見た目なんて関係ないって思ったんだ……」
○○「そう……」
○○「だからね……」
○○「今日は………一緒にいて欲しいなぁ…………」
影狼「○○……」
顔は見えないが肩が震えている
○○「お願い……」
影狼「私…あの時……」
……………………
影狼「…私じゃなくなるの……」
○○「………」
影狼「でも、限界まで一緒にいる!」
影狼「それで……」
影狼「ごめんね……」
○○「お姉ちゃん……」
○○「それまでずっと一緒にいて……」
影狼「もちろん……ずっと一緒にいてあげる……」
ずっと一緒にいてあげたい……
私の命が消えるまでずっと一緒に
○○がいなくなって……
○○がいなくなった家を想像すると泣き崩れそうになる
きっと帰ってくる度に後悔するだろう……
今この温もりが消えたら……
本棚のあの本を見たら……
この家で1人で食事をしていたら……
私は耐えられるのか……
また1人になる……
○○「……おやすみ……」
影狼「○○……」
これまでに無いほど長く抱きしめる
○○「お姉ちゃん…お姉ちゃん………」
○○の匂いがする……
○○の温かさ……
影狼「おやすみなさい……○○…………」
ガチャ
これで最後なのか……
○○との最後の夜……
こんな薄暗い部屋で1人……
これからもずっと…………
この薄暗い部屋でずっと1人…………
身体が疼く…………
嫌だ…………
まだ○○の温かさが身体に残っている……
○○に会いたい……!
この家の中にいる……
最後にもう一度だけ!
…………………………
もう一度!
ガチャ
○○……
○○…………
○○……………………………………
ガチャ
○○「お姉ちゃん……?」
影狼「○○……好きだよぉ…………」
○○………………!
○○……………………!
○○の匂い…………!
○○の身体……………………!
綺麗な…………!
白いお腹………………!
○○「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!!!」
私も大好き!!!
ずっと一緒にいて欲しい!!!
○○の温度…………
やわらかい…………!
大好きな○○…………!
いい匂いの○○……!!
肌が白くて…………!
濃い○○の匂いがする!!!
○○「…お姉ちゃん…………」
可愛い…………
涙を流している………………
やわらかいぃ……
やわらかい……
○○……
○○の温もり……
○○…………!!!
○○「…………」
大好き………!
やわらかい!
やわらかい
大好き
やわらかい
やわらかい
ずっと一緒にいよう……
私の○○………………
愛してるからぁ……
今宵は2人が出会ったのと同じ月だ
今日も夕日の光が少年の部屋に流れ込む
少年の人形のような白い顔にも優しく光がかかる
今日は影も夕日に照らされる
2人はどこまでも紅く染まっている……
最終更新:2023年11月07日 03:54