「ふーん……なら、こうかしら」
フランドールは目の前にあるチェスの駒を掴み、下げた。
攻めに入っていたクイーンを下げ、キングの囮にする。
キングにチェックメイトをかけてはいるものの、今有利なのはフラン。
その状況は近くの駒で何とかなる。
なのに、何故かフランはクイーンを下げてキングの囮にしたのだ。
何故かとフランに○○は尋ねる。
「え、だって」
少し躊躇いがちに。
「あなた(キング)を殺そうとしてるんでしょ?この駒。
なら私(クイーン)の手でやらなかったら、とてもじゃないけどすっきりしない」
どうやらフランはこの駒を、二人に見立てていたらしい。
「ね?」
邪気たっぷり、他意0%の笑顔で笑ってみせる。
でもそれなら、自分(○○)が使っている駒はなんなんだ?と、聞いてみた。
「そうねぇ……」
「○○の邪な欲望が具現化された軍勢かしら。
そうね、キングはさしずめp……」
まて。
言わせまいと○○がフランにそっと口付ける。
突然の行動にフランが顔を真っ赤に染めると、チェスの碁盤が○○の側面をグレイズした。
「あらぁ~?何だか楽しそうな事してるわねぇ」
紅魔館近くの湖で演奏していた
ルナサ達が、妖精達におじぎをする。
妖精達が拍手やら、喝采やらを立てる中顔を上げてある事に気が付く。
「あれ……。
メルラン?」
リリカは妖精にもまれており、動けなくなっている。
メルランもまた、妖精の誰かにふらふらと連れてかれたりしたのだろうか、と思った。
「○○ぅ~♪久しぶりー」
がばっとダイビングする様に、彼に飛びつくメルラン。
見慣れない客と、予想だにしない行動にフランも呆然としていた。
「見かけない子ね。あなたはだぁれ~?」
抱きついたまま、楽しげな顔でフランを見る。
「え……その……」
人見知りをしているのではなく、別の感情が口をどもらせる。
(いきなり現れてなんなのよ、この人。私の○○にベタベタと)
幸せな気分を害されたとばかり、フランはメルランを睨み付けた。
「……ふぅん」
顔色一つ変えずに、メルランは○○から離れると
「そう言う事だったのねー。
……あなたが、○○を……」
呟くように言う。
「ね、ね。お近付きの印に一曲演奏させてもらえない?」
今度は笑顔で、とても嬉しそうに言った。
(あれ……?)
あぁ、もしかしてこういうやつなのか、とフランは思った。
軽く嫉妬を覚えていた自分が恥ずかしくなり、俯きがちに。
「う、うん……いいよ?」
突然の訪問者の演奏を許した。
「あ、れ……」
酷く背中が痛む。
何処で眠っていたのだろう。
もしかして、ベッドから落ちたのだろうか。
瞼を閉じたまま手探りで床に触れようとする。
ヌチャッ
「わっ」
触れた事がない様な感覚を覚え、慌ててそれを見ると肌色のそれに赤い何か。
それがあちこちにちらばっている。
それに加え――
ひび割れた天井。
崩れた壁と、瓦礫。
そして壊れたドア。
まるで廃墟の様な、しかし見覚えのある自分の部屋。
ふと先程の事を思い出す。
「そういえば○○は……」
自分の大好きな人を探そうとする。
何も言わずに、今日は帰ったのだろうか。
(……そんな事をする人じゃ、ない筈なのに)
あの女の顔を思い出す。
そういえばあいつの姿も無い。
もしかして、あいつが原因だろうか。
ヌルリ
「ああ、もう、なんなのよこれ。汚いっ」
また踏んでしまった、その何かに文句を言う。
「でも、何だか美味しそうな匂い……」
そんな感覚がよぎる。
「取り合えず、次に会ったら壊しちゃおうかな」
そう言いながら、まだ館の何処かに居るかもしれない○○を探し始めた。
「あ、姉さんお帰り」
「……遅い」
「あはは、ごめんねぇ~。演奏の前に、ちょっと知ってる顔を見かけたから。
迎えに行ってたのよ」
「迎えって……誰も居ないじゃない」
「それになんで血塗れなの。誰が洗濯すると思って……」
「はいはい~。うふふ、でもスッゴク気分がいいから許すわ~」
「謝るのは貴方の方」
「そーだ、そーだ!」
「聞こえませーん」
そんなやり取りをしながら、三人は一緒の方向へと飛んで行った。
ハッピーでしょう?○○。
私が軽く演奏しただけで、あの子が貴方の両足を壊しちゃうとは思わなかったけど。
骨だけ砕くなんて、結構器用よね。
……それだけ貴方の事が好きなのね、妬けちゃうわ。
え……?助けて??
助けてって、何からかしら
……あぁ、私?
そうね、食べちゃおうかしら。
別の意味で
やだ、死なせたりしないわよー
だって私を恨んで未練を残せば残すほど
成仏できずに、大好きな私とずっと一緒に居られるんだから
……ね。ハッピーでしょう?
やだ、勿論恨めしいだけじゃ不幸じゃない。
だから私があなたの為に
演奏スルノヨ アナタデ
まずはナニをしようかしら~♪
「ねぇフラン」
「あ、お姉様」
「咲夜見なかった?呼んでも全然顔を見せなくて」
「あれ、どっかで見たかも……それより○○知らない?
多分まだ館に居るんじゃないかなぁって……」
「それは見てないわ……うー」
「「ほんと、何処に行っちゃったんだろう……」」
最終更新:2010年08月27日 14:19