僕の名前は〇〇
外来人だということで、外の本には詳しいからと、司書をやっていると言う小悪魔さんの推薦で
大図書館の司書見習いを始めたのが3ヶ月前
もともと、本の仕分けなどに関しては、黄色い看板の本屋で長年アルバイトをしていたため、自信もある
それに、湖のほとりで妖怪に襲われていたところを助けてもらったのだから、断れるはずも無い
外の世界に帰りたいとは思っていたけれど、異世界に迷い込んだ僕を温かく迎えてくれた館のみなさんに
言い出すこともできず、仕事を続けていた
まあ、直接の上司である小悪魔さんには何度も相談して、すべて黙殺されてるのだから笑い話にもならないけど

そうして、はじめのうちは仲のいい先輩後輩のような関係だった小悪魔さんは、一ヶ月ほど経ったころから
今までずっと僕に付きっ切りで仕事をしていた

「あなたはまだまだ未熟ですし、ここには危険な魔道書も多いですから、誰かがいっしょにいなきゃいけないんです」

と彼女は言っていたけれど、危険物は僕の普段近づかないような棚に全てまとめられているらしいし
僕の仕事は外の本のジャンル分け程度だから、外の本にうとい小悪魔さんが一緒にいる意味はあまり無いような気がしている
もちろん、可愛い女の子(年齢不詳)と一緒に仕事をできるのは嬉しいし、断る理由なんてないんだけどね


でも、僕には他の仕事もある
正直今まで気にしていないようなことでも、外の世界の知識がこれほど役に立つものだとは思わなかった

外の世界のカリスマ溢れる吸血鬼のあり方のお話

「心せよ 亡霊を装いて戯れなば 汝 亡霊となるべし……セリフはこれでいいのかしら?」
「いいです まるで船に突貫をかける時のようですよ」

外の世界の瀟洒なメイドとしてのあり方のお話

「サンタ・マリアの名に誓い 全ての不義に鉄槌を……で、サンタマリアって何なの?」
「さあ? 僕もよくは知りません」

時にはお嬢様の妹さんに、退屈しのぎにと外の世界のおとぎ話をしてあげたり

「むかしむかし、シンデレラという貧しい少女が……(中略)……幸せに、週五日その国で暮らしましたとさ」
「おもしろいんだけど、なんか違和感あるなぁ……」

もちろん、これらの話は僕一人で行うので、小悪魔さんはいない
しかし、こういった仕事を終えて図書館に戻ると、決まって小悪魔さんが詰め寄ってくる
何をしていたのか、どんな話をしたのか、なぜこんな時間になったのか etcetc……
図書館の規則らしいのだけれど、いつも僕にニコニコ笑ってくれる小悪魔さんは、この時だけはとても不機嫌そうに聞いてきた

ああ、そうだ
昨日もこの事情聴取が始まったときに、こんな話をしたんだ
「どうして、この話になると怒るんですか?」
「別に怒ってません」
「なにか、言葉にトゲがあると言うか」
「別に無いです」
そんな空気が痛くて、たしかこんな事を言ったんだと思う
「はぁ……小悪魔さんって、絶対に子供のときはとっても可愛い娘だったと思うんですけどねぇ」



で、今日

「どうしてこんなことに?」
「なにがー?」

僕の腕に、豊満な胸が当たる
普段ならその感触だけでご飯が食べられるけれど、今はとてもそんな気になれない

「ねーねー〇〇、いっしょにあそぼーよー」

僕にくっついてる女の子は、まぎれもなく小悪魔さん
昨日と違うところはたった一つ

彼女は、ほとんどの記憶を失い 幼児退行していた




うん 言いたいことはわかるよ
ぜんぜん病んでなくてごめんね
後半まで待ってね
最終更新:2010年08月27日 15:06