魔理沙/1スレ/212-213 218-220
もう季節は冬だというのに、胸は苦しいほどに熱い。
踏みしめる魔法の森の落ち葉の音が、自分がすすり泣く声のような気がして落ち着かない。
俺は今、今までお世話になった幻想郷の人達に別れの挨拶回りをしているところだ。
最初に挨拶したのは泊めてもらっていた紅魔館、その次に博麗神社、そして今、最後に魔法の森を通って
魔理沙の家へと向かっている。
今までの行程は散々で、お嬢様は帰りたいと言った瞬間に烈火の如く怒り頭を冷やしてこいと追い出され、霊夢には「あぁそう、準備しとくわ」と、人形のような無表情でそう言われ、ここでもまた追い出された。
もうその時は夕方だったので、仕方なく博麗神社の近くで野宿し、朝方には出発して今現在魔法の森に至る。
あまりにも散々な状況に気持ちが折れそうだが、怒ってくれるほど自分を大事に思ってくれると思うと、先ほどから堪えている涙が溢れでそうだった。
紅魔館には流血覚悟でもう一度頭下げた方が良さそうだ、と考えているうちに森は開け、眩しい朝の斜光と共に魔理沙の家が見えた。
ここに来るのも今日が最後か、と思うと胸の苦しさがいっそうひどくなったが奥歯を噛みしめて堪え、魔理沙の家の戸を叩いた。
「おーい、魔理沙、いるか?」
家に居ること祈って呼んでみる。我ながら、声が震えているのが情けなかった。
「あぁ○○か、待ってろすぐ出る」
魔理沙の元気な声が中から返って来、あぁいたかと思わず安堵する。
「おぅ○○、何の用だ?」
戸を蹴破らんばかりに豪快に出てきたいつも通りな魔理沙に思わず気が緩みそうになるも、気を引き締め直し口を開いた。
「俺な、もうそろそろ帰ろうと思うんだ」
一語一句噛みしめるように俺がそういうと魔理沙は意外な反応を返した。
「あぁ知ってるぜそんなこととりあえず立ち話もあれだし中に入れよ」
あっけらかんにそう言った魔理沙に一瞬拍子抜けになりそうになるも、とりあえず言われた通りに中へと導かれた。
「うわ相変わらず散らかってるな、おい。」
「うるさいな、物が勝手に溜まってくんだ。」
お前が盗んで来たんだろ、と思わず言いたくなるも今更なのでぐっとこらえた。
「おぃ○○、こっち向け。」
「ん?」
魔理沙の呼びかけに答え、ちょうど今戸を閉めた彼女の方へ向く。
途端、言い表しようのない強い衝撃に襲われ、何があったかわからぬまま意識が反転した。
○○は元々幻想郷の人間ではない。
幻想郷に来る前は日本の現代社会の若き企業戦士だった。
○○の両親は○○が幼い頃離婚し、○○は母と二人暮らしだった。
○○の父親は生活費は毎月送ってくれていたものの、親子二人が不自由なく暮らしていくには不十分で、○○に貧乏な思いをさせたくなった母親は働きに出ていた。
そのせいで、○○が小学校から帰るといつも一人で、家で寂しい思いをしていた。
中学校に上がると途端、寂しさを紛らわすためなのか分からないが、急に○○はグレはじめた。
その手の先輩に誘われ暴走族に入り、夜な夜な街を走り抜けた。
○○の母はそのことを知っていたが、何も言わなかった。○○がそれで寂しさを紛らわせてくれるのならそれでいいと思ったのだ。
ただ、人様を傷つけるなとだけは○○に言っていた。
当時の○○はそんな母をうるさく思っていたが、内面まで悪くなっていなかったので無意識に母の言うことを守り、夜の街を騒がすだけだった。
だがある日、○○が入る暴走族は暴力団に目を付けられた。
○○達は、暴力団に事務所に連れ込まれ、しきりにクスリを勧められた。
○○達はそれを拒否し続けたたが、そんな○○達の態度に業を煮やした暴力団組員が無理やりクスリを打ち込んだ。
混雑する意識の中で喘ぐ○○達を救ったのは〇○の母だった。
○○の母は仕事で疲れた体に鞭を打ち、毎晩○○達暴走族の後を仕事用の車で隠れて追いながら、○○を見守っていたのだ。
○○達をいつも追っている間にいつの間にか培った尾行術で、○○達を連れ込んだ暴力団の車の後を気付かれずに追跡し事務所をつきとめ、晴れて無事に御用となった。
その後暴走族は解散、○○は更生し一転勉学に励み無事高校に進学した。
そしてもうそろそろ大学への進学を考え始めた高校二年の冬、母が急病で倒れ病院に運ばれた。
今までの過労が体を蝕んでいたのだ。
急いで病院に駆け付けた○○の目に、ベットの上で萎れた母親の姿が飛び込んだ。
あれだけ気丈だった母の苦しそうな顔を見、驚愕の思いと同時に自分がしっかりしなければと自立心が芽生えた。
○○は進学を断念、高校卒業後すぐに中規模の薬品メーカーに営業として就職、最初は空回りしながらも必死に母の治療費を稼ぐために働いた。
就職して一年がたち、仕事に対しての熱意に、徐々に成績が追いついてきた頃、大手健康食品販売メーカーから自社に対して契約の話が転がり込んできた。
○○はその契約の話の交渉役に名乗りをあげ、営業部長と共にその大手メーカーに乗り込み、うまく契約をまとめた帰りの日に、幻想郷に迷い込んでしまった。
幻想郷、しかもよりにもよって魔法の森に迷い込み、○○は一人右往左往としていた。
家に帰る道の途中が急に森になり、どうしたらいいか分からず困惑するのは当たり前である。
そのまま森で一晩過ごすはめになり、妖怪に襲われ命からがら走って逃げるというハプニングにも遭遇し、散々な目にあってようやく見つけたのが魔理沙の家だった。
◇
「あの時のお前の剣幕といったらすごかったなー。『何でもしますから助けてくださいいいいいいっっ!!』って。妖怪かと思って危うくマスタースパーク撃ちそうになったぜ。」
「……あのな、魔理沙。」
○○と魔理沙が初めてであった時のことをはしゃぎながら話す魔理沙を、○○は半ば睨みつけるように見る。
「昔話は大変結構だが、俺に何の恨みがあってこんなことをするんだ?」
そう言った○○は今、比較的片付いた魔理沙の一室に敷かれた布団の上で身を横たえていた。
「別にお前に恨みなんかこれっぽちも抱いてないぜ?親切に布団まで貸してやってるのに何を言ってるんだ?」
「いや、さっきからいくら体に力を篭めてもこれっぽちも動いてくれないんだが。お前、何かしただろう。」
怪訝そうに○○は、自分をソファーのようにして背中からもたれかかっている魔理沙に対して言った。
「あぁ、お前が眠っている間に、しびれ薬の自信作を投与したんだからな、動けくて当たり前だ。」
魔理沙は自信満々な表情でそう○○に言い返す。○○の表情がまたいっそう険しくなった。
あの時○○が昏倒してからどれくらいの時がたったのであろうか、霧雨邸に着いた時は朝だったのに、もう部屋は夕焼けの茜色の光に包まれていた。
しびれ薬が効いている○○は布団から全く動けない。しゃべるのも辛いぐらいだが、それでも必死に口を開いた。
「いやおかしい、恨みがなけりゃいきなり魔法で気絶させて、しかも薬で身動き封じました何てできるわけない。」
「だから別に恨みなんてないって。ただ私はお前と一緒に居たいからこうしているだけだぜ?」
「なっ………」
告白ともとれる魔理沙の爆弾発言に、○○は思わず言葉を失った。
狼狽する心を落ち着かせながら、何の冗談だと魔理沙の顔を凝視する。
夕焼けに染まる魔理沙の顔は、かすかに赤面しており嘘をついている風には見えなかった。
それでも、こんな目にあわされる理由にはならない。こんな酷い目にあわされたのは、あの時暴力団の事務所に連れ込まれた一件以来だ。
やっぱりこいつは嘘をついているに違いないと自分に言い聞かせながら、できるだけ口を尖らせて○○は反論した。
「性質の悪い冗談言うんじゃない。いいからさっさと解放しやがれ、俺は早く帰らないと…。あっ、そうか!」
急に○○は何か閃いたような声を上げる。
「魔理沙もあれか、俺が急に帰るって言うから怒ってんだろ?いや、お前が俺を思ってくれる気持はありがたいんだがな、向こうで大事な家族が待ってるんだよ。
悪いとは思ってるが、俺の気持ちも察してくれ、頼む。」
いつも通りの乱暴な口調だが、声色を柔らかくして、必死に○○は懇願する。
「……家族か。」
それに対し、魔理沙は感慨深げに目を閉じた。心なしか、その表情は苦しく見える。
「私はな、○○。勘当されて家から追い出されて、今ここで一人でいるんだよ。勘当された理由は、私が魔法使いを志したからだ。」
ここで魔理沙は言葉を区切る。○○は何か言おうとしたが、突然の異様な魔理沙の雰囲気に、言葉が見つからない。
「○○、お前の言っていることはあながち間違ってないぜ。そりゃ腹立たしいさ、これだけ私の心を乱して、帰るって言い出すんだからな。」
そう言うと魔理沙は懐から魔法薬と思わしき緑の液体が入った瓶を取り出す。
「でもさ、本当の理由はな○○。私だって一人でいるのは寂しんだよ。」
そう言うや否や、魔理沙は瓶の中身をいっきに口に流し込んだかと思うと、強引に○○に迫ってきた。
○○はとっさに抵抗しようとするが、身体は全くいうことを聞いてくれない。
眼前一杯に魔理沙の顔が広がったと思うと、無理やり舌で口をこじ開けられ、液体が流れ込んできた。
○○は必死にそれを吐き出そうとするものの、魔理沙の舌が口内を蹂躙するせいで吐き出せなく、やがて息が苦しくなり気管に液体が入り咽たのを皮切りに、喉を無意識に動かしてしまい
液体を飲みこんでしまった。
「んっ…んん…ぷはぁ。おいおい○○、乙女のファーストキスをそんなに拒絶するもんじゃなんてひどいんじゃないか?」
魔理沙がそう言っても、○○は咽てそれになにも言い返せない。それでも何とか呼吸を落ち着けさせ、苦しげに問いかけた。
「魔理沙…、いったい何を……。」
「今飲ませた薬はここ魔法の森の瘴気の中でしか生きていられなくなる薬だ、一度飲んだだけじゃあんま効果ないけどな。
○○、これからずっと一緒だぜ?」
花も恥じらうような満面の笑みを浮かべる魔理沙の笑顔の中に、底知れぬ狂気が潜んでいることを見取った○○の背中に、
重く、冷たく、激しい戦慄が突き抜けた。
感想
- 霊夢「魔理沙ー!魔理沙魔理沙魔理沙ー!」魔理沙「うぇ?なんだよ霊夢」霊夢「この漫画?みたいに私にも来て!ギュだげよ?でもギュだけ!ね?お願い!🙏🏻」魔理沙「はぁーしょうがないな」( -- 魔理沙ー! (2023-11-14 07:26:45)
- ぎゅー 霊夢(んふふっイエイ✌🏻)魔理沙(霊夢…可愛いな❤️)⇦ヤンデレ 続き!なんか間違えて返信になった -- 魔理沙ー! (2023-11-14 07:29:02)
- うわ。最高。 -- 名無しさん (2024-03-25 09:51:24)
- 良い… -- 名無しさん (2024-05-05 15:09:02)
最終更新:2024年05月05日 15:09