夕日が沈む黄昏時、寅丸星に告白された。
ただあまりに予想外であり、外の世界に対する未練もあった俺は、
「毘沙門天様にそんな恐れ多いですよ」
とよくわからん返事をして逃げるようにその場から去った。
何て馬鹿なことをしたのか。明日にはちゃんと謝らきゃいかん。
とりあえず、明日に備えて今日はもう眠らなければ。
激しい雨が降る夜、呼び鈴の音で目が覚めた。
こんな夜分に誰だろう、と用心しつつ扉を開けると、みすぼらしい服に身を包み、びしょ濡れになっている星がいるではないか。
一体何が、と問いを発する前に床に押し倒される。
そのままペロペロと顔中を舐めまわされ、涎で顔がベタベタになる。
驚きのあまり声も出せないでいると、星は俺に馬乗りになったまま穏やかに微笑んだ。
「宝塔も財宝も何もかもを捨てて来ました。今の私は毘沙門天代理ではありません。ただの妖獣です。さぁ、これであなたが遠慮をする必要はありませんね。あ、心配はいりませんよ妖怪と人間の恋愛譚なんて最近じゃ珍しいものじゃありませんから。だから、今度こそ私を受け入れてくれますよね? だって、私は毘沙門天じゃないんだから」
俺は、何も言えなかった。
最終更新:2011年03月04日 01:39