最近、ウドンゲが非常によくやってくれている
家事一式、兎たちの教育、新薬開発の助手
師匠の私としても鼻高々なんだけど、なにかひっかかる
やる気があると言うか、どちらかというといつも何かにうかれていると言うか……

「ウドンゲ、最近ずいぶん頑張ってるわね」
「師匠、分かりますか?」
「見れば分かるわ。なんだかいい事があったみたいだけど、なにかあったの?」
「ええ。恋人ができたんです」
「ふーん、恋人が……………ウドンゲ、私急に耳の病気にかかったみたいなんだけど、良い薬ってあるかしら?」
「失礼ですね」

この はっそうは なかったわ
まさか男ができたなんて、天才といわれた私でも想定外よ

「今日もですけれど、○○さんとデートできた日は一日頑張れるんです」
「へえ、○○って名前なの? あと最近はいつも頑張ってるけれど、それってつまり?」
「………えへへ」

耳をたらして照れるウドンゲ
その姿は、師匠の私といえども悶絶しそうなくらいに可愛い
……いけないいけない、鼻血がたれる前に拭えてよかったわ

「それじゃ、今日はどんなデートをしてきたのか教えてもらおうかしら」
「あ、聞いてもらえますか?」
「いかにも聞いてほしいって顔をして、なに言ってるの」

ここで聞かないなんて言いだしたら、すごくガッカリしそうね
いえ、ガッカリどころか刺されそうな気もするけど



「まず、家を出てきた○○さんの後をついていくところが、デートのはじまりです」
「は?」
「10m以上は近づけません。気づかれてしまいますから」

なんだか、いきなり雲行きが怪しくなってない?
後をついていくって、ストーカーじゃないんだから

「そのまま仕事場の寺子屋までついていって、窓から○○さんの授業を聞きます
 あの人の声を聞いていると、それだけで幸せな気持ちになれるんです」
「……そ、そう」
「でも、時々うるさいのがいて、○○さんのお話が邪魔されるんです
 そんな子供は、寺子屋から出てきたらよ~くお仕置きしてますよ」
「…どんな?」
「お尻にこれを打ち込んでます。私が作った座薬です。一週間は腹痛と下痢が止まりませんが、死にはしません
 もしも死んじゃったりしたら、○○さんに迷惑がかかるかもしれませんからね」
「………」
 
ストーカーじゃないんだから、ってさっき言ったけど、撤回するわ
手を出すぶんストーカーよりたちが悪いわね

「寺子屋から出て行く○○さんの後をまたついていきます
 ○○さんは、いつもその途中にある焼き鳥屋さんで二串食べるのが日課なんですよ」
「……へぇ」

買い食いって、他人に見られてるとすごく恥ずかしいのよね
○○が知ったら何て言うかしら

「そこで○○さんが行った後に私も買っていたんですけど、最近はタダでくれるようになりました
 モモとつくね、○○さんとおんなじの。美味しいですよ」
「タダ?」
「ええ。『お姉ちゃん可愛いから』なんて言ってました」
「……へー」

私はそんなこと言われたことないわよ
若さなの? 若さが足りないって言うの!?

「今日はありませんでしたけど○○さん料理上手なので、ご飯を食べさせてもらったりもするんですよ」
「どうやって?」
「外で食べようとして、庭のテーブルに置いたご飯をこっそり持ってくるんです。ちゃんとお皿は洗って返します」
「……」

それは食べさせてもらってるとは言わない




(数日後)

弟子の不始末は師匠の不始末
なんだか迷惑をかけてるみたいだから、○○には私からお詫びに行く
ついでに、ウドンゲがストーカー行為(彼女いわくデート)をやめてくれるといいんだけど

「(かくかくしかじか)と、いうわけなんです」
「ははぁ……それはまた……」

会ってみると、○○はなかなかに好感が持てる男ね。決してハンサムではないけれど
柔和で物腰が柔らかくて、どこか人をホッとさせる雰囲気の男とでも言うのかしら
ウドンゲが好きになるのも分からなくはないわね
私もあとXX歳若かったら、つまみ食いしたくなると言うか………じゅるり

「あの、目が怖いんですけど」
「あらあら、ごめんなさい」

いけないわね、自重しなきゃ

「でも、今まで僕についてきてたのがそちらの兎さんだとは思いませんでしたよ」
「そうね、まったく迷惑を……」

って、ちょっと待ちなさい

「その口ぶりだと、つけられてるのを知ってたように聞こえるのだけど」
「ええ、知ってましたよ」
「ええ? 知っていたのに放置してたってこと?」
「はい。別に危害を加えようとしていたわけではないみたいですから」
「はぁ~~」

ウドンゲのストーキングもどうかと思ったけれど、この男はそれに輪をかけてすごいわね
神経が図太いというか、物怖じしないというか………ただの馬鹿なのかしら?

「でも、時々あなたの勤め先の生徒に座薬を打ち込んだりしてるらしいけれど」
「あはは、まあ子供にはいい薬ですよ。教育的指導的な意味合いで」
「そんなものなの?」
「そんなものですよ」

そんなものらしい

「あと、あなたがいっつも買い食いをしてる店でウドンゲも買ってるらしいわ」
「ええ。僕が彼女に同じのを出すよう言って、お金払ってますから。理由は知らないけど、毎日ご苦労様って意味で」
「やっぱりね、そんなことだと思ったわ。あと、もしかして外のテーブルにご飯置くのも?」
「それも食べてくださいって意味で。残さず食べてお皿も洗ってくれてるんで、気に入ってくれたかと嬉しかったですよ」
「はいはい、そうね」

ツッこむのがもう馬鹿馬鹿しくなってきた


「でも、ちゃんと声くらいはかけてあげなさいよ」
「はい」





と、いうわけで


「師匠! ○○さんに何を言ったんですか!?」
「なあに? どうしたのよ」
「今朝、家を出るなり○○さんに声をかけられちゃったんですよ!」
「よかったじゃない」
「そ、それで○○さん、いきなり私の頭を撫でて………撫でて……あわわわ」
「嬉しいの? 恥ずかしいの?」
「どっちもです! それから、今日の晩御飯は一緒にどうかって……」
「何て答えたの? 聞くまでもないと思うけど」
「なにも答えてません」
「は?」
「恥ずかしくて恥ずかしくて嬉しくて、つい彼の瞳を直視してしまって」
「つまり、あなたの瞳を真っ向から見ちゃったってこと?」
「……………」
「……早くつれてきなさい。晩御飯までには治さなきゃいけないんだから」
「は、はい!」

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最終更新:2010年08月29日 02:43