○○のことか
ああ、知っている
話せば長い
そう、古い話だ
知ってるか?
彼氏は三つに分けられる
逝ってしまうやつ
屈服して生きるやつ
負けないやつ
この三つだ
あいつは―――
門番 M・H氏の証言
風見さんと○○さんですか?
ええ、よく知っていますよ
情報通? そんなことないですよ
たぶん、私じゃなくても誰だって知っています
あの二人は有名ですからね
幻想郷一おかしなカップルだって
なにせ風見さんといえば、自称とはいえ幻想郷最強の呼び声も高い妖怪ですから
あっ、自称って別に馬鹿にして言ってるわけじゃないですよ
けれど、彼女にはずいぶんと難儀な悪癖があるんです
って、それを聞きに来てるんですから知ってるに決まってるのだと思いますけど
風見さんは、本当に嫉妬深いんです
それはもう、パルスィさんなんて相手にもならないくらいに
ほら、最強なだけにプライドも高いから、自分の所有物を取られるのが我慢がならないんですよ
はい。風見さん、私の目の前でだいたいそんなようなことを言ってましたよ
誰にって、○○さんに向かってですよ
○○さん、買い物の帰りに肉まんを一つ私にくれたんです
嬉しかったですよ~ まだ冬の寒さも残ってる時期で、空腹と寒さに震えていたところでしたから
けれど偶然、そこを風見さんに見つかってしまったんです
え? 嫌ですね。私には下心なんてありませんでしたよ
お二人がお付き合いしていることは知っていましたから
私はものすごい剣幕でがなりたてる風見さんに、少し反発心を抱いてました
○○さんを、完全に自分の所有物として話していましたから
でも、少しでも口ごたえしようものなら、たぶん私はもうここに立てない体にされていたと思います
おそらく、風見さんはそれを待ってたんじゃないでしょうか
強迫観念みたいなものですよ
○○さんを誰かに取られるんじゃないかって、内心いつも怯えていたんじゃないですよ、きっと
だから、何も言えない悔しさを噛み締めながら、私は下を向いて黙って聞いていたんです
その時です。乾いた打音が響いたのは
顔を上げると、○○さんが風見さんを平手で打った瞬間でした
その瞬間、確信しましたね
ここで、○○さんの生が果てるんだなって
けれど、風見さんは呆然としていました
なにがおこったのかわからない、ってかんじで
そこに○○さんの怒声がかぶさったんです
俺はお前の物じゃない! って、もうものすごい剣幕で
その後、何が起きたと思います?
涙を流したんです、あの最強の妖怪が
私は ああ、明日は雹が降るのかなぁ、なんてことを考えてたのを今でも覚えています
でも、ただでさえ冷たい空気が凍ったのはその後でしたね
どこを見ているのか分からないうつろな目で、風見さんが何かつぶやきだしたんですよ
小声すぎてあまり聞き取れなかったんですけど、何かに絶望したような重い感情だけは伝わってきました
私はもう必要ないの? いらないの? そんなこと○○は言わない 絶対に言うわけない
そんな言葉が切れ切れに聞こえてきたんです
もう館に飛び込もうと何度も思いましたよ
ナイフでハリネズミにされるのも嫌ですけど、その場にいるよりはマシに違いないはずですから
でも、その場を収めたのはやっぱり○○さんでした
ブツブツ呟いてる風見さんを思いっきり抱きしめて、キスしたんです
いえ、そんなのじゃなくて、もうすっごく深いほうの
5分くらい、唇をむさぼってましたね
もうさっきとは違う意味で館に逃げ込みたくなりましたよ、ほんと
それで、唇を離して開口一番
俺は幽香の所有物じゃない。風見幽香の恋人、○○だ
これがとどめでした
幽香さんの目に光が戻った、って言うんでしょうか
そのまま、二人で手をつないで帰っていきました
たぶん、私がそこにいるってことすら忘れてたんじゃないでしょうかね
二人をどう思うか、ですか?
う~ん……やっぱり、すてきな恋人同士ですかね
割れ鍋に綴じ蓋、って言葉のほうが似合うかもしれな……
あっ! ここは記事にしないでくださいね、約束ですよ!
このカップルには謎が多い
誰もが狂気の沙汰と言い
誰もが比翼の鳥だという
そしてどちらが被害者で
どちらが加害者か
一体『幸せ』とは何か
村の守護者 K・K氏の証言
実は、私もはじめは○○が無理やりつき合わされているんだと思っていたんだ
私だけじゃない。幻想郷のほとんどの者は○○は被害者だと思っている
ほら、相手があの風見幽香だからな
何が言いたいことはわかるだろう?
しかし、それは違うんだ
その話をしよう
なにせこれは、私個人がまきこまれた話だからな
あれは一ヶ月前だったかな
村に○○が花を売りに来たんだが、余った分を私の寺小屋にわけてくれたんだ
○○にとっては他意のない、厚意からだったんだと思う
けれど幽香からすれば、○○が私に懸想したと感じたんだろう
翌日ここに突っ込んできた幽香の剣幕といったら、それはすごいものだった
その前に妹紅に○○を連れて来るよう頼んだんだが、正直それまで
いきなり、あんたは○○を奪うつもりなのね と言われたんだぞ
それからいろいろと話したが、聞きもしないで無駄に終わった
愛した男しか目に映らない
こちらの言い分を聞かない
重度の被害妄想
ヤンデレ、と言うのか? まさにそれだな
○○が駆けつけるのがあと数分遅かったら、この村そのものが消えていたかもしれない
だからこの村の救世主は、妹紅と○○だな
おい、何を笑ってるんだ?
冗談でも何でもないんだぞ、これは
しかし、駆けつけた○○は……こう言うのもなんだが、カッコよかったな
はは、顔の話じゃないさ。あれはどう見たって十人並み程度さ
立ち振る舞いと言うか、真摯な姿勢かな
まず、恋に狂った幽香の顔をまっすぐ見据えて、いきなり愛してると言ったんだ
彼女、止まったよ
そこから10分ほど○○の一方的なラブトーク
何を言っていたか だって?
勘弁してくれ
口にするのもはばかられるようなほどの愛の言葉だよ
そんなことがあって、ようやく幽香は落ち着いたんだ
これは私の勘だが、こんなことはいたるところで行われていると思うぞ
話題になっていないだけで な
根拠?
少し○○が女性と関わっただけでこれだぞ
他所で何も起こっていないと考えるほうがおかしいだろう?
二人をどう思うか、か?
そうだな……互いに、なくてはならない存在 だな
互いに、というのが大切なんだ
○○もあれで、幽香にベタ惚れなんだぞ
あのラブトークも、全て本心なのは疑う余地もないしな
っと…これでいいか? それじゃ、子供たちも待ってるから戻るぞ
私は、本人に出会ったことはない
彼らが何を思っているのか分からない
けれど、これだけは言えることがある
たとえ、それがいびつな形であったとしても
彼らは強い愛情で繋がった、本当の恋人だと
最終更新:2011年03月04日 01:20