わたしは、春にしか会えない妖精です
けれど、いつも春をたばねたみたいにあったかいあなたのことが、ずっと気になっていたんです
だから、もっとあなたのことがしりたくて、夜のうちにあなたの家にはいって、こっそり日記を読んでしまいました
「△月××日
今日、リリーと湖のほとりで出会う
もうそんな季節かと思うと、春が大好きな自分としては嬉しい
しばらくは桜めぐりができそうだ」
これを読んだとき、わたしは〇〇さんの恋人になれたんです
とってもとってもうれしかったんですよ
え? ……しらなかった ですか?
だってそうじゃないですか
〇〇さんは、春がだいすきなんですから
それから一年たって、また〇〇さんの日記を読んでしまいました
昔のことはごめんなさいです
でも、今のわたしは〇〇さんの恋人さんですからいいんです よね?
「Z月ZZ日
リグルによると蟲の好む気候になってきたらしい
夏が到来だ
暑さには閉口するが、こんなときこそ湖で遊ぶ醍醐味が楽しめると言うものだ
大妖精さんや橙に泳ぎを教えてあげるのも悪くないかもしれない」
「ν月F日
双子の神様によると今日から秋らしく、サツマイモをわけてもらった
慧音さんの寺子屋で、子供たちと焼き芋としゃれこもう
米の実りも良いようで、ご飯の最も美味しい季節がやってきた
体重が増えてしまうのではないかと嬉しい悲鳴だ」
「V月W日
いつものように湖でチルノたちと遊んでいると、レティさんに会った
彼女と会うと冬が来たんだなあと実感する
秋に取れた野菜がまだあるので、今日はルーミアでも呼んで鍋にしようか
やっぱり、冬は大好物の鍋が格別に輝く季節だ」
ねえ、〇〇さん
〇〇さんは春が好きなんですよね?
それなのにどうして、ほかの季節のことをこんなに楽しそうに書いてるんですか?
しかもほかの女の子のことまで
〇〇さんにはわたしという彼女がいるのに、ひどいですよ。ぷんぷんですっ。
でも、わたしもだめでしたね
恋人どうしなのに、春にしかあえないんですから
だから今日は、すっごくいいアイディアをもってきたんですよ~
えへへ きっと〇〇さんもびっくりですっ
……何か ですか? それはですね~
わたしは、春以外はここにいられません
これはきまりでして、どうしようもないんです
そこでわたしは、ぎゃくてんのはっそうをしたんですっ!
わたしがここにこられないから会えないから、春以外は会えない
ぎゃくにかんがえるんです
〇〇さんが、わたしといっしょにきてくれればいいやってかんがえるんですっ
だって、〇〇さんには春以外の季節なんて、いらないですもんね
ふたりでおはなししたり、ごはんをたべたり、えほんをよんだりしていれば
あっというまにつぎの春がきちゃいますよ
あれ、どうして逃げようとするんですか?
わたし、なにかおかしなこと言っちゃいましたか?
……ここにいたいって 〇〇さん、わがままいっちゃ めっですよ
〇〇さんだっていけないんですから
わたしがいるのに、ほかの季節や女の子にうわきなんてしちゃ、ぜったいにだめなんですからねっ!
……え? なんでわたしたちが付き合ってることになってるのかって……
はぁ 〇〇さん、わたしのはなしをちゃんと聞いていてくれたんですか?
だって、わたしたちは両思いじゃないですか
〇〇さん、日記に書いていたじゃないですか
春
のことが、だいすきだって
わたし
X月BD日
妹が恋人だと言う男、〇〇を連れて帰ってきた
そいつは何か疲れたようで、少しやつれていたが、妹は終始べったりくっついている
その男も、たまに何か納得いかないような表情を浮かべるものの、たいがいは微笑を浮かべて妹の頭をなでていた
まあ、あの子の子供っぽさは姉の私から見ても気になっていたので、これで少し成長してくれるかと淡い期待を持っておく
しかし、姉の私を差し置いて先に恋人を作るなんて……ちょっと嫉ましい
X月GP日
気になっているのだけど、〇〇はいつまでここにいるのだろう?
そう聞きたいけど、あの子は「〇〇さんはずっとここにいるんです」なんて冗談みたいな事を言うだけだし
本人に聞いてみようにも、いつもくっついている妹がそれを許そうとしないのだ
「〇〇さんはうわきものだから、わたし以外の女の子とはなしちゃだめです。おねえちゃんだってだめですっ!」
なんて言われていた
けど、妹のあんな怒声を聞いたのは初めてかもしれない
私には浮気が出来るほど甲斐性のある男には見えないけれど、妹みたいな好みの娘がたくさんいると言う事にしておく
……自分で書いておいてなんだが、本当だろうか?
S月Ξ日
妹が春を届けに行っている隙に〇〇から話を聞いて驚いた
〇〇はほとんど拉致同然にここに連れてこられ、帰る方法が分からない
しかも、嫌いではないにせよ、あの子と恋人になった覚えすらないと言う
やろうと思えば、私が〇〇を帰してしまうこともできた
でも、今この日記を書いている時点では、まだ妹に問いただしてはいない
だから、私はまだあの子を信じている
S月RX日
まだ、聞けていない
もしも、万一、〇〇の言った事が本当だったら
あの天真爛漫な妹がそんな事をしたのだとしたら
……駄目、私は、あの子を信じなきゃ
G月∀日
……もう、聞くまでもない
夏が始まり、私たちの季節は終わった
来年まではこの家にこもって暮らす事になる
でも、妹は隣の部屋で〇〇と眠っている
それはつまり、〇〇は、自力では帰れないということなんだろう
そんなことをしてはいけない
あの子にそう言いたい
けれど、以前〇〇に話しかけようとしたときの剣幕をまた向けられるのかと思うと、怖い
先月なら私たちは春を届けるために出かける事もあったので、隙はあった
今は、もう24時間〇〇の隣には妹がいる
それでも、私はどうにかして〇〇を帰さなければいけない
妹の不始末の責任を取る意味だけじゃなく、〇〇がいなくなれば、きっとあの子も正気に戻ってくれるはずだから
「おねえちゃん。なんですか、この日記は?」
「あ、そ、それは……」
「〇〇さんはわたしのこいびとさんなんですよ? それなのにここから帰すなんて、なんでですか?」
「……本当に分からないの?」
「? わからないです。〇〇さんは春がだいすきなんですよ。だったら、わたしのそばにいるのがいちばんしあわせなんですよ」
「〇〇はそう言ったの?」
「きくひつようもないです。あたりまえのことなんですから」
「…あなた……」
「……あ、そっか。おねえちゃんがなにを言いたいのか、よ~くわかりました」
「本当に?」
「ええ、おねえちゃんは、わたしがねたましかったんですね」
「え?」
「〇〇さんは、春がだいすきっていってくれました。でも春って、おねえちゃんもですよね
それなのに、わたしばっかりあいされているのが嫌だったんですよね?」
「違う!」
「とぼけちゃ嫌ですよ。わたしにはもうみ~んなわかっちゃったんですから
でも、〇〇さんはわたしのこいびとさんですから、わたしからひきはなそうとしたんですよね?」
「ぜんぜん違う! 私はあなたを心配して……」
「お姉ちゃん! 私は絶対に騙されませんよ!」
「ひっ!?」
「あっ、ごめんなさいです。おねえちゃんがうそをつくから、ちょっとおこっちゃいました」
「嘘なんて……」
「でも、〇〇さんはうわきものですから、もしかしたらおんなじ春のおねえちゃんにも手を出すかもしれません
だから、おねえちゃん」
「……」
「いなくなってください」
「や、やめ……っ!」
「えいっ」
GがつUCにち
きょうから〇〇さんと二人でくらすことになりました
とってもとってもうれしいです
うわきものの〇〇さんも、これですくなくともつぎの春まではわたしだけを見てくれます
おねえちゃんがいなくなったと〇〇さんは言ってましたが、すぐにわすれると思います
だって、いっつもわたしがいっしょにいるんですから
それに、もしかしたら次の春までには、三人めのかぞくがいるかもしれません
そうしたら、わたしがママで〇〇さんがパパです
そのために、これからもっともっとがんばりますっ
最終更新:2015年05月06日 20:32