外来人の集落

幻想郷には、一番大きな人里の他にも集落と呼べる存在はある。
最も木こりや炭焼き職人、狩人達が数戸山中に家を建てている程度だ。

しかし、それ以外の役割を担う里も実は存在するのだ……。



1人の馬に乗った男が、山中を駆け抜けていた。
深くフードを被り、俯いた状態で馬を操っている。
良く見るとフードや背嚢には何やら護符が張られていた。

暫く馬を駆けさせ、とある茂みとしか言いようのない獣道を進んでいく。
とても人が通れないと思えるが、実は下の方はしっかりと踏み固められている。
どうやら、上辺を擬装してあるようだ。

人馬が茂みを抜けた先には、二戸の家があった。
大樹の茂みに隠れるような、上空から見えにくいように建築してある。
他にも住人の工夫か、資材置き場や井戸の上にはネットと草木が被せてあった。

男はゆっくりと馬から降り、家の方へと向かう。
と、男の脚が止まった。いつもはきっちりと閉まっている木戸が半開きになっていた。
警戒しつつ、トン・トトン・トンと戸を叩いた……返事はない。

山刀を手に、男は戸を開けていった。
簡単な作りの家だった。土間と台所と釜のみという農村的な間取り。
しかし、何かがあったのだろう。卓袱台が引っ繰り返され、食事の跡が飛び散っていた。

男は飛び散った料理の渇き具合などを確かめる。
多分、昨日辺りに何かが起きたのだろう。
つい、数日前乾燥品と獣肉を交換した時、男もここで食事をご馳走になったのだ。

土間の方を見ると、何故か布団が敷いてあった……と言うより引っ張り出してあった。
顔を近づけて見ると、白銀色の獣のような毛が幾つも落ちていた。
敷き布団には据えた強烈な体臭と体液が染みついていた。何がここで行われていたかは言うまでもないだろう。

「徹底した擬装……それでも千里眼は逃れられなかったか」

溜息混じりで立ち上がり、戸棚から幾つか乾燥品を取り出し背嚢に入れる。
獣肉は持ち替える事にした。ここの持ち主が戻ってくる事は無いだろう。

「また1つ、逃亡者の村が死んだ」

こうして、櫛の歯が抜けるように、相互共助の一角が倒れた。
今後の逃亡者達の生活は一層困窮するだろう。
嘆息混じりに表に出て、馬に荷物を括り付ける。

「行こうアオ、ここも直、森に沈む……長居をすれば、俺も彼女に捕まってしまう」

男は馬の腹を軽く当て、そのまま道無き獣道を走り去っていった―――。



暫くして、1人の日傘を手にした女性が姿を現した。
女は辺りをキョロキョロと見渡してから、村の片隅に咲いていたタンポポに声をかける。
暫くウンウン頷いていた女性はやがて立ち上がり、にこやかな笑みを歪んだ形に変えた。

「もう……鬼ごっこだけじゃ物足りないわ○○、貴方の事、直接苛めたくなってきたわよ」

女性はクスクス笑いながら日傘をクルクル回し、男が去っていった茂み道へと入っていった。


彼らの逃走は、今日も続く。

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最終更新:2015年08月23日 14:31