あなたを殺して私も死ぬ
なんて意味のない言葉だろう
相手を殺してもその相手が自分のものになるわけじゃない
同じように自分が死んでも何の意味もない
けれどもそれをやらなくてはならないときがある

白楼・楼観の二刀をよく研ぎ石の上に滑らせる
私の生涯最後の仕事だ
切れ味が鈍っていたなんて事は許されない
シャッシャッと小気味いい音が私を冷静にさせてくれる
そして最後まで研ぎ終わった刀を鞘に収めて部屋を出る

今あの人―――○○さんは部屋で眠っている
その隣で眠るのは私じゃない
私じゃない女が○○さんの恋人として眠っている
私以外の女が○○さんに抱かれている
それがどうしても許せない

足音と気配を殺して障子を開ける
無防備な寝顔の○○さん
隣には幸せそうな顔の女
私に生き写しの顔
そこに眠るのはもう一人の私

半霊が恋をするなんておかしいでしょうか
それでも私は恋をした
本体と同じ人を愛してしまった
人型になれても霊体と肉体では到底勝ち目はなかった
それでもどうしても諦められなかった

鞘走る音を立てず抜いた楼観剣
その切っ先を○○さんの胸に突き立てる
刀を抜くと同時に傷口に懐紙を当て血が流れないようにした
先に逝っていてください
私もすぐにその後を追いますから

切腹の支度はすでに部屋に整っている
つくづく私は剣士なんだなと思う
一つ気になるのは本体のことだ
私が死んだ時本体は死ぬのか生きるのか
これから死ぬ私には別にどうでもいいことなのだけれど

腹部に熱い痛みを覚えると同時に闇が視界を閉ざす
私以外誰も救われない結末
けれど自分にはこの結末以外ありえなかった
ならば私は胸を張って舞台から降りよう
願わくば彼岸であの人に出会いませんように

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最終更新:2011年03月04日 01:07